防除したのに斑点米・不稔が出たのはなぜ? カメムシ対策は『散布回数』より『出穂期』が重要

今年もカメムシ防除したのに斑点米が出た。あるいは、不稔が目立って思ったほど収量が伸びなかった。そんな圃場があったなら、「来年は散布回数を増やそう」と考える前に、今年の出穂日と防除日を照らし合わせてみましょう。カメムシの種類によって加害する時期が異なり、散布のタイミングが被害の出方を左右することがあるからです。

水稲で問題になる斑点米カメムシ類は、針のような口を植物に差し込み、穂や種子の汁を吸う昆虫です。稲が出穂するまでは、水田の周辺や畦畔(けいはん)にも生える ノビエ、メヒシバ、エノコログサ、イタリアンライグラスなどのイネ科植物で生活する種類が多く、出穂に合わせて水田へ移動してきます。

ただし、ひと口に斑点米カメムシ類といっても、その数は全国で30種類以上。地域によって主要種も違うため、「何回散布したか」だけでなく、「どの種類を、いつ防ごうとしたのか」が振り返りのポイントです。


まずは自分の地域の主要種を確認


主な斑点米カメムシ類の特徴を整理すると、次のようになります。分布は変化しているため、あくまで大まかな傾向として見てください。

イラスト原案:SMART AGRI編集部 生成:ChatGPT
主な種類 稲以外の主な寄主 被害・防除上の特徴 地域的な傾向
アカスジカスミカメ ノビエ、イヌホタルイ、牧草など 小型。割れ籾から吸汁して斑点米を生じさせる。水田内の雑草でも増殖する 全国に分布。東北で主要種となっている地域が多い
アカヒゲホソミドリカスミカメ イタリアンライグラスなどのイネ科雑草・牧草 小型。イネ科植物で繁殖し、割れ籾からの吸汁で斑点米を生じさせる 北日本や日本海側で主要種となる地域がある
クモヘリカメムシ メヒシバ、イヌビエ、エノコログサなど 大型。吸汁能力が高い。出穂後に水田へ侵入し、籾を加害する 関東以西が中心だったが、東北にも分布を拡大
イネカメムシ メヒシバ、エノコログサなど。主に稲を好む 稲への選好性が高い。基部斑点米に加え、出穂期の加害で不稔を起こす 関東から九州を中心に拡大。2026年には長野県でも初確認
ミナミアオカメムシ ダイズ、小麦、トウモロコシ、野菜、果樹など 大型。寄主範囲が広く、稲の籾を吸汁して斑点米を生じさせ、ダイズなども加害する 暖地を中心に発生し、近年は関東まで分布を拡大

たとえば、アカスジカスミカメなどへの対策では、畦畔や水田内の雑草管理が重要です。一方、稲への依存度が高いイネカメムシは、畦畔の草刈りだけでは十分な対策になりません。

まずは都道府県の病害虫防除所が発表する予察情報を確認し、その地域で何が増えているのかをつかみましょう。


斑点米と不稔は分けて振り返ろう


斑点米は、カメムシ類が登熟中の籾を吸汁することで発生します。一方、イネカメムシは基部斑点米に加え、出穂期から登熟初期に籾を加害して不稔を起こします。

ただし、収穫物の症状だけで加害種や原因を断定することはできません。不稔には高温や受粉不良など別の要因もあります。栽培記録、圃場で確認した虫、地域の発生予察情報とセットで見直しましょう。

千葉県が2021~2024年度に行った試験では、イネカメムシ成虫は出穂期当日から5日後までに多く飛来し、不稔は出穂期当日から7日後の加害で生じました。

農林水産省が紹介する山口県の試験でも、出穂当日と14日後に登録農薬を散布した区では、不稔籾率が無処理区の57.4%に対して9.2%でした。特定条件での試験結果ではありますが、イネカメムシ対策では、散布時期が収量に大きく関わることがわかります。

イネの成長段階はここを押さえよう
生育の流れ  出穂前 出穂始め 出穂期 穂ぞろい期 乳熟期
イネの状態 茎の中で穂が膨らむ 穂が出始める 全体の40~50%が出穂 全体の80~90%が出穂 籾の中身が白い乳液状になる
カメムシ対策 草刈りは出穂10~15日前までに終える イネカメムシの侵入に注意し、防除の準備を進める イネカメムシによる不稔を防ぐ防除適期 多くの斑点米カメムシ類で防除の目安 発生状況や前回の散布日を踏まえ、2回目の防除を実施・検討
イネカメムシ対策では、穂ぞろい期を待たず、出穂始めから出穂期をとらえることがポイント。

防除日は「何月」より「出穂日」に合わせて決めよう


農林水産省が示す基本的な目安は、イネカメムシによる不稔を防ぐ場合は出穂期、その他の主要な斑点米カメムシ類では穂ぞろい期から出穂10日後頃が防除の中心です。地域によっては2回の農薬散布を標準とし、発生が多い場合には追加防除も行います。

