「畦畔除草」は“作業”から“仕組み”へ ──負担を軽減する省力化と年間管理設計のススメ

水稲の畦畔除草は、毎年のルーティンでありながら、気温が上がると一気に草が伸び、年間の農作業の中でも負担が重くのしかかる作業のひとつです。一般的には、田植え前、出穂時期、収穫後の越冬前などに行われますが、「また草刈りの季節か……」と億劫に感じる方も多いのではないでしょうか。

高齢化と担い手不足が叫ばれる農業の現場からも、

  • 草刈りの体力的負担が年々大きくなっている
  • 畦畔の長さが増えるほど作業時間が膨らむため、規模拡大の壁になっている
  • 危険を伴う作業でもあるため、後継者に引き継ぎづらい

といった声が聞かれます。

さらに、肥料価格の変動や人手不足など、農業を取り巻く環境が変化する中で、畦畔管理の効率化に関心を持つ農家が増えており、除草に関する技術も進化しています。

また、自分の圃場だけでなく、近隣の他の農家にも影響が及ぶ心配もあり、耕作放棄地の問題などとともに地域での課題とされることも増えています。

この記事では、畦畔除草の負担の背景から省力化の手段、年間管理の組み立て方までを、現場で活かしやすい形でまとめていきます。


畦畔除草特有の大変さとは


畦畔除草の負担を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、作業量は圃場の面積ではなく“畦畔の長さ”で決まるという点です。

同じ10aでも、外周が長い圃場ほど畔の面積が増え、草刈りにかかる時間が長くなります。また、畦畔では、雑草の根が畦を支える役割も持っているため、除草剤を使いにくいという構造的な事情があります。根まで枯らしてしまうと畦が弱くなり、水田からの水漏れや崩れの原因につながるため、草刈りが中心になりやすいのです。

そのため、畦畔が長い圃場ほど、草刈りの負担から逃れにくく、作業時間が膨らみやすいという負担構造が生まれてしまいます。

ただし、圃場の形状は簡単には変更できないことが多いため、自分の圃場はもちろん、新たに増やしたり追加で請け負ったりする際には、圃場の形によって負担も変わってきます。

こうした背景を踏まえると、次に考えるべきは、「どうすれば草刈りそのものを楽にできるのか」という視点です。


草刈りの負担を大きく変える最新の省力化手段


畦畔除草の省力化を考えるうえで重要なのは、従来の手作業による“刈払機での草刈り”と、最新の省力化手段では、作業の性質が大きく異なるという点です。

まずは従来の作業を簡単に整理します。

■Before:従来の刈払機による草刈り



  • 刈払機を担ぎ、法面を上下しながら刈り進める
  • 草丈が伸びるほど刈りにくく、作業時間が増えがち
  • 夏場は熱中症リスクが高い
  • 法面の角度によっては転倒の危険もある

これは、「人が機械を操作しながら、身体を使って草を刈る作業」です。そのため、体力的な負担が大きく、作業環境によっては事故のリスクも伴いやすい側面があります。

■After:最新技術・サービスを活用した除草作業


では、最新の技術を使うと草刈り作業はどれほど楽になるのでしょうか。ここでは、負担軽減の度合いに応じて、省力化手段をステップに分けて整理してみましょう。

ステップ1:半自走式草刈機(ウイングモア・スパイダーモア相当)

刈払機が作業者が本体を持って刃を動かす必要があるのに対して、半自走式の草刈機はタイヤなどで地面に接地しており、掃除機のように作業者が支える必要がありません。刃部分も露出していないため、安全面でのメリットもあります。

価格は刈払機よりも高額になりますが、安全性、作業性、身体的負担は大幅に軽減することができることから、導入しやすい省力化ステップとして最初に選ばれやすい手段と言えるでしょう。

半自走式草刈機のメリット
  • 刈払機よりも安定して刈れるため、腕や腰への負担が軽くなる
  • 機体が自ら進むため、操作する力が少なくて済む
  • 法面でも滑りにくく、一定の高さで均一に刈りやすい
  • 草丈がやや伸びていても作業スピードが落ちにくい




ステップ2:自走式・リモコン式草刈機

半自走式よりもさらに省力化と効率を上げられる手段として、自走式・リモコン式の草刈機があります。近年多くのメーカーが開発を進めており、選択肢もかなり広がりました。

半自走式と比べて、作業者が直接動かす必要がなくなったことで、さらに作業負担が軽減されます。「草が伸びすぎた」「法面が急で怖い」といった場面でも安定して作業できるようになります。

自走式・リモコン式草刈機のメリット
  • 機体が自走するため、作業者の負担がかなり少ない
  • リモコン式なら離れた場所から操作でき、危険な法面でも安全
  • 草丈が高くても一定速度で処理しやすく、作業時間が読みやすい
  • 長時間の作業でも疲れにくく、高齢の作業者にも扱いやすい


ステップ3:農作業代行サービス

最新技術を搭載した草刈機を使うことで畦畔除草の作業負担は大幅に軽減できますが、作業者が確保できない繁忙期などには、1日がかりで作業者が取られてしまいます。また、草刈機の導入コストや毎年のメンテナンスコストもばかになりません。

そこで今後ニーズが増えていくと考えられているのが、畦畔除草といった特定の作業を委託できる農作業代行サービスです。

年間の作業スケジュールを立てて依頼することで、作業者が少ない農家や法人でも確実に除草を行えます。作業を丸ごと任せるというよりも、自分の作業負担を軽くするための柔軟な選択肢として活用できると考えるといいでしょう。

