「今こそ行政と企業の協業が必要」関川村とオプティムが描く農業DX成功への道筋

新潟県の北部に位置する岩船郡関川村は、2007年に「美しい日本の歴史的風土100選」に選ばれるなど、豊かな自然に恵まれた村です。人口は約5000人、世帯数は1800戸ほどで、60代〜80代の人口が最も多い、典型的な高齢化が進む地域となっています。

主な産業は農業で、米が最も大きな栽培面積を占めています。米どころとして知られる新潟県内でも特に食味の高いブランドである「岩船産コシヒカリ」の代表的な産地です。

村の総面積約300平方kmのうち、標高100m以下の地域は約15%しかないという、典型的な中山間地です。しかも耕地は総面積のわずか5%で、それ以外は森林です。国の特別豪雪地帯にも指定されており、農作物が栽培可能な期間も他地域に比べて短めですが、豊富な雪解け水と村の中央を流れる荒川の豊富な水源に恵まれています。

そんな関川村が、にいがた岩船農業協同組合、新潟県農業共済組合、関川村土地改良区などの農業機関、そして農業IoTを推進している株式会社オプティムと提携し、「関川村農業DX推進協議会」を設立。先進的なスマート農業の研究・開発に村として協力しています。2022年5月に行われた「ドローン4条直播」の実証実験もそのひとつ。今後は防除も協働しながら進めていくとしています。

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今回は、そんな農業DX推進協議会を立ち上げた関川村の加藤弘村長に、設立のきっかけや目的をうかがいました。そこには、立場も目的も異なるからこそ、双方が得意とする分野で農業DXを協力して進めていけるという、官民が協力することの強みがありました。

関川村の加藤弘村長

関川村の稲作を立て直すために


──どの自治体も高齢化、担い手不足がありながらも、それらを解決するためのスマート農業の導入がなかなか進まないという課題を抱えていると聞きます。今回、関川村が農業DX推進協議会を立ち上げたのは、どのような理由だったのでしょうか?

加藤村長:もう10年くらい前から、関川村も高齢化で後継者がいない、耕作放棄地もどんどん増えるという状況にあります。さらに、ここ数年で米価もどんどん下がっていて農業所得も維持できない。要は、農業にどんどん魅力がなくなってきているわけです。

新潟県としては、稲作だけでなく果樹や園芸にも力を入れようと旗振りもしているのですが、とりわけ園芸は稲作と比べて人手がかかり、関川村みたいに高齢化している地域では、取り組もうにもなかなか難しい状況があるのです。

なので、まずは稲作をしっかり立て直さなければなりません。そのためには、生産コストも抑えなければならないし、若い人が参入しやすいような職場を作ってあげないと参入もしにくい。村の中でも圃場整備をして大区画化を推進してきていますが、これを契機にスマート農業をどんどん進めていかないと、日本の農業に未来はないと思っています。

そんな時に、村の農業法人から、ドローンやIoTでスマート農業に取り組んでいる会社があることを知りました。近隣の新発田市などでもすでに実践しているということで、だったら手を組んで進めていこうということになり、DX推進協議会を作ったわけです。


──スマート農業というと、まだまだ資金のある大規模農業法人や、先進的な取り組みに挑戦的な生産者が中心という印象があります。関川村では村を挙げての取り組みになっているところが、他の自治体とは異なりますが、なぜ自治体自ら取り組まれているのでしょうか?

加藤村長:新潟というと「コシヒカリ」がおいしいお米と認知されていますが、その中でも「岩船産コシヒカリ」というのは独自のブランドを持っています。とりわけ関川村産のコシヒカリは美味しいという評判もあちこちからいただいており、もちろん、村としても米をひとつの産業としなければなりません。

けれども、最近は農機具も高いし、働いても儲けが出てこない。単に今までの農業の延長線上で働いているだけではジリ貧になって後継者もいなくなってしまう。

そのような中で、私の思いからすれば、若い人が明るい職場で楽しく働ける環境を願うとしたら、やっぱりIT技術やスマート農業を実現しないとそうはならないでしょう。オプティムさんには関川村を実証の場として使っていただいて、情報発信としても使っていただければ、お互いにウィン-ウィンになるという思いもあったわけです。

関川村を実証の場として農業DXを進めたい


──協議会の取り組みは、関川村自体の魅力を伝える、魅力を高めるという意味でもあるんですね。技術的な連携だけでなく、若い方が村役場に出向されて、人材交流をしているともうかがいました。

加藤村長:人材交流は、観光、農業などで5名ほどいらっしゃいます。

いま、脱炭素社会への転換が話題になっていますが、自然環境が豊かな関川村で脱炭素をもっと進めたいと思っています。脱炭素の取り組みを契機に民間企業に関川村に参入していただいて、さまざまな先進的な実証実験を行ったり、地域を活性化させるためのツールとして活用していただきたいと考えていたんです。

脱炭素は日立系列会社で海外でエネルギー開発に携わってこられた方、行政DXはマイクロソフトの子会社である米アバナード社の方、観光ではサントリーの方と、元博報堂の方にご協力いただいています。

みなさん、さまざまなITを使いながら、職員が省力化で楽になり、住民からは便利になり、ランニングコストもかからない、そういう行政のDX化をお願いしています。個性豊かな方ばかりで、新型コロナもそれほど発生しないような穏やかな村に、それこそ賑やかな方たちに来ていただいて、さまざまな情報や刺激をもらいながら、村を活性化していきたいと思っています。

──今回はドローンによる播種を視察されましたが、実際にドローン播種をご覧になって、いかがでしたか?

加藤村長:ドローン自体は私も以前から見たことはあったのですが、視察にいらしていた方たちが、「将来(農業は)こういうふうになっていくんだろうなぁ」と話していたことが印象的でしたね。ドローン播種がもっと定着して、それこそ関川村での実証実験の成果がどんどん広がっていけばと思っています。


オプティムさんには人材交流で出向もしていただいていますが、行政と民間企業が協力していくというのは、互いにいいこともたくさんあります。企業同士で連携・提携する場合と比べると、競合することがありませんからね。利益を求める民間企業と、住民や地域に貢献することが目的の行政とでは、目的がそれぞれ異なるからこそ、ウィン-ウィンのパートナーになれるんだと思います。

若手の農家さんの中にも、先進的な取り組みに積極的な方もいますし、そういう方が役所の人間や企業の方と一緒にやることでよりいい関係になれると思いますよ。

※ ※ ※

コストもアイデアも互いに出し合いながら、住民にも理解してもらえる関係性を構築しつつ、新たなスマート農業の開発や実証事業を進めることは、関川村のような規模の村だからこそ柔軟に進められるという強みもあります。

特に、村が音頭をとることで、地域の生産者の理解も得られやすくなり、スマート農業に積極的な方、逆に否定的な方も含めて、一緒に試行錯誤していけるようになります。このことは、技術開発を進めるオプティムのような企業にとっても有益です。今回のドローン播種を皮切りに、オプティムが進める適期防除などの仕組みも今後実証していくとのことです。

関川村とオプティムの官民協力のかたちは、農業DXを進める上で地方自治体と企業が協力するモデルケースになるかもしれません。

関川村
http://www.vill.sekikawa.niigata.jp/
オプティム 農業×IT
https://www.optim.co.jp/agriculture/


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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。