外国人客が殺到するファームステイの秘密とは?──中込農園(山梨県南アルプス市)

山梨県南アルプス市の観光農園・中込農園には、年間約2000人の外国人が訪れる。国内外から予約が殺到し、受け入れきれない状況が続く。1996年にホームページを作り、翌97年には英語版のページを開設。農業分野にインバウンド需要を取り込んだ先駆者だ。

外国人客が増えたことで、日本人客に不人気になりつつあるリンゴ狩りやカキ狩りの時期も、安定的に誘客ができるようになった。農家に泊まり込みで無償で農作業をするファームステイも、国外から年間200人ほど受け入れていて、果物狩りだけでなく、果樹栽培のための農作業を観光資源として活用する。

中込農園で作業するデンマーク出身の女性(左)とアメリカ出身の女性

日本文化も学べるファームステイに海外から申し込み殺到

中込農園は果樹園の広がる南アルプス市で、4.5ヘクタールの農地を持つ。栽培するのは、サクランボ、プルーン、リンゴ、モモ、ナシなど9種類の果物で、モモだけでも30品種がある。6月のサクランボ狩りに始まって、12月のリンゴ狩りまで長期間、果物狩りを楽しめる。

11月下旬に訪れると、モモの木に残った袋を外す作業の最中だった。驚かされるのは、作業しているのが園主の中込一正さんと日本人女性1人以外は、全員が外国人だということ。カナダから訪れた男女と、アメリカ出身の女性2人、デンマーク出身の女性1人の計5人が黙々と作業をしていた。

モモの木から袋を外すアメリカ出身の女性(右)とカナダ出身の男性(中央)

彼らはファームステイで同園の施設に泊まり込み、ボランティアで作業をしている。滞在期間は1週間前後から数カ月程度までさまざま。年間計200人ほどの外国人がファームステイで働く。一度に受け入れる外国人は、最大で8人ほど。「年に約3000人の申し込みがあって、とても受け入れきれない」と中込さん。

これほど人気なのは、同園でのファームステイが単に作業をする場にとどまらず、日本のものづくりや、文化を学ぶ格好の場と受け止められているからだ。宿泊場所が無償で提供され、長期滞在できるのも人気の理由のひとつ。滞在後、富士山や関東、関西方面を旅する人が多い。

日本の高品質な果樹栽培を英語で伝える

中込さんは英語のホームページで日本の高品質な果樹栽培の方法や、マナーについて詳しく解説している。もともと英語教師をしていて、アメリカに留学経験があり、英語のページも自分で作っている。

中込農園園主の中込一正さん

果樹栽培の解説では、剪定、摘蕾(てきらい、つぼみを間引くこと)、人工授粉、摘果(果実を間引くこと)、袋掛けといった作業について、何ページにもわたって紹介する。東南アジアでは、日本の果物が高額で売られており、なぜひとつひとつが大きくおいしいのかが気になって訪れる人も多い。

ファームステイで多くの外国人を受け入れたことで、日本人も国際交流や英語の勉強を目的にファームステイに応募するようになってきた。ファームステイ受け入れは、中込農園の国内外での認知度を高めるだけでなく、労働力の確保にも役立っている。

果物狩りにも、年間2000人近い外国人が来園する。取材で訪れた日は、フィリピンからの50人ほどの団体がリンゴ狩りをしていた。

「さまざまな国のGoogleで“Japan”“fruit picking”という言葉を検索すると、ほぼ、うちのサイトが1番目に出てきます」(中込さん)

海外での認知度の高さは、長年の情報発信の結果だ。中込さんは、1996年に中込農園の日本語のホームページを立ち上げ、翌1997年には英語のホームページを作っている。これは、日本語のページを見て来園したマレーシア人女性から、英語のホームページを作れば、必ず訪れる人がいるはずとアドバイスされたため。言われた通り、個人客と団体客がアジアなどから果物狩りに来園するようになり、2000年代半ばには外国人だけで年間1000人近くが訪れるようになった。  現在では、中国語も加えた3カ国語のページが開設されている。

日本人客も多く、サクランボ、モモ、ブドウ、ナシなどは、いずれも途中で募集打ち切りになる人気だ。

外国人客のルール・マナー違反に悩んだ時期も

ただし、外国人客の受け入れには苦労もあった。頭を悩まされたのがマナー違反や、ルール違反。特に外国人の受け入れを始めたばかりの頃には、バスガイドに団体客の人数をごまかされたり、来園者が園内に袋を持ち込んで果物を詰めて園外に持ち出そうとしたりといったトラブルが絶えなかったという。

そこで取った対策が、事前にルールやマナーを学んだ客だけを受け入れるということ。団体客なら、旅行社に対して予約が成立した時点で事前に守ってもらいたい事項を書いた文書を送り、参加者に共有してもらう。個人客に対しては直接文書を送る。特に滞在時間の長いファームステイは、審査をしたうえで、日本でのお風呂の入り方や布団の干し方といった細かなルールまで徹底的に学ぶように求める。

「トラブルが起きるより、人数が減っても、質の良いお客さんが来る方がいい。ここ4年ほど、予約の時点で学んでもらうようにして、かなり改善しました。それまでは大変だった」

ファームステイ用の宿泊施設

とはいえ、もちろん外国人受け入れのメリットは多い。特に中込さんが「予想外の展開」というのが、日本人客の間で不人気になりつつあった秋から冬にかけてのリンゴ狩りとカキ狩りに外国人客が押し寄せてきていること。日本人の間では、イチゴ狩りやサクランボ狩りが人気の一方で、リンゴとカキが落ち込み、これまで木の伐採を続けていた。ところが、ここ数年で外国人客の利用が増え、規模縮小の必要がなくなり、むしろ足りない状況になっている。

「リンゴ狩りとカキ狩りは、2017年までは外国人の比率が30~40%でしたが、2018年は一気に70~80%に急増しました。ものすごい数の予約希望と問い合わせがあるので、カキやリンゴをかなり減らしてきたのを、軌道修正します」

農園の面積は徐々に広げているが、それでも足りない状況だ。

トラブルを恐れず、まずはやってみる

農業分野でのインバウンド受け入れが増えている今、中込さんはいろいろなトラブルが起こり得ると考えている。ただ、まずは受け入れてみることだとアドバイスする。

「トラブルがあるからやめたとなるか、どうしたらいいのかと考えるか。まずはやってみて、自分自身で考えて学ぶことだと思います」

外国人受け入れの先駆けであるため、全国の農業や行政の関係者が視察に訪れる。果樹産地から、中込農園の仕組みを使って、産地の観光振興をしたいといった依頼も舞い込む。中込農園は集客にはまったく困っていないが、中込さんは南アルプス市を訪れる外国人観光客がまだまだ少ないと感じている。今後は面的に外国人客を受け入れられるように横のつながりも構築したいと、前を見据えている。

<参考URL>
桃狩り|もも狩り|さくらんぼ狩り|フルーツ狩りの中込農園|山梨県
【特集】農業×インバウンドのこれまでとこれから
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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