バイエル×アグリノートの「水田雑草テーラーメイド防除」が再生農業を加速する

2023年5月、バイエル クロップサイエンス株式会社(バイエル)と営農アプリ「アグリノート」の開発運営会社であるウォーターセル株式会社との連携・協業が発表された。その連携の成果が2024年春、早くも現れるようだ。

2023年11月15日(水)に開催されたバイエル事業戦略記者発表会にて発表された。

圃場に最適な農薬だけを施用できる「水田雑草テーラーメイド防除」


バイエルは2022年の事業戦略記者発表で、「水田雑草テーラーメイド防除」を導入すると発表した。

「水田雑草テーラーメイド防除」とは、一発処理剤(混合剤)ではなく、圃場の雑草発生状況に応じて単剤を組み合わせて処方することで、トータルとしての農薬使用量を減らし、農業生産者のコスト削減(利益増)と環境負荷低減、ひいては再生農業を同時に実現する薬剤散布手法だ。


「水田雑草テーラーメイド防除」には確かに合理性がありそうだ。大規模水稲生産者であれば、管理する圃場は100枚、200枚は当たり前。それぞれの圃場によって、生えている雑草の種類や生え方は違う。だから薬剤への耐性は圃場により異なる。

しかし、これまで行われていた一発処理は最適解ではなく、大まかには外れていない、というものだった。「水田雑草テーラーメイド防除」なら、圃場ごとに単剤の組み合わせを最適化できるから、農薬使用量を減らすことができる。

この説明からおわかりいただけるとおり、「水田雑草テーラーメイド防除」は大規模生産者がターゲットである。そして今回の記者発表会では、その「水田雑草テーラーメイド防除」の合理性を証明すべく行われた実証の結果が発表された。

最適な有効成分とタイミングにより農薬を70%に削減


バイエル代表取締役社長の坂田耕平氏によると、バイエルは農業生産者の協力のもと、2022年作と2023年作の水稲で実証試験を行った。試験圃場数は約300、面積は90ha。現在バイエルが開発している圃場診断&処方提案ウェブサービス「my防除」を活用して、圃場での実証が行われた。


「左が2022年作。一発処理(混合剤:イノーバワン100ml+マイティーワン100ml+カウンシルワン10ml)と後期剤の2回散布した後の写真です。条間にやや雑草が生え始めているのがわかります。

右が2023年作。1回目にイノーバワン33ml+マイティーワン33ml、2回目にカウンシルワン10mlを散布して、後期剤は散布しませんでした。ご覧のとおり除草効果は同等以上ですが、薬剤散布量を70%削減できました」と坂田氏は胸を張った。


雑草の種類に合わせて最適な有効成分とタイミングで散布することで、農薬使用量を大幅に削減し、散布効果を維持できることが実際の圃場で証明できたという。実証に参加した農業生産者へのアンケートでは、「水田雑草テーラーメイド防除」の総合的な満足度については、「非常に満足」と「満足」の合計が78%と良好であった。


ところが、「my防除」については、他の営農ソフトとの連携を求める声が74%にのぼった。ここで登場するのが、バイエルと連携・協業するウォーターセルの「アグリノート」である。

「アグリノート」との連携により散布記録を省力化


「アグリノート」は日本でトップクラスに普及している営農支援サービスだ。圃場管理、栽培管理ができるほか、GAPにも対応する。最近は他社との連携を加速しており、クボタをのぞく国内3農機メーカー、ヤマハの無人ヘリ&ドローンとの連携を実現した。

また、株式会社スカイマティクスの葉色解析サービス「いろは」、国際航業株式会社のリモートセンシングサービス「天晴れ」、株式会社生科研の「土壌分析サービス」などとも連携している。「アグリノート」側からみると、ここに農薬として初めて「my防除」が加わる。

2023年12月現在、バイエルが公開している農薬関連アプリは、農薬の希釈計算に使える「農薬希釈くん」と、AIで水田の雑草を診断する「MagicScout(マジックスカウト)」の2つ。


「マジックスカウト」で圃場ごとの雑草を診断して、「my防除」で圃場に適した防除体系を提案する。散布時の希釈は「農薬希釈くん」を活用できる。「my防除」に従って散布した記録は「アグリノート」に同期しているから、「my防除」に入力すれば「アグリノート」にも自動で入力される。入力作業の二度手間を省くことができるし、入力エラーや忘れることもない、というわけだ。

