農業における「ソーラーシェアリング」とは 農業・エネルギー双方の課題解決のための期待
新しい食料・農業・農村基本計画が2020年(令和2年)3月31日に閣議決定され、足腰の強い稼げる農業の実現を大きく掲げています。他方、2019年(令和元年)12月にスペインで開催されたCOP25において、世界からは、日本の停滞する地球温暖化対策に対して、強いコミットを求められました。
このように、農業とエネルギー、どちらの分野も大きな課題に直面しています。今回は、双方の課題解決への貢献が期待されている「ソーラーシェアリング」について紹介します。
農業者の立場からは、作物生産による農業収入に加えて、固定価格買取制度(FIT)を活用した売電収入の確保や、農業機械・揚水ポンプ等への動力補填といった自家利用による営農コストの削減が可能となります。このように、農家所得を増やす一石二鳥の営農スタイルとして、導入事例が増えてきています。
今、農業分野においては、農家所得の向上や耕作放棄地の解消等が大きな課題となっています。他方、エネルギー分野においては、地球温暖化対策等の観点から再生可能エネルギーの拡大が強く求められています。
双方の課題を解決するwin-winの取組みとして、「成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)」においては、「太陽光を農業生産と発電とで共有する営農型太陽光発電の全国的な展開を図る」と位置づけられています。
他方、「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2018年度版 農林水産省)」をみると、水稲、大豆、野菜、果樹、茶、花卉など多様な作物を対象にした事例があります。このことから、パネル設置密度を調整して遮光率を変えることにより対応できるものと考えられます。
代表的な栽培事例は次の通りです。
真夏の強光の調整による日射と気温の抑制、日光の当たり方の違いを利用した作期分散、日陰の創出による夏場の作業労力の負担軽減、冬の霜除けによる凍害防止などが図られ、収量向上と品種選択拡大の効果が得られています。
具体的には、農業収入がアップ(収量増)、売電収入が約4,000万円/年(36円/kWh)に対して、設備資金返済が約2,000万円/年(10年)、営農コストがダウン(売電収入で光熱費を負担)と、農家所得の向上につながっています。
遮光を利用して付加価値の高い覆い茶の品種を導入するとともに、安定した売電収入が見込めるようになったことに伴い新たに複合摘菜機を導入し、農作業のコスト削減を図っています。
具体的には、農業収入がアップ(付加価値増)、売電収入が約250万円/年(36円/kWh)に対して、設備資金返済が約170万円/年(13年)、営農コストがダウン(省力機導入)と、農家所得の向上につながっています。
農地にソーラーパネルを設置するための支柱を立てるに当たって、コンクリート基礎など農地でない箇所ができるため、一時転用の許可を農業委員会経由で都道府県知事等から得なければなりません。その許可に当たっては、営農の適切な継続が確実か、周辺の営農上支障がないか等がチェックポイントとなります。
具体的には、営農上の留意点として、農作物の生育に適した日射量を保つための設計となっているか、支柱は効率的な農業機械等の利用が可能な高さ(最低地上高2m以上)となっているか等を満たす必要があります。
また、一時転用許可期間は、これまで一律3年で更新を都度行わなければなりませんでしたが、担い手が下部の農地で営農を行う場合や、荒廃農地を活用する場合などは、10年に延長すると、2018年(平成30年)から緩和されています。
ここで注意しなければならないのは、送電線には電気を流せる容量に上限があるため、空き容量がどの程度あるのか、また、接続工事にかかる費用負担が、発電出力規模や送電線網の状況などによって異なってくるということを、事前に把握しておく必要があるということです。
したがって、ソーラーシェアリングの計画の具体化作業と併行して、電力会社への相談を早めに進めることが重要です。
例えば、太陽光発電の場合、同制度が創設された2012年(平成24年)度においては、10kW以上は一律40円(税抜き)だったのに対して、その後の技術進展や導入拡大に伴う製造コストダウンが段階的に反映されて、2019年(令和元年)度は、10kW以上500kW未満にあっては14円(税抜き)、500kW以上にあっては入札制度で決定となっています。
今後も見直しが予想されますので、最新の動向をウォッチしながら、採算性の確認を行う必要があります。
以上、ソーラーシェアリングについて、具体的な事例や、導入時に必要な手続き、留意すべき点について書きました。
農業政策、農村政策、エネルギー政策、環境政策などさまざまな分野に利益をもたらす取り組みです。農業者の方々、エネルギー事業者の方々など、ご参考になれば幸いです。
一般社団法人ソーラーシェアリング協会
https://solar-sharing.org/
食料・農業・農村基本計画(令和2年3月31日 閣議決定)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-13.pdf
成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日 閣議決定)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2019.pdf
営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2018年度版)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-26.pdf
このように、農業とエネルギー、どちらの分野も大きな課題に直面しています。今回は、双方の課題解決への貢献が期待されている「ソーラーシェアリング」について紹介します。
「ソーラーシェアリング」とは何か
「ソーラーシェアリング」は、またの名を「営農型太陽光発電」と呼ばれています。田んぼや畑の地面に支柱を立てて太陽光パネルの屋根をつくり、上部空間で発電するとともに、パネルの間から生じる日射を用いて下部空間で今まで通り営農を行うものです。同じ農地において太陽光を営農と発電とで共有することから、ソーラーシェアリングと呼ばれています。農業者の立場からは、作物生産による農業収入に加えて、固定価格買取制度(FIT)を活用した売電収入の確保や、農業機械・揚水ポンプ等への動力補填といった自家利用による営農コストの削減が可能となります。このように、農家所得を増やす一石二鳥の営農スタイルとして、導入事例が増えてきています。
