今年出た病害虫を残さないために──来年の発生リスクを減らすための収穫後の越冬対策
稲刈り後の水田では、今年発生した病害虫に合わせた管理が必要です。刈株の中で越冬する害虫もいれば、ひこばえを餌にする害虫、土壌中に伝染源を残す病気もあり、収穫後にできる対策はそれぞれ異なります。
例えば、ニカメイガは刈株を深くすき込む一方、スクミリンゴガイは浅い耕うんが有効です。また、スクミリンゴガイには収穫後の石灰窒素散布という選択肢もあり、単純に耕うんすればいい、というわけではありません。
そこで今回の記事では、農林水産省や農研機構が示す具体的な病害虫対策を参考にしながら、今年被害が出た水田を中心に、秋冬にできる作業と翌年に備える対策を見ていきましょう。

収穫後の作業は、発生した病害虫と田面の状態に合わせて決めます。主な病害虫とその対策、作業時期をまとめてみました。
これらの中で複数の病害虫が発生した水田では、被害の程度や作業適期から優先順位を決めて行います。特に耕うんは、対象とする病害虫によって深さや目的が異なるため、同じ設定で作業しないことがポイントです。
イラストはイメージです(イラスト原案:SMART AGRI編集部 生成:ChatGPT)
収穫後に伸びるひこばえは、害虫の餌や生息場所になるため、この段階で適切な処理を行うのが効果的です。
イネ縞葉枯病を媒介するヒメトビウンカは、ひこばえなどを利用する害虫の一つです。農研機構の調査では、縞葉枯病の多発地域で、ひこばえの発病株率とヒメトビウンカの保毒虫率が上昇したことが報告されています。
感染したひこばえからウイルスを獲得した虫が、周辺のイネ科雑草へ移って越冬する場合もあります。このため、縞葉枯病が発生した地域では、ひこばえの早期すき込みが対策になります。
イネカメムシも、ひこばえに穂が出るとそれを餌として利用します。越冬前の成虫に餌を供給しないよう、再生株をできるだけ出穂させないことがポイントです。
田面が乾いて機械を入れられる状態になったら、早めに耕起してすき込むのが効果的です。ぬかるんだ田で無理に作業すると土を練るため、ひこばえの生育と田面の硬さを見ながら時期を決めましょう。
ニカメイガの幼虫は、刈株や被害わらの内部で越冬します。発生した水田では、刈株と稲わらを細かく砕き、土中へ十分にすき込むことで越冬幼虫を減らすことができます。
農林水産省の「総合防除実践マニュアル・イネ編」には、深さ15cm程度、時速約1kmでゆっくり耕起する作業例が掲載されています。刈株を粉砕して埋没させ、幼虫が生き残りにくい状態にする方法です。
さらに、秋耕後の11月から翌年2月末まで湛水する対策も示されています。ただし、冬期湛水には用水の確保が必要で、漏水しやすい田や裏作を行う田では実施が難しい場合があります。
深耕は燃料や作業時間もかかるため、ニカメイガの被害が目立った圃場を優先するなど、必要な場所に絞って取り組みましょう。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)が発生した水田では、収穫後の石灰窒素散布と冬期耕うんが対策になります。ただし、実施時期と条件は異なります。
農林水産省のマニュアルでは、水温17℃以上を確保できる収穫後の時期に、石灰窒素を散布する方法が紹介されています。
作業例は次のとおりです。
石灰窒素から生じる成分によって貝を防除する方法ですが、水温15℃以下では効果が著しく低下します。そのため、冬ではなく水温を確保できる秋の実施が基本です。
また、散布後の田面水は水路へ流さず、漏水を防ぐ必要があります。石灰窒素には窒素成分も含まれるため、翌年の施肥量にも注意が必要です。実施前には製品の農薬登録と使用条件を確認します。
冬期耕うんは、土壌が乾いて硬くなる1~2月が作業の目安です。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は地表近くの土中などで越冬するため、深く耕しすぎると生きた貝を土中へ埋め込むおそれがあります。
農林水産省の作業例では、深さ6cm程度、時速約1kmで耕うんします。トラクターを低速で走らせ、PTO回転を速くして土を細かく砕き、貝を破砕する方法です。
畦畔際やコンバインの旋回跡など、凹凸のある場所には貝が集まりやすく、耕うん刃が届かずに生き残りやすいため、丁寧に耕うんします。ただし、耕深6cmは特定の土壌条件に基づく目安であり、すべての水田に共通する設定ではありません。