アプリ等の活用により生まれるメリット


記者発表会の最後に、パネルディスカッションが開催された。パネラーとして、「水田雑草テーラーメイド防除」の参加者から農業生産法人ソメノグリーンファームで取締役農場長を務める片岡孝介氏と、「アグリノート」を開発・提供しているウォーターセルの代表取締役社長を務める渡辺拓也氏が加わった。

ソメノグリーンファームは140haの圃場を6名の従業員で管理しており、水稲のほか小麦、大豆を生産している。近年は、これまで引き受け手だったような中規模の農業生産者ですら機械の更新を苦に離農するケースもあり、管理面積は拡大の一途をたどっているという。


片岡氏は「my防除」を使用した感想について、以下のように語った。

「規模拡大にともない、経験の浅い従業員に頼らざるを得ません。彼らには経験はありませんし、勘に頼ることもできない。それが外国人であれば、作業すべき圃場に行くことすら難しい、というのが現実です。一方で今の時代、誰でも容易にスマートフォンを使いこなすことができる。『ここを見れば良いんだよ』『これを実行するんだよ』とアプリで情報を共有できるようになる。便利だなと感じました。当たり前のことを教育する無駄を省けることを実感しました」と笑顔を見せた。

ウォーターセルの渡辺氏は連携に至った経緯を説明した。


「現在、『アグリノート』は2万1000の組織が使ってくださっています。大規模化が進み、経験の浅い従事者が増えてくると、片岡さんが指摘したように紙ベースの経営では限界が来る。言い換えると、データ化が必須になります。『アグリノート』はそのためのツールとしてご利用いただいています。

一方で『アグリノート』単体ではできることに限界があるのも事実です。そこで他社との連携を図っているのですが、その過程で出会ったのがバイエルでした。イノベーションを大切にする企業風土、バイエルが目指すリジェネレイティブ農業という価値観にも共感して、共に歩んで行こうと決断しました」と語った。

バイエルには実物として農薬があり、農薬に関する知見があり、新たに「水田雑草テーラーメイド防除」+「my防除」という武器が加わる。「my防除」と連携することは、「アグリノート」ユーザーにとっても朗報となる。

バイエルが農薬使用量削減=売上減少をサポートする理由


しかし一つ疑問がでてくる。「水田雑草テーラーメイド防除」により農薬使用量が70%削減されたら、当然のことながらバイエルの売上は減少する。率直に質問してみたが、坂田氏の回答は明快だった。

「確かに各農業生産者さんの農薬使用量は減少しますが、『アグリノート』ユーザーからの流入が考えられます。ただし、私たちは短期的な視野で今回の連携に踏み切ったわけではありません。『アグリノート』が蓄えているデータをバイエルが活用する、バイエルの知見を『アグリノート』で活用する、この相互活用による生まれる新たな可能性を見出しているのです。それにより弊社とウォーターセル、農業生産者さんとが、Win-Winの関係を築くことができると考えているのです。

その相互連携によるイノベーションの第一歩として、ウォーターセルさんと連携しました。弊社としては、業界をリードする農薬メーカーとして、同じ強者である『アグリノート』と連携したかった、というのは正直なところです。

一方で私たちは、長期的にはさらなる他社との連携を考えていないわけではありません。ほかのサービスがプラットフォーム化することも考えられます。個人的には、将来は何か一つのプラットフォームに頼るのではなく、いくつものプラットフォームができ、それ同士が連携している……そんな時代になるのではないかと考えています」と語ってくれた。

バイエルが見据えているのは、少ない資源で大きな収穫を得る「サステナビリティ」から、よりよい収穫を得ながらもさらに環境再生までつなげる「リジェネラティブ」への変革。そのためには、自らが持つ農業資材と、ドローンなどの農機、営農管理サービスを連携させるイノベーションが不可欠だ。

バイエルの「水田雑草テーラーメイド防除」+「my防除」と、ウォーターセルの「アグリノート」との連携により、農業生産のプラットフォーム化に向けての道筋が、薄っすらと見え始めた。


バイエル クロップサイエンス
https://cropscience.bayer.jp/ja/home/
ウォーターセル
https://water-cell.jp/

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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