今、農業分野においては、農家所得の向上や耕作放棄地の解消等が大きな課題となっています。他方、エネルギー分野においては、地球温暖化対策等の観点から再生可能エネルギーの拡大が強く求められています。
双方の課題を解決するwin-winの取組みとして、「成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)」においては、「太陽光を農業生産と発電とで共有する営農型太陽光発電の全国的な展開を図る」と位置づけられています。
全国の主なソーラーシェアリングの取組事例
太陽光パネル下での栽培になるので、ソーラーシェアリングに適した作物は、光飽和点(光合成速度が上昇しなくなる光の強さ)の低いものと一般的に言われています。他方、「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2018年度版 農林水産省)」をみると、水稲、大豆、野菜、果樹、茶、花卉など多様な作物を対象にした事例があります。このことから、パネル設置密度を調整して遮光率を変えることにより対応できるものと考えられます。
代表的な栽培事例は次の通りです。
(1)花卉の収量向上と品種選択拡大
千葉県内の花卉栽培農家の事例です。30aの農地の上部に太陽光パネル(発電出力1,000kW、遮光率40%)を設置し、スイセン等の花卉を栽培しています。真夏の強光の調整による日射と気温の抑制、日光の当たり方の違いを利用した作期分散、日陰の創出による夏場の作業労力の負担軽減、冬の霜除けによる凍害防止などが図られ、収量向上と品種選択拡大の効果が得られています。
具体的には、農業収入がアップ(収量増)、売電収入が約4,000万円/年(36円/kWh)に対して、設備資金返済が約2,000万円/年(10年)、営農コストがダウン(売電収入で光熱費を負担)と、農家所得の向上につながっています。
(2)茶の付加価値向上と省力機械導入
神奈川県内の茶栽培農家の事例です。4aの農地の上部に太陽光パネル(発電出力49.5kW、遮光率70%)を設置し、茶を栽培しています。遮光を利用して付加価値の高い覆い茶の品種を導入するとともに、安定した売電収入が見込めるようになったことに伴い新たに複合摘菜機を導入し、農作業のコスト削減を図っています。
具体的には、農業収入がアップ(付加価値増)、売電収入が約250万円/年(36円/kWh)に対して、設備資金返済が約170万円/年(13年)、営農コストがダウン(省力機導入)と、農家所得の向上につながっています。
ソーラーシェアリングの実施に必要な手続きや留意点
(1)農地の一時転用
太陽光発電設備を農地に設置するためには、農地法に基づく手続きが必要です。農地にソーラーパネルを設置するための支柱を立てるに当たって、コンクリート基礎など農地でない箇所ができるため、一時転用の許可を農業委員会経由で都道府県知事等から得なければなりません。その許可に当たっては、営農の適切な継続が確実か、周辺の営農上支障がないか等がチェックポイントとなります。
具体的には、営農上の留意点として、農作物の生育に適した日射量を保つための設計となっているか、支柱は効率的な農業機械等の利用が可能な高さ(最低地上高2m以上)となっているか等を満たす必要があります。
また、一時転用許可期間は、これまで一律3年で更新を都度行わなければなりませんでしたが、担い手が下部の農地で営農を行う場合や、荒廃農地を活用する場合などは、10年に延長すると、2018年(平成30年)から緩和されています。
(2)電力会社との系統連携
発電した電力を売るためには、電力会社の承諾手続きを経て、電力系統に接続しなければなりません。ここで注意しなければならないのは、送電線には電気を流せる容量に上限があるため、空き容量がどの程度あるのか、また、接続工事にかかる費用負担が、発電出力規模や送電線網の状況などによって異なってくるということを、事前に把握しておく必要があるということです。
したがって、ソーラーシェアリングの計画の具体化作業と併行して、電力会社への相談を早めに進めることが重要です。
(3)固定価格買取制度の売電単価の見直し
固定価格買取制度(FIT)を活用した売電単価は適宜見直しがなされています。例えば、太陽光発電の場合、同制度が創設された2012年(平成24年)度においては、10kW以上は一律40円(税抜き)だったのに対して、その後の技術進展や導入拡大に伴う製造コストダウンが段階的に反映されて、2019年(令和元年)度は、10kW以上500kW未満にあっては14円(税抜き)、500kW以上にあっては入札制度で決定となっています。
今後も見直しが予想されますので、最新の動向をウォッチしながら、採算性の確認を行う必要があります。
(4)導入を相談できる窓口
ソーラーシェアリングの取組みの相談先として、一般社団法人ソーラーシェアリング協会があります。同協会は、太陽光発電に関するメーカー、施工事業者等を会員としており、普及等の活動を行っています。以上、ソーラーシェアリングについて、具体的な事例や、導入時に必要な手続き、留意すべき点について書きました。
農業政策、農村政策、エネルギー政策、環境政策などさまざまな分野に利益をもたらす取り組みです。農業者の方々、エネルギー事業者の方々など、ご参考になれば幸いです。
一般社団法人ソーラーシェアリング協会
https://solar-sharing.org/
食料・農業・農村基本計画(令和2年3月31日 閣議決定)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-13.pdf
成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日 閣議決定)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2019.pdf
営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2018年度版)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-26.pdf
【連載】基礎から学ぶスマート農業入門
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