また、ジャンボタニシ対策では「圃場の均平化」も極めて重要です。田面に高低差があると、秋の石灰窒素散布時に水位を均一に保てないだけでなく、翌春の「浅水管理(水深1〜2cmに保ち貝の食害を防ぐ手法)」がうまく機能しなくなります。冬の耕うんや翌春の代かきの段階から、できるだけ田面を平らに整えておくことが、翌年の被害を大きく減らす土台になります。
翌春は取排水口への網の設置や捕殺、移植後の浅水管理も組み合わせ、残った貝や水路からの侵入による被害を抑えます。

病気が発生した水田では、秋耕だけで伝染源をなくすことは困難です。収穫後にできる残渣管理と、翌年の育苗や施肥、防除計画を分けて考えます。
いもち病は保菌種子が重要な一次伝染源となり、発病した稲わらなども伝染源になり得ます。
発病したわらや籾殻を育苗施設の近くに放置せず、翌年は健全な種子を確保します。種子消毒には薬剤や温湯による方法があり、種子に適した処理条件を守ることが基本です。
また、窒素過多は発病を助長するため、今年多発した田では施肥量も見直しましょう。
紋枯病は、被害株などに形成された菌核が田面や土中で越冬します。翌春の代かきで浮いた菌核がイネに付着し、感染につながることがあります。
収穫後は発生場所や程度を記録し、翌年の代かきでは浮遊物とともに菌核を除去する方法もあります。多発した田では、窒素過多や過繁茂を避けるため、施肥量や栽植密度の見直しも対策の一つです。
稲こうじ病は、病粒から落ちた厚壁胞子などが土壌に残り、翌年以降の伝染源になります。
種籾に混入した病粒の除去と、土壌中の伝染源への対策は別に考える必要があります。
農研機構は、発生履歴や圃場条件に応じて、田畑輪換や土壌改良資材の施用、適期の薬剤防除を組み合わせる技術を紹介しています。
今年多発した水田では、発生程度と土壌診断結果を踏まえ、翌作に向けた土壌管理を計画しましょう。
斑点米カメムシ類のうち、アカスジカスミカメは秋にヒエ類やメヒシバなどのイネ科植物へ産卵し、卵の状態で越冬します。
産卵前の草刈りは産卵場所を減らす対策になりますが、産卵後に刈るだけでは卵が死滅するとは限りません。
農研機構が示す方法では、秋から早春にかけて産卵植物を土中へすき込み、越冬卵を埋没させます。さらに春は、ふ化した幼虫の餌となるスズメノテッポウなどの雑草を除去します。
春の除草には草刈りや耕起のほか、雑草の種類と場所に応じて登録除草剤を使う方法もあります。
ただし、この発生源対策では周辺の雑草地から虫が移動してしまうため、一枚の田だけでは効果が限られる場合があります。発生の多かった場所を中心に、周辺の休耕田なども含めて管理することが効果的です。
ここまで見てきたように、収穫後の防除では、病害虫の種類に加え、作業できる時期や田面の状態が判断材料になります。
ひこばえの処理は生育が進む前に、ニカメイガの発生田では刈株の粉砕とすき込みを優先。スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は秋の水温が高い時期に石灰窒素散布を検討し、冬は土が乾いて硬い時期に耕うんします。
一方、病気が多発した田では、健全な種子の確保や土壌・施肥管理など、翌年の作付けに向けた準備を進めます。
なお、ここまでの作業は耕うんなどの処理のみで行えるものばかりです。もし農薬で対処する場合にも、使用すること自体を目的とせず、対象病害虫や圃場条件に合った場合に活用することが基本です。
今年の発生状況から必要な作業を選び、秋冬の対策を翌年の被害軽減につなげましょう。
参考資料
農林水産省「総合防除実践マニュアル・イネ編」
農林水産省「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の被害防止対策について」
農林水産省「指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針」
農研機構「イネ縞葉枯病多発地域における発病株率および保毒虫率の推移」
農研機構「土壌改良資材の施用を基本としたイネ稲こうじ病の総合防除技術」
例えば、ニカメイガは刈株を深くすき込む一方、スクミリンゴガイは浅い耕うんが有効です。また、スクミリンゴガイには収穫後の石灰窒素散布という選択肢もあり、単純に耕うんすればいい、というわけではありません。
そこで今回の記事では、農林水産省や農研機構が示す具体的な病害虫対策を参考にしながら、今年被害が出た水田を中心に、秋冬にできる作業と翌年に備える対策を見ていきましょう。

病害虫ごとに収穫後の対策を考えよう
収穫後の作業は、発生した病害虫と田面の状態に合わせて決めます。主な病害虫とその対策、作業時期をまとめてみました。
| 病害虫 | 主な対策 | 時期 |
| ヒメトビウンカ | ひこばえのすき込み | 収穫後の秋 |
