JA全農「事業承継ブック」から見える親子の農業引き継ぎの難しさと課題

日本の農業は家族経営に支えられてきた。家族で経営している農家の場合、親から子へと事業を引き継いでいくのが一般的だ。
しかし、農業の事業承継にはさまざまな問題が横たわっている。親子ならではの課題も少なくない。親子間における事業承継の難しさとはいったい何だろうか。


迫りくる大量離農の時代

2017年から、団塊の世代と呼ばれる、1947年から1949年に生まれた世代が続々と70歳を迎えることになった。この世代に属する人口は約810万人といわれている。

社会問題といわれて久しい少子高齢化の影響は全産業でみられるが、農業をはじめとする第一次産業が最も顕著といってもいいだろう。JA(農業協同組合)によれば、JAの正組合員の70歳以上の割合は40%を越えている。これから高齢となった農業従事者が次々に離農を始めることは想像に難くない。

このような事態を受け、国としても新規就農者の獲得に力を入れているものの、離農の勢いに新規就農の数が追いついているとはとてもいいがたい。耕作放棄地の増加が依然として止まらないことからも、それは明らかだ。

そこで改めて考え直していかなければならないのが、農業経営の親から子への事業承継だ。国内農業は、そのほとんどが家族経営で成り立っている。その割合は、約98%という極めて高い数字だ。農業経営体数は年々減り続けている一方で、経営体数のうち家族経営が占める高い割合はほとんど変わっていない。
つまり、団塊世代の離農をただ見守るのではなく、子へ世代交代を促していくことが、今後の農業における重要な課題といえる。

親子間での承継のメリットと難しさ

一般的な企業においての事業承継は、先代の経営者が退いた後、後継者の運営をしばらくの間は見守る態勢が整えられていることが多い。一説によれば、事業の承継には、準備に5年、承継後の見守りに5年、前後10年はかかるもの、とされている。

それでは、農業の現場においてはどうだろうか。

実はまだまだ承継の手順については不透明な部分が多く、親世代が動けなくなってから、あるいは親が亡くなってからはじめて動き出す、というのが実態のようだ。しかし、それでは受け継ぐ側の負担があまりに大きい。
そもそも、子が親から農業経営を受け継ぐメリットとはなんだろうか。主に挙げられるのは、次の通りである。

  • 土地、農機、施設などを引き継ぐことができるため、初期投資を安く抑えられる。
  • 栽培のノウハウを直に受け継げる。
  • 親が取引してきた顧客を引き継げる。

いずれも、異業種から新規に就農するケースに比べて大きなアドバンテージがあるといえよう。

しかし、メリットがあるとはいえ、親子間の事業承継には特有の難しさがある。それは、コミュニケーションがうまく取れないということだ。
親が元気なうちは、いつ話し合えばいいのかタイミングがわからないという声もあれば、具体的に何をどんな順番でやればいいのかもわからないという声もある。

なかには、例えば子が「親のやり方は古い。スマート農業など、新しいことを積極的に取り入れるべき」と提案すれば、親は「子はまだ頼りない。まだ何も分かっていない。黙ってみてろ」といった具合に、親子で話し合いを始めてみても感情的になってしまうという、親子ならではの問題が立ちふさがっている。これは、一般企業ではうかがい知ることのできない問題といえるかもしれない。

農家の事業承継に特化した「事業承継ブック」

そんな親子間の事業承継の手助けに、とJA全農が発行したのが「事業承継ブック―親子間の話し合いのきっかけに―」だ。

「JA全農 事業承継ブックー親子間の話し合いのきっかけにー」ダウンロードページ
https://www.zennoh.or.jp/tac/business.html

この本は、「準備編」と「実践編」の2部構成となっている。
準備編では、親子間での承継について、まずはお互いの理解度を確認するための内容になっている。それぞれの家の状況に合わせてイメージがつきやすくなっているのが特徴だ。実践編では、承継作業を5つのステップに分け、ステップごとに設けられたワークシートに記入することで、より具体的に承継計画が進められるようになっている。

「事業承継ブック〜」によれば、農業の事業承継には「目に見えるもの」と「目に見えないもの」がある。

目に見えるものは、「モノ」と「金」。
「モノ」は、農地や農機、設備など。
「金」は文字通り、現金預貯金のほか、契約書や共済であるとしている。

目に見えないものとしては、「人」「情報」「顧客」を挙げている。
「人」とは、従業員、取引先、地域の人との人間関係のほか、ノウハウを伝える親の存在もそれにあたる。
「情報」とは、経営理念や地域、家の歴史。そして、農家としての誇り、としている。
「顧客」とは、文字通りの顧客のみならず、生産者としてのブランドも含まれている。

これらはいずれも、経営を受け継いで成長させていくためになくてはならない大切な資産だ。

以上の5項目が事業承継の最重要ポイントであり、それぞれにおいてチェック項目を挙げて、各家庭においてどれだけ承継が進んでいるのか、あるいは進んでいないのかがわかるようになっている。

まずは親子で対話を始めること

「事業承継ブック〜」で承継の主体としているのはあくまで「子」。子が意識的に取り組んでいかなければ、事業承継は立ち行かないという。
「親」が主導してやるべきところはもちろんあるだろう。しかし、これからの農業は、親世代の培った知識と経験の上に、既成概念にとらわれない子の発想を上手に取り入れていくことこそが重要だとしている。

話し合いにおいて感情的になってしまうのは、それだけ農業に対する熱い思いがお互いにあるということ。今後の農業の発展のために、世代間の考え方や価値観の違いを認め合い、親子だからこそ、お互いを信頼する姿勢で話し合いをすることが大切である、と同書は説く。そのために、親子の積極的な対話を促しているのだ。

最も大事なのは、「事業承継によって、“自分たち”の未来を決めている」という本質を見失わないことだという。
親子で事業承継を考えている農家は、ぜひ一度、手に取って読んでみてほしい。

■関連リンク
JA全農 「事業承継ブック―親子間の話し合いのきっかけに―」発行
http://www.jacom.or.jp/noukyo/tokusyu/2017/02/170205-31938.php
NPO法人農家のこせがれネットワーク
http://kosegarenet.com/
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WRITER LIST

  1. 奥部諒
    東京大学大学院 学際情報学府 修士1年の奥部諒(おくべ・りょう)です。大学院ではプレゼンテーションをテーマに研究を行い、その傍らプレゼンテーションのコーチ、プレゼン関連製品のアンバサダーなどをしています。2018年より大学院を1年休学し、語学学習と企業インターンを行うために日本を離れています。また、プレゼン以外にもドローンの一次産業利用についての調査も企業とともに行っています。現在非常に注目されているドローンについて世界各国の規制や認識を現地で収集できればと思っています!また、同時に各国のドローンと食の関連性についても同様にシェアできればと思います。
  2. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。
  3. 窪田新之助
    くぼたしんのすけ。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。 2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!! 日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!
  4. 大橋博之
    おおはしひろゆき。インタビューライター・編集者・ディレクター。インタビュー専門で執筆。趣味は散歩・人物撮影。URLhttps://garamon.jp.org/Twitterhttps://twitter.com/garamonmini
  5. 山田雄一朗
    やまだゆういちろう。大学院で経営工学の修士号を取得した後、IT企業で営業として6年の職歴を経験。リサーチ力を強みとしたライターとして活動中。主にITや経営、マーケティングに関わる取材記事やビジネスコラムを中心に執筆している。

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