農業資材・肥料・燃料が高騰する理由とは? 農家ができる現場での対策を考える

春の作業準備が本格化するこの時期、ビニールやマルチ、防虫網、誘引ひも、出荷用の段ボールやパックの見積書を見て「今年もまた高くなった」と感じる方も多いでしょう。

農林水産省の農業物価統計によると、2020年を「100」とした農業生産資材価格指数は、令和8年1月時点で141.4となっており、基準年と比べて約4割高い水準となっています。肥料や飼料、燃料などの価格はピーク時より落ち着いた品目もありますが、農業生産資材全体としては依然として高い水準で推移しています。

出典:農業物価統計調査 農業物価指数(令和8年1月)-令和2年基準-

また、ロシアによるウクライナ侵攻が5年目に入り、米国・イスラエルとイランを巡る中東情勢の緊張も重なって、原油価格が急騰しています。2026年の農作業シーズンを前に、このエネルギー価格の上昇が農業資材や物流コストにも波及しています。

こうした価格の動きは、農家それぞれの努力や仕入れの工夫だけで解決できるものではありません。資材・肥料・燃料には、原材料や供給の多くが、国際市場と結びついているという共通点があるためです。

価格に影響する主な要因としては、原油や天然ガスなどの資源価格の変動、海上輸送やコンテナ不足などの物流環境の変化、各国の輸出規制や自国優先政策、そして為替レートの動きが挙げられます。これらの要素が複合的に重なることで、市場価格が形成されます。

農家個人が国際価格を直接動かすことはできません。しかし、価格変動の要因を正しく理解し、現場に届いた資源を無駄なく生かす管理を積み重ねることは、これからの農業経営を考える上で大きな力になります。今回はそんな視点で、具体的な方法を考えてみましょう。



農業資材:「消耗品」から「設備」という視点へ


農業で使用される資材の多くは、プラスチックなどの素材で作られています。ビニール、マルチ、防虫ネット、結束資材、段ボールなどの出荷資材は、石油由来の原料を含む製品です。

価格に影響する主な要因には、原油などのエネルギー価格の変動、海上輸送やコンテナ不足などの物流環境の変化、各国の輸出規制や自国優先政策、そして為替レートの動きなどがあります。

こうした価格変動の背景には、主に3つの構造的な要因があります。

(1)原材料の海外依存
プラスチック原料の価格は資源市場の動きに連動しており、エネルギー価格の変動が製造コストに反映されます。

(2)国際物流
資材は製造から流通を経て農家の手元に届くまでに複数の地域をまたぐため、海上運賃や輸送環境の変化が調達コストや納期に影響します。また、コンテナ不足など物流環境の変化や、各国の輸出規制、自国優先政策、為替レートの動きにも左右されます。

(3)資源国の政策
資源を持つ国々が自国産業や食料供給を優先する動きを強めることで、輸出条件や供給量が変化することがあります。

こうした背景を踏まえると、資材を「消耗品」ではなく「設備」として扱う視点が重要になります。具体的には、トラクターなどの農機と同様に管理対象としてとらえ直し、耐用期間を意識した扱いをするという考え方です。

例えば、プラスチック資材の劣化要因の1つとして、紫外線が知られています。使用後に圃場へ放置するのではなく、汚れを落として日光を避けた場所で保管するだけでも、資材の状態を保ちやすくなります。

また、出荷資材については、産地全体で規格を共通化し、まとめて調達することで単価を抑えるといった取り組みも有効です。



肥料:土壌診断を前提とした施肥設計


肥料の主要成分である窒素、リン酸、カリウムは、世界的に産出地域が偏った資源であり、国際需給の影響を受けやすい性質を持っています。

特に窒素肥料は、原料であるアンモニア合成に天然ガスを使用するため、エネルギー価格の変動が製造コストに直結します。

また、日本は肥料原料の多くを輸入に依存しているため、為替の変動が国内価格に直接影響します。たとえ国際価格が下落しても、その影響が国内価格に反映されるまでに時間差が生じるため、購入タイミングによってはコスト増になることもあります。

こうした状況の中で現場で取り組めるのが、土壌診断を踏まえた施肥量の見直しです。電気伝導度(EC)などの指標を使って土壌中の養分状態を把握することで、圃場に残っている養分を確認できます。その結果をもとに、必要な分だけ施肥量を調整できます。

土壌pHも養分吸収に関係します。多くの作物ではpH6.0〜6.5程度が目安とされており、石灰資材などで酸度を調整することで養分吸収環境を整えることができます。

肥料の保管も日常管理の一つです。湿気による固結は散布ムラにつながるため、保管環境を整えることも重要です。


燃料:季節ごとの使用特性


燃料価格は原油市場の影響を受けるため、農家が直接コントロールできる要素ではありません。そのため、季節ごとの燃料使用の特徴を踏まえた管理が重要になります。

例えば、春・秋はトラクターやコンバインの稼働が増える時期。エアフィルターの清掃やオイル交換といった基本整備を行い、燃焼状態を整えておくことが燃費の安定につながります。

夏は施設の換気設備などの電力消費が増えますが、遮光資材などで施設内への日射を抑えることで、燃料を使用する空調設備などの稼働時間を短縮できます。

冬は暖房の燃料使用が最も大きくなる時期です。地域によってはどうしても必要なものですが、暖房設備の清掃やハウスの隙間補修を行い、保温環境を整えることが燃料節減の基本となります。



国内物流の構造変化


農家自身が購入・使用するものだけでなく、近年は国内物流の環境も変化しています。ドライバーの労働時間規制(いわゆる2024年問題)の影響により、運送費の上昇や配送体制の変化も進んでいます。

資材や肥料の調達においても、配送料の値上げや納期への影響が出るケースが増えています。小口の頻繁な発注は配送コストを押し上げるため、まとめて調達するといった工夫も効果があります。

こちらも、地域やグループで資材規格を統一し、共同購入を行う取り組みは、物流効率の改善と単価引き下げにつながります。


節約から活用へ ──資源を生かす管理の心得


資材・肥料・燃料の価格変動は、農業経営を取り巻く環境変化の一つです。現場でできることをまとめると、次のような取り組みが挙げられます。

  • 現状を把握する
燃料使用量・資材費・肥料費などを作期ごとに整理し、前年と比較することで、どの工程でコストが変動しているかを確認できます。

  • 機械・設備を定期的に整備する
作業前の点検や定期的な清掃、エアフィルター・オイルといったエンジン寿命を伸ばすための消耗品の交換を行うことで、燃料消費の抑制と故障リスクの低減につながります。

  • 資材を適切に保管する
被覆資材やネット類は使用後に汚れを落とし、直射日光を避けて保管することで劣化を抑え、使用期間を延ばすことができます。

  • 地域で連携する
産地によってはすでに実施していますが、近隣の農家の間でも資材規格をそろえ、共同購入・共同配送などを行うことで、資材単価と物流コストを抑えることができます。

これらの取り組みの多くは、特別な知識やコストは必要ありません。日々の農作業の中で当たり前に行っていることを徹底し、もし行っていなければ意識を変えるだけで、少しずつ効果が見えてきます。

また、地域での連携は、厳しい状況下だからこそ、同じ悩みを抱えている農家同士で協力しやすい時期とも言えます。

これ以外にも、地域での堆肥活用やリサイクル資材など、資源循環を経営に取り入れる動きも広がっています。

資材・肥料・燃料の価格変動が続く中で、資源を無駄なく生かす管理の積み重ねが、これからの農業経営を支える基盤となるでしょう。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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