「農業ワールド2018」に見る植物工場の“旬なレタス”たち
10月10日から12日までの3日間、幕張メッセで開催された農業総合展「農業ワールド2018」において、植物工場における最新技術が展示された。
植物工場の主役となる野菜といえば「レタス」。これまで同じレタスでも、植物工場から安定的に供給できるのはリーフレタスが中心で、栽培に多くのエネルギーを必要とする「結球レタス」は難しいとされてきた。その最新事情をお伝えする。
種子メーカーとして知られるみかど協和株式会社は、数あるレタスの品種の中から、植物工場での栽培に適した品種の種子を販売。グリーンリーフレタスの「ナバロン」「サマーインパルス」、レッドリーフの「ロロロッサ」等を展示していた。
レタスの栽培において、N(窒素)、P(リン酸)、K(カリウム)の3大要素に加え、最も重要な役目を果たすのがCa(カルシウム)である。同社新規ビジネス開発部の牧野美帆さんによれば、「水耕栽培のレタスの根は、NPKの3要素はスムーズに吸い上げるのですが、土耕に比べて生長スピードが速いので、Caの供給が追いつかず、チップバーンという葉先が黒くなる生理障害を起こしやすいのです」とのことだ。
これを回避すべく、フランスの種子メーカー、ヴィルモラン社と共同事業を展開している同社は、数百種のレタスの品種の中から、生理障害を起こしにくく、植物工場に適した品種を選抜し、積極的に打ち出している。
葉肉が厚く、食感のよいロメインレタスは、一般のリーフレタスや結球レタスより高級感のある存在だが、同社の品種を採用すれば、植物工場で「ミニロメイン」や「レッドロメイン」の栽培も可能に。外食や中食を通じてレタスを味わうサラダを通して、レタスのバリエーションが増えていきそうだ。
「『失敗しない』植物工場をご提供!」
会場内で、そんなキャッチフレーズがひときわ目を引いたのは、「新オアシス式植物工場」を開発した司ゴム電材株式会社だ。
こんなに自信満々なそのわけは、システムを導入した顧客の元へ栽培とメンテナンスに長けた指導員を派遣。うまくいかなければ、軌道に乗るまで相談に乗り、とことん指導する体制をとっている。このシステム、大規模よりも小規模な施設での栽培に適していて「歩留まり95%以上」。つまり100株栽培したら、95株は商品として販売できるという。
そのカギを握っているのは「風」。独自に特許を取得した「空気調和システム」で環境を制御し、高速栽培を可能にしている。
「これからは、植物工場で根菜も作れますよ」と植物工場事業部長の太田さん。植物工場でラディッシュやミニ大根も栽培。レストランの店内に設置するディスプレイとしても楽しめそうだ。
植物工場の養液栽培といえば、水平に浮かぶウレタンボードの上で、葉菜がすくすく育つ光景が一般的。ところが、ここでは、レタスがダーッとタワーのように縦一列に並んでいる。しかもものすごい密植率だ。
このシステムを考案したのは、東洋製罐グループに属する鋼鈑商事株式会社。なぜ鋼鈑のメーカーが? と思いきや、同社とそのグループ企業は、農業用特殊フィルムや肥料、水耕栽培用の肥料や農産物の鮮度保持容器など、多角的に農業を支えてきた実績がある。
その中から誕生したのがこの「縦並びでレタスを育てる」という新システム。苗が小さいうちは栽培ロッドの幅を狭く、だんだん葉数が増えてレタスが広がっていくに従って、株間を広げられるというスタイルもユニークだ。
また、通常の「棚」がないため、熱が逃げやすく、蒸散も良好になり、肥料の吸収効率もよい。さらに、光を栽培面に効果的に照射できるので、1株あたりの消費電力を4割程度削減できるエコ栽培も実現している。
最近は垂直にグリーンを配する「壁面緑化」が増えているが、これはまるで「壁面レタス」。しかも苗の定植や収穫もスムーズで作業負担を軽減する、働く人に優しいスタイルだ。
これまで植物工場で栽培されるのは、非結球レタスが主役。収穫まで時間がかかる結球レタスの栽培は難しいといわれてきた。
同じレタスでも、結球性は口に入れた時「シャリッ」とした食感があり、ハンバーガーなどに使用する際、熱のある食材に当たってもすぐしんなりしない耐熱性があるため、ファストフードや外食、中食の現場では、どうしても結球レタスが求められる。
植物工場での安定的な結球レタスの量産化は、関係者がずっと追究してきた課題だったが、今回の展示会ではそれを実現させた企業が複数現れた。
