農研機構、営農による地域への経済波及効果と環境影響を評価できるツールを開発

農研機構は、営農活動による地域への経済波及効果と環境への影響を同時に評価できるWEBツールを開発した。地域農業の脱炭素化に向け、行政担当者が今後取り組むべき方策を検討する際に役立つものとなっている。

みどりの食料システム戦略とカーボンニュートラルの実現へ


持続可能な社会の実現に向けて、営農活動による地域経済の活性化と環境影響の削減が両立できるような施策の推進が求められている。脱炭素事業に取り組む自治体は、事業実施による地域経済への波及効果と環境影響について定量的に評価し、両者のバランスを勘案した上で「どのように施策を推進するか?」を判断していく必要があるという。

そこで農研機構は、産業連関分析を用い、現状の営農活動による地域経済への波及効果(経済波及効果)と環境影響をブラウザ上で同時に、かつ簡易に算定できるツールを開発し、ウェブサイトにて公開した。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/159096.html

農研機構の「経済・環境評価WEBアプリケーション」にアクセスし、「営農活動の経済・環境影響評価ツール」を選択して、活動地域や使用する各種エネルギーの物量を対話形式に従って指定し、農業で使用する資材やサービスの支出額を入力すれば計算が自動で実行される。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/159096.html
(ある市の施設野菜の計算結果を示したもの)

システムに組み込まれた産業連関表や経済センサスなどに基づき計算が行われるため、産業連関分析の専門知識が無くても経済波及効果がすぐに割り出せる。

活動を行う市町村、県内の他市町村、県外に分けて出力され、原材料やサービスの供給元を含めたサプライチェーン全体の地域自給率がわかる。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/159096.html

農研機構が開発したツールは、製品などの環境影響を評価する手法であるライフサイクルアセスメントの「産業連関法」が用いられている。この方法では、従来から国立環境研究所の「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)」が用いられていた。しかし、3EIDは全国産業連関表に基づいた手法のため、それ単独では地域経済の構造に即した評価は行えなかったという。

今回のツールは3EID、各都道府県の「産業連関表」、「地域シェア法」を併用することで、営農活動による地域経済への波及効果と環境影響をブラウザ上で算定するシステム。とくに、経済波及効果については市町村レベルでの分析に基づき、サプライチェーン全体の地域自給率を把握することができる。


脱炭素に向けた施策を検討した例


※経済波及効果と同時にGHG排出量とエネルギー消費量を計算し、直接/間接排出などの要因に区別して出力。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/159096.html

ある施設園芸の経営体が100万円(生産者価格)の作物を生産した時に、暖房を化石燃料の燃焼から系統電力を用いたヒートポンプの使用に切り替えることで、化石燃料燃焼に由来するCO2の排出量は1.343t-CO2eq(全体の33%)から0.053t-CO2eq(全体の1%)へと減少する。

ヒートポンプの稼働により、系統電力の使用量が増えるため、火力発電の割合が高い系統電力から間接的に排出されるCO2は増加するが、地中熱源ヒートポンプなど成績係数(COP)の高い設備を用いることで、システム全体としてGHG排出量削減効果が生まれる。

この分析における電力は、系統電力より調達することを想定した値だが、仮にその電力を小水力発電など地域内に賦存する資源で賄うことができれば、電気代として域外に流出していた資金が地域内で循環し、エネルギーの地域自給率の向上が見込めるという。

なお、「水田の中干し期間の延長」や「バイオ炭の施用」など、主に市場取引の枠外で行われる技術を反映した精緻な環境影響の分析については、今後の研究の進展を待つ必要があるとのこと。

参考動画(目的と意義編)

参考動画(使い方編)


農研機構「経済・環境評価WEBアプリケーション」
https://kinohyoka.jp
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
パックごはん定期便