薬剤に頼らないジャンボタニシ対策──「均平化」で初期生育を守ろう

近年、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)による水稲の初期食害が、全国で問題視されています。多くの自治体から警報などが出され、さまざまな対策も講じられてきました。

ジャンボタニシは田植え直後の柔らかい苗を積極的に食べるため、発生が多い圃場では初期生育が大きく乱れやすくなります。苗が食べられて欠株が増えたり、かじられた苗の生育が遅れたりと、圃場全体の生育バランスが崩れやすくなり、最終的には収量低下につながる恐れがあります。

さらに被害が進むと、欠株・生育ムラによる収量低下や、補植作業の増加による作業負担、薬剤散布の増加によるコスト上昇、「また食べられてしまうのでは……?」という精神的ストレスなど、経営面・作業面の両方に影響が出るほどの問題です。

こうした背景の中で、“ジャンボタニシ被害を抑えつつ、作業負担も減らせる方法”として注目されているのが、圃場の均平化(レベラーによる圃場整備)です。

この記事では、ジャンボタニシの生態を理解し、有効な対策方法のひとつである「均平化」の効果について解説していきます。令和8年度の被害を最小限に抑えるきっかけになれば幸いです。



ジャンボタニシとはどんな生き物?


ジャンボタニシは、1980年代にエスカルゴの代替として食用目的で海外から持ち込まれた外来種です。日本の環境に定着した後は、繁殖力の高さと適応力の強さから各地で急速に広がり、現在では水稲の重要害虫として知られています。

もともとは寒さに弱く、寒冷地では越冬できず被害も限定的でしたが、近年は気温上昇の影響で越冬する個体が増え、特にここ10年ほどで発生地域が急速に拡大しています。

ジャンボタニシ対策で最も重要なのは、発生してから薬剤で抑えるのではなく、被害が出にくい環境をつくることです。浅水管理による行動抑制や、畦や水路に産みつけられた卵塊の除去など、日常的な対策をしていくことが重要です。

卵を持ったジャンボタニシ

ちなみに、昔から日本の田んぼに生息している在来種のタニシ(ヒメタニシなど)は小型で、稲を食害することはほとんどありません。


ジャンボタニシが“特定の場所だけ”苗を食べる理由


このように大きな被害になりつつあるジャンボタニシですが、その食害は圃場全体で均一に起きるわけではありません。実際には、深水になった部分にタニシが集まり、そこだけ苗が一気に食べられるという偏りが起きやすいのが特徴です。

これは、ジャンボタニシが水中での移動・摂食を得意とし、水深が深いほど活動しやすいという生態によるものです。

こうした理由から、浅水管理でジャンボタニシの行動範囲を制限し、苗に近づきにくくすることで食害を抑える効果があるとされています。また、深水部がなくなることで苗が水面上にしっかり出るため、食べられにくい環境をつくることができるのです。

農林水産省のマニュアルでも、「凹凸のある水田では浅水管理が困難で、水深が深くなる場所に貝が集まり、被害を受けやすい」と示されています。(出典:農林水産省「スクミリンゴガイ防除対策マニュアル」


浅水管理を成功させるための“前提条件”が均平化


浅水管理が有効だとわかっていても、圃場には大なり小なりの凹凸があり、深水部は必ず生まれてしまいます。

そこで近年この農閑期のジャンボタニシ対策として注目されているのが、圃場の均平化です。

均平化によって土の高さがそろうと、水が圃場全体に均一に広がり、深水になりやすい場所がほとんどなくなります。 深水部ができなければジャンボタニシが集まる場所も生まれにくくなり、圃場全体の管理が安定して行えるようになります。

つまり、均平化は浅水管理を成功させるための“土台づくり”なのです。


均平化で圃場はどう変わる?


ここでは、均平化によって圃場がどのように変わるのかを、作業者の視点で整理し直してみましょう。

圃場に凹凸が残っていると、どうしても深水になる場所が生まれ、そこにジャンボタニシが集まり苗が食べられやすくなります。その結果、欠株や生育ムラが発生し、補植や薬剤散布などの追加作業が増えてしまいます。また、水深のムラが大きいほど水管理にも手間がかかり、「あちらは深い、こちらは浅い」と調整に追われる場面も少なくありません。

一方、均平化された圃場では水が均一に広がるため深水部ができにくく、ジャンボタニシが集中する場所がなくなることで、苗の初期生育がそろいやすく、補植の必要性も大きく減ります。

また、水管理もシンプルになり、薬剤散布の回数を抑えられる可能性も高まります。結果として、作業負担が軽くなり、精神的にも余裕が生まれます。

特に、田植え後2〜3週間はジャンボタニシの被害が集中する時期とされており、この期間を均平化×浅水管理で乗り切れるかどうかが収量を左右します。
(出典:佐世保高専「ジャンボタニシの密度推定・発生予察技術」


ジャンボタニシ対策だけじゃない! 「均平化」による“複合メリット”


均平化の価値は、なにもジャンボタニシ対策だけにとどまりません。ジャンボタニシ被害を抑えるための取り組みが、結果として圃場全体の生産性向上にもつながる点が、この時期の均平化の大きなメリットです。

こうした“ジャンボタニシ対策としての効果と、圃場改善の相乗効果”が得られることが、現場で均平化が注目されている理由のひとつです。

レベラーを使った均平化の様子

●収量の安定
苗の初期生育がそろうことで、分げつが均一になり、収量のバラつきが減ります。

●肥料の効きムラが減る
水深が均一になることで、肥料の拡散が均一になり、効きムラが起きにくくなるという副次効果があります。

●水管理の省力化
深水・浅水のムラがなくなるため、「あっちは深い、こっちは浅い」という調整作業が激減します。

●代かきの効率化
均平な圃場は代かきがスムーズで、作業時間の短縮・燃料の節約にもつながります。

●心身の負担軽減
苗が食べられる不安が減り、精神的なゆとりが生まれます。

つまり、均平化は、

タニシ対策×作業性向上×収量安定

を同時に実現できる、非常にコストパフォーマンスの高い取り組みなのです。

そして、

  • 深水部ができにくくなり、ジャンボタニシの集中を防げる
  • 初期生育の乱れや欠株の発生を抑えられる
  • 浅水管理が安定し、ジャンボタニシが近づきにくい環境を維持できる

といった、ジャンボタニシ被害の軽減に直結する効果が期待できます。

ただし、圃場全体に関わる作業であるため、時間や費用の面で気になる点が出てくるかもしれません。だからこそ、まずは自分の圃場の現状を把握することが、無理なく始められるファーストステップになります。

  • 圃場の水深ムラをチェックする
  • 深水になりやすい場所を地図化する
  • 均平化の作業委託や代行サービスの費用感を調べる
  • 地域の営農指導員に、圃場の状態や均平化の適性、活用できる補助事業について確認する

ジャンボタニシの被害は、放置すれば毎年のように悩まされる問題です。しかし、圃場づくりの段階で“深水をつくらない環境”を整えれば、被害を大きく減らすことができます。

今年の田植えを、もっと安心して迎えるために。

そして、収量をしっかり守るために。

まずは一歩、小さな改善から始めてみませんか。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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