そのひとつが、神戸市に本社を置く株式会社森久エンジニアリング。ブースには、植物工場育ちの結球レタスが誇らしげに展示されていた。しかもLEDではなく、蛍光灯の照明で栽培している。30年にわたり植物工場のシステムを開発してきた同社が開発したプラントは、建設中のものも含め全国に13基。国内では最多の数を誇っている。
結球レタスだけでなく、ほうれん草や春菊、パクチー、クレソンなどの栽培も可能。東京や関西の大手百貨店や生協、インターナショナルスクールでも取引が始まっている。
そんな植物工場生まれの結球レタスが、新たなブランド野菜になっている例もある。福井県美浜町の株式会社NOUMANNが栽培する「美ぃ玉(びぃだま)」。ブルーの包装フィルムも美しく、地域を代表する農産物として同町のふるさと納税返礼品の対象にもなっている。
関係者の長年の願いだった「植物工場生まれの結球レタス」の栽培システム「Vege-factory」を実現させたのは、空調設備会社として100年の歴史をもつ株式会社大気社だ。
太陽光と同等の光を必要とする結球レタスを実現しているのは、超高性能のLEDと、高効率反射照明システム。強い光を照射することで工場内の温度が上昇するが、それをコントロールし、上段から下段まで全ての棚を均一な温度に保つことで、安定的な結球レタスの栽培を実現させた。人間に快適な空調を生み出す「空調のプロ」はまた、レタスがのびのび育つ環境作りにも長けているようだ。
ひと口に「植物工場」といっても、種子、工業用ゴムや関連商品、鋼鈑金、空調設備等、さまざまな歴史と背景をもつ日本企業がそれぞれの得意分野を生かし、植物工場の技術開発に挑んでいる。ニーズの高い結球レタスの安定供給を実現させ、市場のニーズに応えられるのは誰か。「ものづくり日本」の新たな挑戦の一端が垣間見えた。
<参考URL>
みかど協和株式会社
司ゴム電材株式会社
鋼鈑商事株式会社
株式会社森久エンジニアリング
株式会社大気社
植物工場の主役となる野菜といえば「レタス」。これまで同じレタスでも、植物工場から安定的に供給できるのはリーフレタスが中心で、栽培に多くのエネルギーを必要とする「結球レタス」は難しいとされてきた。その最新事情をお伝えする。
植物工場に適したレタスの種子を販売 ——みかど協和
種子メーカーとして知られるみかど協和株式会社は、数あるレタスの品種の中から、植物工場での栽培に適した品種の種子を販売。グリーンリーフレタスの「ナバロン」「サマーインパルス」、レッドリーフの「ロロロッサ」等を展示していた。
レタスの栽培において、N(窒素)、P(リン酸)、K(カリウム)の3大要素に加え、最も重要な役目を果たすのがCa(カルシウム)である。同社新規ビジネス開発部の牧野美帆さんによれば、「水耕栽培のレタスの根は、NPKの3要素はスムーズに吸い上げるのですが、土耕に比べて生長スピードが速いので、Caの供給が追いつかず、チップバーンという葉先が黒くなる生理障害を起こしやすいのです」とのことだ。
これを回避すべく、フランスの種子メーカー、ヴィルモラン社と共同事業を展開している同社は、数百種のレタスの品種の中から、生理障害を起こしにくく、植物工場に適した品種を選抜し、積極的に打ち出している。
葉肉が厚く、食感のよいロメインレタスは、一般のリーフレタスや結球レタスより高級感のある存在だが、同社の品種を採用すれば、植物工場で「ミニロメイン」や「レッドロメイン」の栽培も可能に。外食や中食を通じてレタスを味わうサラダを通して、レタスのバリエーションが増えていきそうだ。
植物工場で根菜栽培の可能性も? ——司ゴム電材
「『失敗しない』植物工場をご提供!」
会場内で、そんなキャッチフレーズがひときわ目を引いたのは、「新オアシス式植物工場」を開発した司ゴム電材株式会社だ。
こんなに自信満々なそのわけは、システムを導入した顧客の元へ栽培とメンテナンスに長けた指導員を派遣。うまくいかなければ、軌道に乗るまで相談に乗り、とことん指導する体制をとっている。このシステム、大規模よりも小規模な施設での栽培に適していて「歩留まり95%以上」。つまり100株栽培したら、95株は商品として販売できるという。
そのカギを握っているのは「風」。独自に特許を取得した「空気調和システム」で環境を制御し、高速栽培を可能にしている。
