集落営農法人は「3階建て方式」の時代へ

全国に1万5000ほど存在する集落営農法人に関するさまざまな調査の結果をみると、多くは後継者の不在や構成員の高齢化などで存続の危機を迎えているようだ。

同法人は地域の農業を維持するうえで最後の砦。消失すれば、誰も耕さない広大な農地がぽっかりと生まれてしまう。

それを防ぐ手立てとして集落営農の「3階建て」を紹介したい。



高齢化による限界を迎えた集落営農

概して集落営農という組織の体制は「2階建て」になっている。1階部分は農地の利用調整や草刈り、用水路の掃除などの公益機能を、2階部分は農産物の生産や加工、販売などを担う。

2階部分については、農家がこなせなくなった農作業の一部やすべてを集落営農法人が請け負ってきた。ところが同法人も設立から時間が経過して高齢化や人手不足が深刻になり、受託するのにも限界を訴えるようになっている。

そこに拍車をかけたのは、企業での定年延長と年金支給の年齢引き上げだ。

60歳になると同時に企業を退職して、集落営農法人に入ってくるはずだった人たちが、生活費を稼ぐために企業に残るようになったのだ。広島県で集落営農を育成しているJAのある職員は「計算が狂った。定年を70歳まで延長すれば、ますます集落営農法人は危機に陥る」と懸念する。

いずれにせよ集落営農法人は次なる展開を早急に検討すべき時期に来ている。そこで先行して始まっている動きこそが、「3階部分」の構築だ。

山口県の例では、連絡協議会というかたちで複数の集落営農法人をフォローしている
複数の集落営農法人やJAなどが共同出資して別の農業法人を設立。その農業法人が3階部分となって、会員の集落営農法人の農作業の一部やすべてを広域的に請け負う。


止まらない高齢化にどう立ち向かうか

自治体で「3階建て方式」に最も力を入れているのは山口県だ。

県は関係機関とともに2015年に「県地域農業戦略推進協議会」を設置。集落営農法人が共同で出資して、農作業の受託や新規事業の展開をする「集落営農法人連合体」の設立を進めていった。

現在までに県内に6つの法人が誕生し、機械や施設の共同利用や資材の共同購入による経費の削減やICTの活用による法人間の作業連携、人材の確保や育成などを図っている。同様の取り組みは広島県で始まっているほか、兵庫県たつの市でも検討されている。

地域の高齢化と人口減少は止めようがない。集落営農に関わる人たちが自分たちの力だけで農地を守るのは、これからいっそう困難になっていくのは目にみえている。

集落営農法人の中核を担う人は少なく、年齢からすればいつ何があるかわからない。同じ課題を抱える集落営農同士で、共同戦線を張ることが早いうちに必要なのではないだろうか。


山口県の次世代の農業・農村の活性化に担う法人を目指して!山口県集落営農法人連携協議会
https://www.y-syuurakueinou.jp/

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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