カリフォルニアのコメ生産に学ぶ日本の低コスト栽培に必要なこと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.17】


海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

前回のコラムで、日本とカリフォルニアにおける水田での各種作業機をトラクターで引く「作付け準備作業時間」は、“水田区画の大きさ” “作付面積の大小”にほとんど差がないことをお伝えしました。

ですが現在、カリフォルニアでの200~300馬力の大型トラクター+大型作業機の組み合わせと、日本での50馬力前後のトラクターでは、「時間当たりの作業処理能力」の違いによって、シーズン中のイネ作付け可能面積に違い出てきます。

そこで今回は、カリフォルニアでどのようにコストを削減しているかをあらためて紹介しながら、日本がそこから学べることを考えてみたいと思います。


カリフォルニアでの低コストなコメづくり環境


① 飛行機による直播
カリフォルニアでは、イネの水田への作付けは日本の100%に近い水田で行われている「苗を作って移植」する方式ではなく、100%に近い水田で「飛行機で種を播く直播」方式の作付けを行っています 。

日本のコメ生産コストと比べると、苗作りの時間とコストに加え、田植えのための費用として「飛行機で種を播く費用」が、かかることでその差が現れます。



➁大型で高額ながら、長期間利用できる農業機械
カリフォルニアでの大面積のコメ作りでは
・水田を借りるか、購入するか
・大型機械を購入して自ら耕すか、トラクター作業を作業受託業者や近隣の生産者に委託するか
を選択するのが一般的です。

コメ作りに使う機械類の中で、最も高価で維持費もかかるのは農作業用飛行機です。専門の作業代行会社が購入、あるいはリースを行い、30年以上の期間にわたって農産物生産のために飛ばし、面積あたりの飛行機の減価償却費を推定約140円前後に抑えています。このイネの播種作業代行の仕組みは、肥料や農薬の散布作業にも使われています。


➂地元ローカルの農作業機
トラクターや作業機械類も、大手メーカーの販売代理店から購入あるいはリースで行います。稲作地帯であるカリフォルニア州サクラメント平原には、「Hardy Harvester」という地元の機械メーカーがあり、イネをはじめとする穀物収穫用の「コンバイン・ハーベスター」を製造・販売をしています。

カリフォルニア州では知名度がある機械メーカー「Hardy Harvester」

外観は世界のトップ農機メーカーのそれとは比較になりませんが、機械の時間当たりの処理能力も大きく、何より本体価格が安価でした。修理などのサービスも、ローカルメーカーならではのきめ細い対応で、その地域で生産・栽培されている作物のために専用の作業機を開発し販売をしています。

このような農産物の栽培と販売を行っている地域では、作業に必要な作業機類の供給と修理体制が整っていることも、地域的なマイナーな作物も継続した生産と販売を行うために、大事なシステムの一つになります。


④ カリフォルニアに適した新品種の開発
アメリカでコメ生産を行っているカリフォルニアと南部の5州には、それぞれの州で栽培される品種の開発と、新品種栽培方法の確立を主たる目的として、イネ育種試験場が設置されています。

イネ育種試験場では新しい作業機の開発をはじめ、除草剤・殺虫剤・イネの病気に対する農薬の開発を行っています。それらの販売店や技術アドバイスサービスなども含め、コメ生産関連産業が成立しており、地域の農業生産の基礎の部分を担っています。

育種試験場で開発された種子の開発費や原種の供給などの費用は、生産者が支払う「品種使用料」で賄われています。開発され、登録された品種は、カリフォルニア州内のコメ生産者なら種子を購入し、栽培することができます。

生産者が負担する「品種使用料」は、品種を使って生産した籾に対して支払います。支払う金額は、生産者が栽培・収穫し販売した籾の数量に負担金単価をかけた額で、実際には籾を買い取る業者に品種使用料を上乗せして販売し、籾の購入業者がまとめて育種試験場に支払っています。