「これからは、植物工場で根菜も作れますよ」と植物工場事業部長の太田さん。植物工場でラディッシュやミニ大根も栽培。レストランの店内に設置するディスプレイとしても楽しめそうだ。
縦型の高密度密植栽培を実現 ——鋼鈑商事
植物工場の養液栽培といえば、水平に浮かぶウレタンボードの上で、葉菜がすくすく育つ光景が一般的。ところが、ここでは、レタスがダーッとタワーのように縦一列に並んでいる。しかもものすごい密植率だ。
このシステムを考案したのは、東洋製罐グループに属する鋼鈑商事株式会社。なぜ鋼鈑のメーカーが? と思いきや、同社とそのグループ企業は、農業用特殊フィルムや肥料、水耕栽培用の肥料や農産物の鮮度保持容器など、多角的に農業を支えてきた実績がある。
その中から誕生したのがこの「縦並びでレタスを育てる」という新システム。苗が小さいうちは栽培ロッドの幅を狭く、だんだん葉数が増えてレタスが広がっていくに従って、株間を広げられるというスタイルもユニークだ。
また、通常の「棚」がないため、熱が逃げやすく、蒸散も良好になり、肥料の吸収効率もよい。さらに、光を栽培面に効果的に照射できるので、1株あたりの消費電力を4割程度削減できるエコ栽培も実現している。
最近は垂直にグリーンを配する「壁面緑化」が増えているが、これはまるで「壁面レタス」。しかも苗の定植や収穫もスムーズで作業負担を軽減する、働く人に優しいスタイルだ。
いよいよ実現! 結球レタスの量産化 ——森久エンジニアリング
これまで植物工場で栽培されるのは、非結球レタスが主役。収穫まで時間がかかる結球レタスの栽培は難しいといわれてきた。
同じレタスでも、結球性は口に入れた時「シャリッ」とした食感があり、ハンバーガーなどに使用する際、熱のある食材に当たってもすぐしんなりしない耐熱性があるため、ファストフードや外食、中食の現場では、どうしても結球レタスが求められる。
植物工場での安定的な結球レタスの量産化は、関係者がずっと追究してきた課題だったが、今回の展示会ではそれを実現させた企業が複数現れた。
そのひとつが、神戸市に本社を置く株式会社森久エンジニアリング。ブースには、植物工場育ちの結球レタスが誇らしげに展示されていた。しかもLEDではなく、蛍光灯の照明で栽培している。30年にわたり植物工場のシステムを開発してきた同社が開発したプラントは、建設中のものも含め全国に13基。国内では最多の数を誇っている。
結球レタスだけでなく、ほうれん草や春菊、パクチー、クレソンなどの栽培も可能。東京や関西の大手百貨店や生協、インターナショナルスクールでも取引が始まっている。
結球レタスがふるさと納税の返礼品に ——大気社
そんな植物工場生まれの結球レタスが、新たなブランド野菜になっている例もある。福井県美浜町の株式会社NOUMANNが栽培する「美ぃ玉(びぃだま)」。ブルーの包装フィルムも美しく、地域を代表する農産物として同町のふるさと納税返礼品の対象にもなっている。
関係者の長年の願いだった「植物工場生まれの結球レタス」の栽培システム「Vege-factory」を実現させたのは、空調設備会社として100年の歴史をもつ株式会社大気社だ。
太陽光と同等の光を必要とする結球レタスを実現しているのは、超高性能のLEDと、高効率反射照明システム。強い光を照射することで工場内の温度が上昇するが、それをコントロールし、上段から下段まで全ての棚を均一な温度に保つことで、安定的な結球レタスの栽培を実現させた。人間に快適な空調を生み出す「空調のプロ」はまた、レタスがのびのび育つ環境作りにも長けているようだ。
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ひと口に「植物工場」といっても、種子、工業用ゴムや関連商品、鋼鈑金、空調設備等、さまざまな歴史と背景をもつ日本企業がそれぞれの得意分野を生かし、植物工場の技術開発に挑んでいる。ニーズの高い結球レタスの安定供給を実現させ、市場のニーズに応えられるのは誰か。「ものづくり日本」の新たな挑戦の一端が垣間見えた。
<参考URL>
みかど協和株式会社
司ゴム電材株式会社
鋼鈑商事株式会社
株式会社森久エンジニアリング
株式会社大気社
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