もちろん作業委託のための費用はかかりますが、さまざまなコストが高騰している情勢下で、高額な草刈機を購入するよりもかえって経費を節約できるかもしれません。

農作業代行サービスのメリット
  • 繁忙期の草刈りを一時的に外部化でき、作業バランスが整いやすい
  • 少人数経営や高齢の家族でも圃場を維持しやすくなる
  • 危険な法面作業をプロに任せられ、事故リスクを抑えられる
  • 自分では導入しにくい機械(自走式・リモコン式)を使って作業してもらえる場合もある
  • 「毎回頼むのは難しい」と感じる場合でも、繁忙期だけ/一部の圃場だけ/年1回のリセットだけといった部分利用がしやすい

先端的な畦畔草刈り技術の導入により、作業時間の削減の効果は各地で報告されています。

例えば、石川県の実証では、従来の刈払機による作業と比較して、リモコン草刈り機など省力的な草刈機を使用した場合、作業時間が43〜51%削減されることが確認されています。
(出典:石川県農林総合研究センター 中山間地域の水田畦畔法面に対応した草刈機の省力効果

また、農林水産省が紹介するリモコン式草刈機の実証では、慣行の刈払機作業と比べて作業時間が約20%削減できるとされています。
(出典:農林水産省 リモコン草刈機

これらの技術は、単に作業時間を短縮するだけでなく、法面に降りずに作業できることによる安全性向上や、高齢者でも扱いやすいことによる作業継続性の確保といった効果も期待されています。


畦畔管理を“年間の省力化体系”として組み込む


畦畔除草についてどのような方法を選ぶかは、圃場の条件、農家の規模、作業スタイルによっても変わりますが、負担を減らすための選択肢が広がっていることは間違いありません。

ただし、どの方法を選ぶにしても最も重要なのは、畦畔除草という作業を“単発の対策”ではなく、年間の管理体系として組み込むことです。

どれだけ優れた省力化技術や機材を導入しても、管理のタイミングや年間の流れが整っていなければ、作物の生育や病害虫対策といった、畦畔除草の本来の目的・効果を十分に発揮しにくいという課題があります。

畦畔管理は、「草を伸ばさない」「草を生やさない」「作業を外部化する」という3つの視点を組み合わせることで、年間の負担が大きく変わります。

■畦畔除草の省力化のコツ


  • 草丈を伸ばさない「早めの1回」で後の作業を軽くする
  • 植生管理(芝生化など)で草刈りの頻度そのものを減らす
  • 繁忙期だけ代行サービスを活用する“部分外注”を有効活用する

こうした工夫を組み合わせることで、年間の負担を大きく抑えられるケースも出てきています。島根県の事例では、法面の芝生化により、草刈り回数が年1回程度に減った地区もあると報告されています。
(出典:島根県 大田管内における畦畔除草労力軽減の取り組み

つまり、技術×タイミング×年間設計の3つを組み合わせることで、畦畔管理は“作業”から“仕組み”へと変わり、負担を大きく抑えられる可能性が高まります。


「農作業のQOL向上」という“見えにくいメリット”


畦畔除草の省力化は、作業時間の短縮だけでなく、農家の生活の質(QOL)そのものを高める取り組みでもあります。

たいていの畦畔除草は、雑草がある程度伸びた状況で行われるため、夏場の炎天下での熱中症などの危険を伴う作業になりがちです。そのため、精神的にも早く作業をしなければならないという「草に追われる」ストレスが大きくなります。だからこそ、省力化の効果は作業時間以上に、生活全体のゆとりとして返ってきます。

■農作業のQOL向上のポイント


  • 夏場の危険作業が減り、体調管理がしやすくなる
  • 休日を確保しやすくなり、家族との時間が増える
  • 規模拡大の障壁が下がり、経営判断に余裕が生まれる
  • 後継者が取り組みやすい作業体系になり、継承リスクが減る
  • “草に追われる感覚”が薄れ、精神的なゆとりが生まれる

畦畔管理の省力化は、「作業を減らす」だけでなく、「暮らしを軽くする」取り組みと言えます。


今年こそ畦畔除草を見直そう──今日からできるファーストステップ


畦畔除草は、毎年のルーティンだからこそ改善の余地が大きい作業です。そして、最新技術や年間の管理体系を組み合わせることで、時間・体力・安全性・精神的ゆとりのすべてを同時に改善できる可能性があります。

「今年は少しでも楽にしたい」そう感じた瞬間が、見直しのタイミングです。

といっても、いきなり大きな投資をする必要はありません。まずは、自分の圃場の現状を知ることから始めてみましょう。 その小さな一歩が、今年の農作業を大きく変えるきっかけにつながります。

  • 自分の圃場の畦畔長を測り、負担の“見える化”をする
  • 年間の草刈り回数と作業時間を記録し、改善余地を探す
  • 最新技術や代行サービスの費用感を調べ、試算してみる
  • まずは繁忙期だけ外部化する“部分導入”から始めてみる

畦畔管理が少しでも楽になると、作業のゆとりが生まれ、経営にも前向きな判断がしやすくなるはず。今年こそ、畦畔除草を見直し、負担の少ない水稲経営へ一歩踏み出してみませんか。




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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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