東京農工大らの研究グループ、イネの深水抵抗性に関わるゲノム領域を特定

東京農工大学大学院連合農学研究科の磐佐まりな氏、同大学農学研究院生物生産科学部門の大川泰一郎教授、農研機構西日本農業研究センターの浅見秀則氏、有機米デザイン株式会社の中村哲也氏らの研究グループが、水田の雑草発生を抑制する水田深水管理におけるイネの旺盛な生育に関わるゲノム領域を特定することに成功した。

特定したゲノム領域を品種改良に利用することで、除草剤を減らし環境負荷の少ない持続的な農業生産の拡大につながると期待されている。

イネの深水抵抗性の向上に期待


現在日本の水稲栽培の現場では、持続可能な農業生産を目標に、化学肥料や農薬に頼らない有機栽培や除草剤の使用頻度を半分以下にする特別栽培が行われている。

しかし、雑草の除去や抑制には多大な労力が必要になることから、農林水産業の生産力強化と持続可能性向上の両立を目指して農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」における環境負荷を減らした農業生産の拡大の大きな障壁となっている。

有機栽培や特別栽培を行う日本の水稲栽培の現場では、イネの移植直後の生育初期に水田の水位を10~20cmほどの深さに保つ深水管理が行われているが、水田の雑草であるタイヌビエの出芽や生育の抑制に高い効果を示すと同時に、稲の生育そのものを抑制してしまう働きがあることから、高い深水抵抗性を示す品種の開発が求められていた。

20cmの深水管理中の生育初期のイネの様子(深水処理17日後)。
深水により一部の個体が黄化、枯死し茎数が減少してしまったイネ(手前)と、ストレスをほとんど受けず旺盛に生育しているイネ(奥)
出典:https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20231201_01.html

一方、水位が数メートルに達する洪水が数カ月続く東南アジアや南アジアの地域では、背丈を急激に伸長させることで冠水下の過酷な環境を生き延びる浮イネが確認されている。

急激な伸長を引き起こす複数の遺伝子については明らかにされているものの、抑草を目的とした深水管理下におけるイネの生育初期の深水抵抗性に関する生理、遺伝学的研究はほとんど行われてこなかった。

今回の研究では、日本国内から収集した165種類の温帯ジャポニカイネ品種を用いて深水処理終了後のバイオマス量を比較。その結果、深水によりほとんど枯死してしまった品種が確認された一方、わずかなストレスしか受けていない品種が確認された。

また、関連解析の結果、深水条件のバイオマス量は生育初期の草丈と茎数に強い関連性があることが判明した。

深水条件下における温帯ジャポニカ165品種の地上部バイオマス量の頻度分布
出典:https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20231201_01.html

生育初期の草丈の高さは正常なガス交換および代謝活動の維持に重要であり、茎数の多さは活発な光合成を行うために重要であると考えられる。草丈と茎数との相関関係は弱いことから、これら2つの性質は独立して向上できると示唆された。

次に、生育初期における深水条件の草丈と茎数を制御するゲノム領域を明らかにするため、品種間のゲノムの違いと草丈や茎数などの性質の違いとの関連を網羅的に解析する統計学的手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施して、草丈に関わる主要なゲノム領域を第3染色体上に、茎数に関わる主要なゲノム領域を第4染色体上に特定することに成功。

これらのゲノム領域では、「日本晴」と異なる「変異型」のDNA配列を持つ品種で草丈が大きく、茎数が多くなることが判明した。

さらに、深水条件の草丈および茎数に関わる第3、4染色体上のゲノム領域がどちらも変異型のDNA配列である品種は、どちらも日本晴と同じ「参照型」のDNA配列である品種に比べて深水条件下のバイオマス量が高いことが判明。

このことから、これらのゲノム領域を組み合わせれば、イネの深水抵抗性を強化できることが示された。

本研究で特定されたイネの深水条件の草丈と茎数に関わる2つのゲノム領域を品種育成に利用することで、イネの深水抵抗性の向上が期待される。また、深水抵抗性の高い品種を用いて深水管理を行うイネ生産は、除草剤を減らした特別栽培や有機栽培といった持続的な農業において雑草防除の省力化およびイネ収量性向上の双方に有用であり、日本および世界の食料生産の増加、安定化に貢献することが考えられる。

研究グループは、今後さらなる除草作業の省力化や収量向上を目的に、有機米デザインが開発した水田用の自動抑草ロボットである「アイガモロボ」など最新のスマート農業技術と組み合わせた研究を進めていく構えだ。

なお、今回の研究の一部は、JST COI-NEXT「カーボンネガティブの限界に挑戦する炭素耕作拠点」(JPMJPF2104)、東京農工大学における文部科学省「卓越大学院プログラム」および東京農工大学における「FLOuRISH次世代研究者挑戦的研究プログラムフェローシップ制度」の援助を受けて行われたものである。

同研究成果は、2023年11月25日に『Rice』に掲載された。

論文情報
掲載誌:Rice
論文名:Identification of genomic regions for deep-water resistance in rice for efficient weed control with reduced herbicide use
著者:M. Iwasa, K. Chigira, T. Nomura, S. Adachi, H. Asami, T. Nakamura, T. Motobayashi and T. Ookawa
掲載URL:https://doi.org/10.1186/s12284-023-00671-y


東京農工大学大学院連合農学研究科
https://www.tuat.ac.jp/uni-grad/
農研機構西日本農業研究センター
https://www.naro.go.jp/laboratory/warc/index.html
有機米デザイン株式会社
https://www.ymd1122.com/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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