ただし、稲の出穂日は毎年同じとは限りません。早期栽培と普通期栽培では出穂する季節が異なり、同じ地域でも品種や移植日、気温によって差が生じます。各県の公表資料から、防除時期の違いを見てみましょう。

カメムシ対策に関する主な県の公式発表資料まとめ
地域例 出穂・発生時期の例 防除時期の目安
愛媛県 早期栽培と普通期栽培で出穂時期が異なる イネカメムシは出穂期と1週間後
山口県 2025年は8~10月を発生時期として注意報を発表 通常は穂ぞろい期とその7日後。イネカメムシ発生團場は出穂期とその7日後。粒剤の場合は液剤より3~4日早く散布する
千葉県 早い作型では7月上旬頃から出穂 イネカメムシによる不稔対策は出穂始め~出穂期。その他の斑点米カメムシ類は出穂期3日後と15日後頃の2回が目安
宮城県 2026年の県全体の出穂期は8月1日 穂ぞろい期と、その7~10日後の2回を基本
岩手県 2026年7月30日時点では、県全体の出穂期を7月31日頃と予測 カスミカメムシ類は穂ぞろい期1週間後を基本
カメムシに関する各地域の主な情報をSMART AGRI編集部でまとめたもの。地域によって発生時期も対策時期も異なる
これは各地域の代表例で、翌年も同じ日付になるという意味ではありません。品種、移植日、標高、気温によって、同じ市町村内でも出穂日はずれます。

そのため、前年の散布日をそのまま当てはめるのではなく、圃場ごとの出穂状況に加え、発生しているカメムシの種類や使用する農薬を踏まえて防除日を決めましょう。

イラスト原案:SMART AGRI編集部、生成:ChatGPT

草刈りは出穂10~15日前までに終えよう


カメムシ防除は、薬剤散布だけで完結するものではありません。次の順番で作業していくと、対策を整理しやすくなります。

1.移植後から水田内の雑草を減らす
ノビエやイヌホタルイは、カメムシ類の餌や産卵場所になります。農林水産省の総合防除実践マニュアルでは、移植後の5~6月から水田内雑草を除去する考え方が示されています。

2.畦畔や農道の草刈りを早めに済ませる
畦畔や休耕田のイネ科雑草も発生源になります。ただし、出穂直前や出穂後にそれらの雑草を刈ると、行き場を失ったカメムシを水田内へ追い込む可能性があります。なので、草刈りは、出穂10~15日前までに終えるのが基本です。

なお、稲への依存度が高いイネカメムシには、草刈りの効果が限られます。「草を刈ったから大丈夫」と考えず、出穂期の発生確認と薬剤防除を組み合わせましょう。

3.出穂前から予察情報と圃場を確認する
周囲より出穂が早い、または遅い圃場、雑草地や牧草地に隣接する圃場、水田内にノビエなどが残った圃場は、特に注意が必要です。

4.発生種に合わせて薬剤を散布する
イネカメムシが発生している地域や圃場では、出穂期の防除を外さないことが重要です。その他の斑点米カメムシ類は、地域の防除暦に従い、穂ぞろい期から出穂10日後頃を中心に防除します。

なお、農薬は最新の登録内容、使用時期、使用回数、希釈倍数を必ず確認しましょう。一部地域では薬剤感受性の低下も報告されているため、同じ作用機構の薬剤を続けて使わない視点も必要です。

5.散布後も7~10日後に再確認する
散布後に周辺から成虫が再侵入したり、幼虫が増えたりすることがあります。「散布したから終わり」にせず、圃場を再確認し、追加防除の要否を判断しましょう。


「回数」より「対象と適期」を合わせよう


このように、カメムシの種類、発生時期、発生後の対処などを今から準備しておくことで、被害を減らすことができます。来年の計画を立てる前に、次の4項目を圃場ごとに並べてみましょう。

□実際の出穂日
□防除日と使用した農薬
□確認したカメムシの種類や発生量
□斑点米、不稔、収量・等級への影響

単純に散布回数を増やすのではなく、草刈りを終える時期、狙う種類、圃場ごとの出穂期を合わせることで効果的な防除を目指しましょう。


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参考資料
農林水産省「斑点米カメムシ類とは」
農林水産省「カメムシ類の防除」
農林水産省「総合防除実践マニュアル」
農林水産省「米に関するマンスリーレポート」
農研機構「水稲の主要生育ステージとその特徴」
千葉県「イネカメムシの水田での発生生態の解明と防除技術の確立」
長野県「『イネカメムシ』が県内で初めて確認されました」
山口県「令和7年度農作物病害虫発生予察注意報第2号」
宮城県「令和8年産水稲の出穂状況について」
岩手県「令和8年農作物技術情報 第5号」
愛媛県農林水産研究所「水稲疎植栽培に関する試験結果」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。