「毎年同じように作業しているのに、収量が安定しない」

「雑草や病害虫の管理に手間がかかる」

「以前よりも追肥や防除の効果が薄れてきた」

──そんな経験はありませんか。

水稲栽培は日本農業の根幹を支える作物ですが、気候変動やコスト増加が進む中で、以前と同じように作っているだけではうまくいかないケースも増えています。

こうした状況を打開するために、先達から受け継がれてきたノウハウや自身の経験だけでなく、あらためて水稲栽培の基礎技術を見直すことが課題解決の第一歩になるかもしれません。

この記事では、土づくりから収穫までの流れを追いながら、水稲栽培の基礎知識を整理し、それぞれの技術がどうつながり合って収量や品質に影響するのかを解説します。日々の作業を振り返るきっかけになれば幸いです。

苗の質が収量を左右する ── 土づくりと健苗育成

「苗の出来が悪いと、その後の収量まで響く」 ──これは多くの生産者が感じているでしょう。

秋までしっかり育つ苗を作るためには、土壌のpHを適正に保ち、有機物を施用して地力を維持することが基本です。これにより根の発達が促され、養分吸収が安定します。

健苗育成では草丈や根量を適正に保ち、移植後の活着を早めることが重要です。苗の質が悪ければ、その後の水管理や防除を徹底しても効果が低下してしまいます（出典：農林水産省「水稲栽培のポイント」https://www.maff.go.jp/j/seisan/gijutsuhasshin/techinfo/attach/pdf/suitou-2.pdf）。

つまり、次の工程を活かすためにも「土と苗」が出発点になります。

水深管理が苗立ちと雑草に影響する ──水管理の重要性

毎年同じ田んぼで育てているはずなのに、「水深の管理は難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか。

水深が浅すぎれば雑草が繁茂し、深すぎれば苗立ちが阻害されます。農林水産省の資料では、乾田直播栽培で水深が5cmを超えると苗立ち率が顕著に低下すると報告されています（出典：農林水産省「作物共通基盤技術 レーザー均平技術」 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_manual/pdf/1_1.pdf）。

適切な水管理は、苗の生育を安定させるだけでなく、雑草や病害虫の管理にもつながります。ここで水環境を整えることで、次に紹介する防除や雑草管理の効果も安定します。

防除効果を高める ──病害虫防除と雑草管理

病害虫や雑草の管理は、収量や品質を守るために欠かせません。 病害虫防除は発生予察情報を活用し、適期に防除を行うことが基本です。前年の防除効果を振り返り、効きにくかった薬剤や散布時期を見直すことで、より適切な防除体系を組むことができます。農薬は必要最小限に抑え、施肥や水管理など耕種的防除（肥培管理や輪作など）と組み合わせることが重要です。

雑草管理では、田植え直後の雑草の広がりを抑えることが後の苗の生育を左右します。田植え前後の除草剤の使い分けや、草種に応じた体系処理を行うことで、発生を安定して抑制できます。さらに、中干しや水深調整など、基本的な水管理を適切に行うことで、薬剤の効果を引き出しやすくなります。

こうした基礎的な取り組みを積み重ねることで、防除の効果は安定し、作業の手間も軽減されます。

技術を支える基盤 ──圃場均平化の役割

ここまで述べてきた苗作り、移植後の水管理、病害虫や雑草の防除などを行っても、「水が片寄ってしまって効果がばらつく」「除草剤の効きが不安定だ」 ──そんな悩みを解決するのが圃場均平化です。

水深を均一に保つことで、苗の生育や除草剤の効果が安定します。従来は経験や勘に頼った整地が中心でしたが、近年はGPSレベラーやレーザーレベラーの活用で精度と効率が飛躍的に向上しています。

圃場均平化は単独の技術ではなく、均平化だけを行ったとしても効果は限定的です。むしろ、普段から行っている土づくり・水管理・防除といったあらゆる作業の効果を支える役割を持っているのです。

品質を守る最後の工程 ──適期収穫と乾燥

無事に稲穂が実ったところで最後に細心の注意を払いたいのが収穫時期。タイミングを逃すと品質が落ち、歩留まりも低下します。

籾水分が20〜25%程度の段階で収穫することが推奨され、未熟収穫は歩留まり低下、過熟収穫は胴割れ米や品質劣化を招きます（出典：農林水産省「水稲栽培のポイント」https://www.maff.go.jp/j/seisan/gijutsuhasshin/techinfo/attach/pdf/suitou-2.pdf）。

収穫後の乾燥工程では、急速乾燥による胴割れを防ぐため段階的な乾燥が望ましいとされています。ここまで積み重ねてきた基礎技術を、最後に品質として結びつける重要な工程です。

基礎をつなげて未来の収量を守る

水稲栽培の基礎技術は、単なる作業の積み重ねではありません。 土づくりから健苗育成、水管理、防除、圃場均平化、そして適期収穫まで──それぞれの工程が連動し、全体として収量と品質を安定させる仕組みを形づくっています。

・苗の質が良ければ、その後の水管理や防除が活きる
・水管理が整えば、雑草や病害虫対策の効果が安定する
・圃場が均平であれば、水深や薬剤の効きが均一になり、作業効率も向上する
・適期収穫と乾燥が徹底されれば、品質を守ることができる

このように、基礎技術はひとつひとつが独立しているようでいて、実際には強く結びついています。どこか一つが欠ければ、他の工程の効果も十分に発揮されません。

だからこそ、改めて「基礎をつなげて考える」ことが重要です。 現場の作業を振り返り、どの工程に改善余地があるかを確認することからはじめてみませんか？ 小さな見直しが積み重なれば、収量の安定や品質保持につながり、持続的な経営改善の基盤となります。

水稲栽培は毎年繰り返す営みですが、その中で基礎を深め直すことが、未来の収量を守る最も確実な方法です。