農研機構、生分解性農業用マルチフィルムの分解を加速させる方法を実証

農研機構は、生分解性プラスティックを分解する酵素を用いて、野菜の栽培に使う耐久性の高い生分解性農業用マルチフィルムを畑に敷いたまま、分解を加速させる方法を実証した。使用者が望むタイミングで分解を促進できるため、処理労力の低減やごみの削減に役立つという。

分解に時間がかかることが課題となっていた


生分解性プラスチックは、微生物の働きによって二酸化炭素と水に分解される分子を原料に用いた高分子化合物で、野菜を栽培する時に畑の表面を被覆する農業用資材であるマルチフィルムでの使用が増加している。栽培終了後に畑に鋤き込むだけで、土壌微生物が分解してくれるため、回収の手間やゴミ処理が不要となる。

ただし、使用中の意図しない分解を抑えるため、分解が比較的遅いポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を主成分とした製品や、より耐久性が高いポリ乳酸(PLA)を添加した製品も販売されている。こうした製品は、利便性が高い反面、使用後の分解が遅くなることから、使用者が望むタイミングで分解できないという課題を抱えているという。

市販のマルチフィルムにPaEの散布処理を実施

 
農研機構では、産総研・機能化学研究部門との共同研究などを通じ、生分解性プラスチック製のフィルムをPaEという酵素に浸漬すると、フィルムを構成する高分子鎖間の結合がランダムに切られて低分子化されることを確認していた。

今回の実証は、PaEの散布により強度の高い生分解性プラスチックであるPBATを分解できるのか、生産現場における市販の生分解性マルチフィルムの分解を加速できるのかという2点について試みたものである。

生分解性マルチフィルムに使われている生分解性プラスチックの種類
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html

実証では、マルチフィルムの強度をはじめ、画像解析による穴や亀裂の大きさを数値化して、フィルムの変化を客観的に評価する方法を作成。屋外の畑地に展張した市販のマルチフィルム(黒)の表面にPaEの散布処理を実施した。

市販の生分解性マルチフィルムへのPaE散布処理試験の様子
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html

その結果、翌日にはマルチフィルムは薄くなり、目視およびミクロレベルでも亀裂が生じ強度が下がることがわかった。

市販の生分解性マルチフィルム(黒)を、野菜を栽培せずに2カ月展張した後に、PaE散布処理を行った区(白い着色が認められる部分、幅0.5m)は、処理翌日に目視で確認できる亀裂が発生。黒色の部分は酵素処理をしていない
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html

さらに、PaE散布処理を行ったマルチフィルムを、翌日、耕うん機で鋤き込んだ後に目視で確認できる断片を回収したところ、フィルムの断片のサイズが小さくなり、総重量も減少していたとのこと。

散布処理翌日(24時間後)のマルチフィルムの表面。散布処理に使用したPaEの濃度(ユニットUで表示)が高いほどマルチフィルム表面にミクロレベルで亀裂が生じる。ユニット(U)は酵素の力価を示す。ここでは生分解性プラスチックPBSAエマルジョンの660nmにおける吸光度を1下げる酵素の量を1Uとしている
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html


PaE散布処理をすると翌日(24時間後)にはマルチフィルムの強度が下がり、鋤き込み後に回収された断片の総重量が減少。箱ヒゲ図の箱の上下は分布の両端から25%の分布範囲を、中央線は中央値を表す。ヒゲの上下は5%の分布範囲を表す
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html


PaE散布処理をすると翌日(24時間後)にはマルチフィルムは、薄く壊れやすくなっており、鋤き込み直後に目視で確認できる大きな断片が減る
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html

なお、PaE散布処理の効果は、31℃程度(初夏)の気温や14℃程度(晩秋)の気温など、さまざまな温度条件下でも確認。また、素材の混合割合が異なる複数の生分解性マルチフィルムでも同様の効果が確認された。

バイオマス原料由来の生分解性プラスチックと分解酵素を組み合わせたプラスチックの循環利用出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html

農研機構は現在、県の農業試験場や民間企業、大学と共同で以下4つの研究に取り組んでいる。

  • 分解酵素の量産化方法
  • 酵素を散布処理したフィルムを畑に埋めた後の分解の検証
  • 生分解性マルチフィルムと分解酵素を組み合わせた新しい栽培方法の開発
  • 分解酵素と組み合わせて使用する新たな生分解性農業資材の開発

将来的には、生分解性のバイオマスプラスチックと、PaEなどの分解酵素を組み合わせた、プラスチックの循環利用を推進していきたい考えだ。


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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