| イネカメムシ | ひこばえの早期処理 | 収穫後の秋 |
| ニカメイガ | 刈株・被害わらの粉砕、耕起 | 秋~冬 |
| スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ) | 石灰窒素散布、浅い耕うん | 秋・厳寒期 |
| いもち病 | 発病残渣の管理、種子の準備 | 収穫後~翌春 |
| 紋枯病 | 発生履歴の記録、翌春の菌核対策 | 秋~翌春 |
| 稲こうじ病 | 発生履歴に応じた土壌管理 | 秋~翌作 |
| アカスジカスミカメ | 産卵植物のすき込み、春の除草 | 秋~翌春 |
これらの中で複数の病害虫が発生した水田では、被害の程度や作業適期から優先順位を決めて行います。特に耕うんは、対象とする病害虫によって深さや目的が異なるため、同じ設定で作業しないことがポイントです。
イラストはイメージです(イラスト原案:SMART AGRI編集部 生成:ChatGPT)ヒメトビウンカ・イネカメムシ──ひこばえを早期処理
収穫後に伸びるひこばえは、害虫の餌や生息場所になるため、この段階で適切な処理を行うのが効果的です。
■ヒメトビウンカ
イネ縞葉枯病を媒介するヒメトビウンカは、ひこばえなどを利用する害虫の一つです。農研機構の調査では、縞葉枯病の多発地域で、ひこばえの発病株率とヒメトビウンカの保毒虫率が上昇したことが報告されています。
感染したひこばえからウイルスを獲得した虫が、周辺のイネ科雑草へ移って越冬する場合もあります。このため、縞葉枯病が発生した地域では、ひこばえの早期すき込みが対策になります。
■イネカメムシ
イネカメムシも、ひこばえに穂が出るとそれを餌として利用します。越冬前の成虫に餌を供給しないよう、再生株をできるだけ出穂させないことがポイントです。
田面が乾いて機械を入れられる状態になったら、早めに耕起してすき込むのが効果的です。ぬかるんだ田で無理に作業すると土を練るため、ひこばえの生育と田面の硬さを見ながら時期を決めましょう。
ニカメイガ──刈株を砕いて深く耕す
ニカメイガの幼虫は、刈株や被害わらの内部で越冬します。発生した水田では、刈株と稲わらを細かく砕き、土中へ十分にすき込むことで越冬幼虫を減らすことができます。
農林水産省の「総合防除実践マニュアル・イネ編」には、深さ15cm程度、時速約1kmでゆっくり耕起する作業例が掲載されています。刈株を粉砕して埋没させ、幼虫が生き残りにくい状態にする方法です。
さらに、秋耕後の11月から翌年2月末まで湛水する対策も示されています。ただし、冬期湛水には用水の確保が必要で、漏水しやすい田や裏作を行う田では実施が難しい場合があります。
深耕は燃料や作業時間もかかるため、ニカメイガの被害が目立った圃場を優先するなど、必要な場所に絞って取り組みましょう。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)──秋の石灰窒素と冬期耕うん
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)が発生した水田では、収穫後の石灰窒素散布と冬期耕うんが対策になります。ただし、実施時期と条件は異なります。
■秋は石灰窒素で貝の密度を減らす
農林水産省のマニュアルでは、水温17℃以上を確保できる収穫後の時期に、石灰窒素を散布する方法が紹介されています。
作業例は次のとおりです。
- 稲刈り後、水深3~4cmで1~4日間湛水し、貝を活動状態にする
- 石灰窒素を10a当たり20~30kg散布する
- 散布後も3~4日間湛水を維持する
石灰窒素から生じる成分によって貝を防除する方法ですが、水温15℃以下では効果が著しく低下します。そのため、冬ではなく水温を確保できる秋の実施が基本です。
また、散布後の田面水は水路へ流さず、漏水を防ぐ必要があります。石灰窒素には窒素成分も含まれるため、翌年の施肥量にも注意が必要です。実施前には製品の農薬登録と使用条件を確認します。
■冬は浅く耕して貝を砕く
冬期耕うんは、土壌が乾いて硬くなる1~2月が作業の目安です。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は地表近くの土中などで越冬するため、深く耕しすぎると生きた貝を土中へ埋め込むおそれがあります。
農林水産省の作業例では、深さ6cm程度、時速約1kmで耕うんします。トラクターを低速で走らせ、PTO回転を速くして土を細かく砕き、貝を破砕する方法です。