生産者は「品種使用料」を支払う事で、育種試験場で開発された品種から栽培品種の選択をして栽培します。高反収品種や、早生種・晩生種など特徴を持った品種の栽培可能となるため、生産者の選択肢が広がります。また、低コスト生産が可能な品種を選ぶこともできるので、市場で販売しやすい品種の選択が可能となり、経営的にもメリットがでます。


自給のために発展した日本独自の「品種開発」と「栽培技術」


日本でのコメ作りでカリフォルニアのような「低コスト栽培」を目指すときに、最も重要でありながらも簡単には供給されないのが、性能の高い新品種の種子です。

日本の稲作は長い間「主食の増産」が最も重要な目標で、その目標達成のために、高反収品種の開発と栽培技術が生産現場に普及されてきました。そのために必要だったのが、日本独自に発展してきた移植栽培であり、高品質米品種を高反収で栽培するための方法でした。

農機具メーカーも、新品種や栽培技術を実践するための作業機の開発販売を行ってきました。田植機や苗づくりのための装置や機械類はもちろん、開発された新品種の種子も、生産者への供給は「改正前の種子法」の中で、国の予算を使った品種の特徴を維持しながら、安定的な種子の生産と流通を担ってきました。

こうした日本のコメ生産用の新品種開発や栽培技術は、国が開発・普及してきたものです。そのため、新品種開発のための資金力と開発技術やノウハウは、民間で競争できるところはありませんでした。

これまでは「コメの自給」という明確な目標がありました。その目標を達成するためには従来の日本の仕組みが最善であり、その成果としてコメの食料自給率はほぼ100%と、目標が達成されています。

しかし、国内のコメ生産・供給量が消費量を追い越した時点で、味の良いコメや市場で有利に売れるコメの品種開発へと、その目的が変化しました。コメ生産県の農業試験場もその地方に合った新品種開発に力を入れ、産地名を付けた品種がたくさん開発・普及されてきました。その結果、低コスト&高反収品種の開発とその栽培技術は、研究開発の主流から外れてしまったのです。



「移植栽培」からの脱却は本当に可能か


カリフォルニアの例でもわかるように、国内外で有利にコメを販売するには「低コストでのコメ生産」が最重要課題だと思いますが、明確な目標にはなっていません。

前述のとおり、日本のコメ生産は国のコメ価格の決定〜買い上げと流通システムの中で、コメ生産者の再生産が国によって保証されてきました。イネの低コスト栽培よりも、高収量を目指す栽培が優先されてきたのは、生産量が増えれば販売収入が増えるからです。

こうした従来の仕組みの中でのコメ生産は、生産コスト削減よりも、生産規模の拡大がコメ作り経営を安定させると言われていました。

もちろん、海外のコメ生産コストとの差については、生産地の気象・土壌・水利など自然環境の違いで、比較が困難な面もあります。また、低コスト生産を目標としたコメ作りは、日本の研究・開発・普及システムでは機能しないのではないかと思います。

例えば、低コスト栽培の代表的な技術である「イネ直播栽培」は、その研究開発と普及に長い時間がかけられていますが成功例は少なく、全国のイネ作付面積の2%程度です。


しかし近年、ドローンがイネの農薬散布などの農作業に利用されはじめ、生産者の方から「ドローンを利用した肥料散布や種子播き作業はどうすればいいのか」などの問い合わせをいただくことが多くなりました。まだ完成された栽培技術でない「ドローンによる直播栽培」の関心が高まりつつあると感じられます。

また、コメ生産者がイネの直播栽培への関心を強く持ち始めた理由は、生産物である玄米の価格が下がったことも、大きいと思います。

生産規模の比較的大きな生産者は、移植栽培のための苗つくりとその関連作業の継続に「人手を手配すること」「作業時間が多くかかること」の対策が必須と考えているのではないでしょうか。

すると、移植栽培にかわって手間と費用を少なくする「直播栽培技術」に、関心を持たざるを得ないのではないかと思います。生産者が必要に迫られて持ち始めた「強い意欲」が、何世紀も続いた日本のイネ移植栽培に、大変革をもたらすのだと私は思います。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。