生産管理アプリでの分析により、労働生産性を踏まえた品種構成に

農業生産工程に関するデータの管理と分析をするアプリケーション「Agrion(アグリオン)果樹」をIT企業と共同開発したもりやま園(青森県弘前市)。

9.7haのリンゴ園を経営する同社は収集したデータを踏まえ、主に労働生産性の高い品種に改植することを始めている。代表の森山聡彦さん(49)に活用法についてうかがった。


肝心なのは農作物ではなく人の管理

前回述べた通り、もりやま園は地元のIT企業に依頼して、農業生産工程をデータで管理するアプリ「アダム」を2008年に開発していた。

しかし、使い勝手と普及に関しては難があった。前者についてはデータの管理はできるものの、分析まではできなかったという点である。後者についてはサーバーが利用者ごとに必要となり、維持管理にかかる費用が高額なので普及しにくかった。こうした課題を克服するアプリの開発を持ちかけた先がライブリッツ株式会社(東京・品川区)だった。

同様のアプリを提供するIT企業が数ある中でライブリッツを選んだのには理由がある。それはライブリッツがサービスを提供する「Agrion農業日誌」が人を重視したデータ管理の手法を取っていたためだ。

QRコードをスマホで読み取る森山さん
「他社のアプリのほとんどは管理の対象が農作物だけど、僕はそれに関心がない。肝心なのは人だろうと。人を見ないでどうやって経営を発展させるんだよって思ってました。会社として大規模な園地を経営する中で最も困るのは、自分がいないところで従業員は何にどれだけの時間を使っているかが見えてこないこと。それを知りたかったんです」

こうした課題を解決して、「Agrion農業日誌」の果樹版として誕生したのが「Agrion果樹」だ。では、もりやま園ではどのようにしてこのアプリを活用しているのか。


品種ごとの労働生産性が一目瞭然

もりやま園が栽培しているリンゴは43品種。剪定から出荷するまでのすべての作業について、誰が、いつ、どの程度の時間をかけたかを「Agrion果樹」で記録している。その対象は品種ごとの収穫量にも及ぶ。結果、品種ごとの労働生産性が算出される。

Agrion果樹の地図情報(提供:もりやま園)
「このデータを初めて得たときには感激しましたね。誰も持っていない数字なわけですから」

森山さんはそう語ると、パソコン画面で品種ごとの時間あたりの労働生産性を見せてくれた。「こうとく」1万9563円、「ふじ」3637円、「北斗」862円──。品種ごとの労働生産性の違いが如実に現れていた。森山さんが歓喜したのも当然だろう。

森山さんは品種ごとの労働生産性のデータを踏まえて、青森県の最低賃金である800円程度の品種をまずは伐採することにした。その品種は「安祈世(あきよ)」。

「これは作るほどに赤字になる品種です。うちの主力品種である『ふじ』と比べると摘果にかかる時間は2倍かかるのに、収量は3割少なかった」

植えてあった200本以上を伐採して改植していった。今ではその植栽本数はほぼゼロになっているという。

「大紅栄(だいこうえい)も労働生産性が低い。この品種だけで年間300時間も使っていたんです。1300円以下は止めても支障ない。こうやってつぶしていくと、年間で1000時間は削減できてしまうんです」


作業時期の分散化も考慮すべき材料

1点留意したいのは、労働生産性の高さだけを条件に品種の構成を決めるわけではないということだ。もりやま園では品種の75%が晩生種。つまり収穫が11月に偏っている。森山さんは「作業の偏りをなくすためには9月や10月に収穫できる品種を入れる必要があります」と語る。

もりやま園が雇用しているのは常勤が11人のほか、弘前大学の学生のアルバイトが多いときで約30人に及ぶ。

「Agrion果樹」は人によるパフォーマンスの違い、品種別の作業の進捗状況、推定残り時間、労働生産性、年間の作業の割合などさまざまな角度から分析できる。人や作業班でも労働生産性の違いがみえてくる。

「学生さんは週2日くらいの出勤なので、戦力としては、3人で1人分くらいに相当します。無料で使えるGoogle Driveにリンクを共有して、各自が自分のスマホで出番を入力してもらっています。これにより、事前に集まる労働力と推定残り時間とを突き合わせ、期間内に終わらせられるように募集を行ったり、スタッフに進捗を共有したりしています」

データを蓄積することで、品種ごとに木1本あたりに必要な作業労働時間やその内訳が見えてくる。作業を始めてからはその進捗状況に加え、残りの作業に必要な時間も毎日更新される。このため「いつ」「どの場所に」「どれだけの人を」配置すればいいのかという計画も立てやすくなる。

森山さんが目指す時間あたりの労働生産性は4600円。前回述べた通り、これは日本における全産業の平均値である。森山さんはこの数字の意味について次のように説明する。「4600円を超えないと、リンゴ経営を止めて他の仕事をしたほうがいいわけですよ。農業を産業にするための最低条件だと思っています」

では、もりやま園の現在はどうなのか。森山さんが6年前に父から経営を引き継いだ時は推定で1300円だった。それが2020年度は3200円にまで伸びている。データに基づく改植を始めた効果はまだ十分に出ていないので、ここまで伸びた理由は別にある。それは「自動選果機を導入したこと」。言うまでもなく前者では収入を増やし、後者では支出を減らすことを目的としている。

次回は全国でも初めてとなる摘果した果実を原料にしたシードルやジュースなどの加工品づくりについて紹介したい。


もりやま園 (株) MORIYAMAEN Co.,Ltd. |青森県弘前市の農業ベンチャー企業!
https://moriyamaen.jp/

【特集】果樹農園に必要なスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。