畦畔際やコンバインの旋回跡など、凹凸のある場所には貝が集まりやすく、耕うん刃が届かずに生き残りやすいため、丁寧に耕うんします。ただし、耕深6cmは特定の土壌条件に基づく目安であり、すべての水田に共通する設定ではありません。
また、ジャンボタニシ対策では「圃場の均平化」も極めて重要です。田面に高低差があると、秋の石灰窒素散布時に水位を均一に保てないだけでなく、翌春の「浅水管理(水深1〜2cmに保ち貝の食害を防ぐ手法)」がうまく機能しなくなります。冬の耕うんや翌春の代かきの段階から、できるだけ田面を平らに整えておくことが、翌年の被害を大きく減らす土台になります。
翌春は取排水口への網の設置や捕殺、移植後の浅水管理も組み合わせ、残った貝や水路からの侵入による被害を抑えます。

いもち病・紋枯病・稲こうじ病──伝染源に応じて対策
病気が発生した水田では、秋耕だけで伝染源をなくすことは困難です。収穫後にできる残渣管理と、翌年の育苗や施肥、防除計画を分けて考えます。
■いもち病
いもち病は保菌種子が重要な一次伝染源となり、発病した稲わらなども伝染源になり得ます。
発病したわらや籾殻を育苗施設の近くに放置せず、翌年は健全な種子を確保します。種子消毒には薬剤や温湯による方法があり、種子に適した処理条件を守ることが基本です。
また、窒素過多は発病を助長するため、今年多発した田では施肥量も見直しましょう。
■紋枯病
紋枯病は、被害株などに形成された菌核が田面や土中で越冬します。翌春の代かきで浮いた菌核がイネに付着し、感染につながることがあります。
収穫後は発生場所や程度を記録し、翌年の代かきでは浮遊物とともに菌核を除去する方法もあります。多発した田では、窒素過多や過繁茂を避けるため、施肥量や栽植密度の見直しも対策の一つです。
■稲こうじ病
稲こうじ病は、病粒から落ちた厚壁胞子などが土壌に残り、翌年以降の伝染源になります。
種籾に混入した病粒の除去と、土壌中の伝染源への対策は別に考える必要があります。
農研機構は、発生履歴や圃場条件に応じて、田畑輪換や土壌改良資材の施用、適期の薬剤防除を組み合わせる技術を紹介しています。
今年多発した水田では、発生程度と土壌診断結果を踏まえ、翌作に向けた土壌管理を計画しましょう。
アカスジカスミカメ──越冬卵と春の餌植物を減らす
斑点米カメムシ類のうち、アカスジカスミカメは秋にヒエ類やメヒシバなどのイネ科植物へ産卵し、卵の状態で越冬します。
産卵前の草刈りは産卵場所を減らす対策になりますが、産卵後に刈るだけでは卵が死滅するとは限りません。
農研機構が示す方法では、秋から早春にかけて産卵植物を土中へすき込み、越冬卵を埋没させます。さらに春は、ふ化した幼虫の餌となるスズメノテッポウなどの雑草を除去します。
春の除草には草刈りや耕起のほか、雑草の種類と場所に応じて登録除草剤を使う方法もあります。
ただし、この発生源対策では周辺の雑草地から虫が移動してしまうため、一枚の田だけでは効果が限られる場合があります。発生の多かった場所を中心に、周辺の休耕田なども含めて管理することが効果的です。
作業時期と圃場条件から適切な対策を選ぼう
ここまで見てきたように、収穫後の防除では、病害虫の種類に加え、作業できる時期や田面の状態が判断材料になります。
ひこばえの処理は生育が進む前に、ニカメイガの発生田では刈株の粉砕とすき込みを優先。スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は秋の水温が高い時期に石灰窒素散布を検討し、冬は土が乾いて硬い時期に耕うんします。
一方、病気が多発した田では、健全な種子の確保や土壌・施肥管理など、翌年の作付けに向けた準備を進めます。
なお、ここまでの作業は耕うんなどの処理のみで行えるものばかりです。もし農薬で対処する場合にも、使用すること自体を目的とせず、対象病害虫や圃場条件に合った場合に活用することが基本です。
今年の発生状況から必要な作業を選び、秋冬の対策を翌年の被害軽減につなげましょう。
参考資料
農林水産省「総合防除実践マニュアル・イネ編」
農林水産省「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の被害防止対策について」
農林水産省「指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針」
農研機構「イネ縞葉枯病多発地域における発病株率および保毒虫率の推移」
農研機構「土壌改良資材の施用を基本としたイネ稲こうじ病の総合防除技術」
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