りんご農家・もりやま園の生産工程可視化&データ分析事例に見る、果樹農家に必要なスマート農業

データを駆使して農業生産工程の管理と分析をするアプリケーション「Agrion(アグリオン)果樹」が普及しつつある。

このアプリの特徴は、同様の他社製品と異なり、木1本ごとに作業を記録するという点である。ITメーカーと共同開発したのは、もりやま園(青森県弘前市)。

「Agrion果樹」の導入によって、果樹農家にどのような変化が生まれたのか。

初回は、代表の森山聡彦さん(49)が本アプリを開発するに至った動機と共に、日本の農業が抱える労働生産性の低さについて触れたい。

森山さん


農業の時間当たり労働生産性は「最低の中の最低の水準」

「地域創生×IT」を掲げるライブリッツ株式会社(東京・品川区)が提供するサービスの一つに、スマートフォンで農作業の記録を付ける「Agrion農業日誌」がある。「Agrion果樹」はこれを果樹向けに改良したものだ。

利用者は木1本ごとに「ツリータグ」と呼ぶQRコードを貼った標識を吊るす。木1本ごとにデータを取るのは一つの畑で複数の品種を栽培しているためだ。

QRコードが付いたツリータグ
まずはスマートフォンでQRコードを読み取り、品種と場所を登録する。以後はその木の管理に訪れるたびに、QRコードを読み取って作業を記録していく。収集したデータは管理されるだけではなく、“労働生産性”という観点からさまざまな分析を行う。その詳細は次回に紹介するとして、今回は森山さんがこのアプリを開発するに至った動機をたどりたい。

それはまさしく日本の農業が宿命的に抱えてきた労働生産性の低さという課題を乗り越えることにある。これに関して説明をするために持ち出した資料は、公益財団法人・日本生産性本部が毎年公開している「労働生産性の国際比較」。森山さんが資料の作成にあたって参考にした2018年度時点で日本の時間あたりの名目労働生産性は4600円だった。

「これは主要国で最低。しかも50年間ずっと最低だそうです」

さらに日本の農林水産業の時間あたりの名目労働生産性は1500円。全産業の中で最も低い。

「つまり農業は最低の中の最低の水準にあるというわけです」


大多数の農家は労働生産性を考えない

森山さんによれば、農業の労働生産性の低さは農家の意識が関係している。

「ほとんどの農家は労働生産性について考えていません。むしろ労働生産性とは逆行しているといえる、ものづくりへの情熱や自負が支配しています。農業の高齢化と人手不足の根本的な原因はここにあるのではないでしょうか。最低賃金にも満たないような稼ぎなので、光熱費や農薬代、肥料代などを支払えば赤字になるのは当たり前なんです。それでも続けられるのは人を雇っていないから。農家の仕事は無償の家族労働で成り立ってきたわけです」

こうした日本の農業が抱える反省は、森山さん自身の経営から生まれたものである。


リンゴづくりから離れられなかった訳

森山さんは、100年以上続くリンゴ農家の生まれ。弘前大学農学生命科学部を卒業後、実家で仕事を始めて、6年前に父から経営を引き継いだ。その時点で経営面積は8.9ha。青森県で農家がリンゴを作る平均的な面積は1.1haなので、ざっと8倍に相当する。

これだけ大規模の経営が成り立ってきたのは、「無償の家族労働があったから」と森山さんは語る。両親は1年を通してほとんど休まずに働いてきた。

森山さんが経営を引き継いだ時点で両親は引退。代わって法人化して人を雇うようになった。結果、初年度で800万円の赤字に陥る。後ほど紹介するいわゆるスマート農業や加工品の開発と販売が軌道に乗るまでの5年間は赤字経営が続いた。

「儲からないのであれば、農業はやるべきではない」。

そう言い切る森山さんが別の仕事を選ばなかったのは、父が50年前に宅地に転用する話を持ちかけられたとき、地域を挙げて反対運動を起こしたからだ。

当時は高度成長期。住宅での需要の高まりから宅地への転用の期待が高まっているころだった。もりやま園は弘前駅から15分ほどの場所にある。いま周囲を見渡すと、学校やホームセンター、住宅などが立ち並ぶ市街地である。そのほとんどはもともと園地だった。

「父は農水省にまで乗り込んでいって市街化区域に入る計画を覆してきたんです」


「Agrion果樹」の原型の開発へ

なぜ森山さんの父は宅地への反対したのか。実はもりやま園の隣にある弘前大学の学生寮がある場所は、もともと「リンゴの神様」と呼ばれる外崎嘉七(1859‐1924)の畑があった場所なのだという。

外崎は、それぞれ病害虫と褐斑病を防ぐ袋掛けとボルドー液の散布など、現在の栽培の基礎を築いた人物である。言ってみれば「リンゴ栽培の発祥の地」なのだ。森山さんは、「だからこそ父はここの農地をなくしてしまってはいけないと言ったんです」と振り返る。

しかし、これは後継者である森山さんにとって大きな責任がのしかかることでもあった。

もりやま園にとっても労働生産性の低さは課題(提供:もりやま園)
「転用に反対して50年が経っていますが、私は有無を言わさず農業をせざるを得なくなりましたからね」

森山さんは代替わりする以前から、無償の家族労働に支えられる経営をするつもりはなかった。

その証左として2008年からポケットに入るくらい小型の携帯情報端末を購入して、作業を記録することを始める。「Agrion果樹」の開発につながる試みだ。しかし、これは続かなかった。従業員にも携帯させて記録をつけてもらっていたものの、入力方法がバラバラだったり不正確だったりして、集めたデータの活用ができなかったのだ。こうした課題を克服するには、データの使い勝手をよくする必要がある。

そこで会社を設立する前年の2014年に地元の商工会議所が主催する「ビジネスアイデアコンテスト」に応募。入賞した補助金で地元のIT企業に依頼して開発したアプリケーションが「アダム」だ。これが「Agrion果樹」の原型である。

次回はもりやま園でのその活用法を紹介したい。


もりやま園 (株) MORIYAMAEN Co.,Ltd. |青森県弘前市の農業ベンチャー企業!
https://moriyamaen.jp/

【特集】果樹農園に必要なスマート農業
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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