【インタビュー】 かんきつ類ドローン防除最大のメリットは“時間短縮” (早和果樹園・山中さん)

和歌山県有田市で、温州みかんの生産から加工までを手掛ける早和果樹園は、自社ECでのみかん販売や、ジュース、ジャム、ポン酢などに加工し、関西地方の店舗での店頭販売なども展開している、有田地域を代表する大規模農業法人です。

そんな早和果樹園が、株式会社オプティムの「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」の実証実験に参画。2025年6月サービスが本格稼働してからは、自社の園地での防除も含め、有田市内のみかん農家を取りまとめる代理店的な業務も行っています。

「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」は、参加農家が増えるほどに単価が下がる仕組み。ウェブやスマホに慣れていない人でも申し込めるように、市内のみかん農家からの委託を集めることで、早和果樹園にとってもコスト削減という大きなメリットが得られます。

今回は、そんな早和果樹園 生産部の山中さんが感じたドローン防除のメリットとデメリット、「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」に参画して感じたことをうかがいました。

早和果樹園 生産部の山中さん

スプリンクラー防除にできないところがドローンで補える


有田市では、近年特に防除作業が過酷さを極めていると、山中さんは痛感しています。

「ひとつは夏の暑さです。年々気温が顕著に上がってきている中で、みかんの防除は基本的にカッパを着て手散布で行うので、体力的にもきつい作業。ドローンでの散布ができると作業者の負担がほとんどなくなります」

従来の散布でも、園地に張り巡らされたスプリンクラーを使って農薬を散布することはできました。ですが、スプリンクラーからの距離によって散布のばらつきが出てしまうことや、スプリンクラーのパイプの劣化、メンテナンスコストなどもかかってきます。

園地の中に立っているスプリンクラー
また、スプリンクラーに使う水は給水タンクに貯めて取水口まで持っていき、ポンプで水を送り込むという工程も必要です。一度に16トンくらい放水するため、水をタンクに貯めるだけでも2時間以上、それをトラックなどで取水口まで持っていくのも重労働でした。

ちょうどドローン散布中に作業をされていた農家さんのタンク。トラックに積んで取水口からポンプで送り込む

委託防除のメリットは少ない人員で管理できること


有田市内で山中さんがお付き合いしているみかん農家は、平均40代〜50代。若そうにも思えますが、後継者がいない農家も年々増えており、危機感は感じています。

「有田市でも顕著に農家さんの高齢化は進んでいて、跡取りがいないなどで休耕地も増えています。雑木や雑草が生えて虫の発生につながったり、獣が住み着いて周囲の畑にも影響することもあります」

そのため、早和果樹園に園地を丸ごと任せたいという農家からの依頼も増えていると山中さん。ただし、簡単には受け入れられない事情もあります。それはシンプルに「人手」の問題です。

「みかんはひとり1町、つまり1haが管理の目安と言われています。早和果樹園として管理している畑がいま10町くらいですが、生産部の社員は9人。事務職や新人さんも含んだ数字なので、実際はもっと少ない人数で管理しているんです。

現状でも手が回っていない状態のため、ドローン防除が実現できるととても助かります。なにしろ今まで1回の防除に18時間もかかっていた畑が、今日は1時間もかからずに終わりましたからね」

参考記事:ドローンでみかんの農薬散布を丸ごと代行! 「かんきつ類ドローン防除サービス」現場密着レポート

この日飛ばす場所の注意点などをドローンパイロットと共有する山中さん

今回は早和果樹園が管理している園地の中でも、特に散布しにくい園地での実証も兼ねていたため、山中さんも作業に同行しました。ですが、通常の委託散布時はドローンパイロットに完全に任せて、立ち会いの必要がない点も大きなメリットになっています。


ドローン防除で加工率30%以下を目標に


スプリンクラーや手散布からドローン防除に切り替えた成果は、これまでの実証実験の中で明確に数値として見えてきています。その上で山中さんは、市内のみかん農家への説得材料として、自分たちの園地で散布した結果を見極めている最中です。

ドローン防除の一番の強みは『時間短縮』(作業時間の短縮)ということははっきりしています。ただ、ドローン防除の効果について懐疑的な農家さんもおられます。労働時間と品質をどう折り合いをつけて担保するかは、農家さんそれぞれでスタンスが違いますからね」

自分で農薬を散布していれば、効果が出なかった木があっても納得できます。ですが、委託の場合、払った作業料金に対して確実な成果が求められるため、万が一ドローン防除がうまくいかなかった木があれば、納得できない農家も出てくるかもしれません。

そんな時に、みかん農家の気持ちを共有できる私たちが代理店を務めることで、ドローン防除の強みも弱みも説明できることは、かんきつ類の産地でドローン防除を広めていく上で一番重要なことかもしれません。

さまざまな障害物や高低差のあるみかんの園地は、ドローン防除を行う場所としては難しい面も
そもそもみかんは、木になった分すべてが必ず販売できるというわけではありません。収穫した中で商品として販売できるものとそのままでは販売できないみかんの割合は「加工率」と呼ばれ、状況に応じて20〜50%ほど出荷できない分が出てしまいます。これはどんな農産物でも必ず発生してしまうものです。

その年の気候や病害虫の流行、収穫のタイミングなどでもこの割合は変わってきますし、作業にかかる人手が足りなかったり、収穫タイミングが間に合わなかったりすれば、どんどんロスするみかんが増えることにもなります。

「ある農家さんは、『しっかり手散布してみかんに痛みが来る前に収穫するとしたら、20%を切らんとちょっとなぁ……』ともおっしゃっていました。でも私の感覚では、ドローン防除で30%以下であれば、十分喜んでくれると思うんです。

熟しすぎて痛みが増えたみかんも、ジュースにするなど加工することで無駄なく使うことはできるのですが、どうしても単価は安くなってしまいます。できる限り加工はしたくないんです」

だからこそ、早和果樹園としては、「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」の参加農家を増やし、地域レベルでの防除コストを下げることも重要と考えています。農家の参加をうながすためにも、「ドローン防除での加工率30%」という目標を達成できれば、今以上に多くの農家が参加してくれると山中さんは予想しています。

農薬のかかりかたをチェックしている山中さん。手散布と比べると明らかに量が少ないため、念入りに確認していく
かんきつ類で散布する山の斜面は、ドローンの技術的にも自動飛行だけで撒けないこともあり、まだまだドローン防除は全国的には普及していません。

有田市を中心とした和歌山県から始まる「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」が、全国のかんきつ類の産地でのドローン防除普及のきっかけになるかもしれません。


「OPTiM アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」 概要


「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」は、有田エリアから始まり、和歌山県内、さらに他の他府県の産地からの申し込みを受付中。今夏の防除の相談も可能で、ネット経由だけでなく、現地の農家同士で集まったり、すでに実施している農家経由で、紙やFAXによる申し込みにも柔軟に対応しています。

●主な防除内容
  • 夏場の黒点病、ゴマダラカミキリ、チャノキイロアザミウマ、カメムシ等
  • 収穫前(11月〜)の防腐剤(貯蔵病害)
  • 春先のかいよう病 ほか

●申し込み・お問い合わせ先

OPTiM アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス


▶︎お申し込み・お問い合わせ先はこちら

アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/agripon
株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/
早和果樹園
https://sowakajuen.com/

【特集】 「かんきつ類ドローン防除サービス」の革命
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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