圃場均平化の必要性と最新技術 ──人手不足でも米の収量を安定させる方法

生産者の高齢化や担い手不足が深刻化し、少ない生産者に農地が集中する中で、ひとつひとつの農地に丁寧な対応ができないという状況が生まれています。

特に雑草や生育のばらつきだけでなく、近年増えているジャンボタニシの抑止にも効果的と言われているのが、圃場の不均一化を整えること……つまり「均平化」です。

田んぼの水深が場所によってばらつくと、苗の生育が不安定になったり、雑草が増えたりすることがあります。水稲栽培において「圃場の均平化」は、苗立ちや水管理を安定させるうえで重要な取り組みです。

これらは以前は大掛かりな農機具を用いて行う必要がありました。しかし近年は、GPSやレーザーを活用した高精度レベラーが普及し、省力化と収量の安定化の両立が期待されています。これまで実施する機会がなかった米農家でも、以前よりも手軽に均平化できる方法が増えてきています。

そこでこの記事では、なぜ均平化を行う必要があるのか、均平化の効果と現場で役立つ具体的な取り組みを、研究データや技術資料を交えてご紹介します。



なぜ均平化が必要なのか


水田の地面が不均一なままだと、水深にばらつきが生じ、苗の生育や水管理にさまざまな支障が出てきます。具体的には、浅い部分では乾燥によって苗立ちが低下し、深い部分では酸素供給が不足して生育が遅れる傾向があります。

また、水深のばらつきは除草剤の効果を不安定にし、雑草の発生リスクを高める要因にもなります。寒冷地の乾田直播では、水深が5cmを超えると苗立ち数が減少することが確認されており、均平化の重要性が数値的にも示されています(出典:農林水産省「作物共通基盤技術 レーザー均平技術」https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_manual/pdf/1_1.pdf)。

それに対して、均平化された圃場では水管理がしやすくなり、施肥や除草剤の散布も均一に行えるため、資材の効果を最大限に引き出すことができます。結果として、収量のばらつきが抑えられ、経営の安定化にもつながります。

均平化は単なる整地作業ではなく、苗立ち・水管理・資材効果・収量安定のすべてに関わる、稲作の基本となる重要な作業と言えるでしょう。

左が均平化前の圃場、右が均平化された圃場のイメージ。稲だけでなく雑草や害虫などについても、均平化することでイレギュラーなトラブルを未然に防げます(編集部作成)


GPSレベラーで均平化作業自体も効率化


均平化を行うための代表的な機械が「レベラー」です。

従来はレーザー方式が主流でしたが、近年はGPSを活用したレベラーが登場し、より広範囲での高精度化や省力化が報告されています。 レーザー方式が基準点からの照射に依存するのに対し、GPS方式は衛星測位を用いることで、圃場の広い範囲でも精度を維持しやすい点が特徴です。

実際に、RTK-GPSレベラーを使うと、均平度評価作業の省力化率が85%、運土作業の効率化率が32%に達したと報告されています(出典:北海道農業研究センター「高精度GPS測位を活用した圃場整備技術の開発」https://www.hamc.or.jp/TOPTEST/2009gps_leveler.pdf)。


均平化を成功させるための5つのポイント


均平化の効果を高めるには、機械の性能だけでなく、作業の進め方や管理方法にも配慮が必要です。事前の測量精度や土壌の水分状態、トラクターの走行パターンなど、細かな条件が均平度に影響します。

ここでは、現場で実践できる具体的な取り組みを5つのポイントに分けて紹介します。

1.事前測量と基準面設定


測量の精度が均平化の仕上がりを左右します。RTK-GNSSを搭載したGPSレベラーで標高データを数cm単位で取得することで、過剰な切土・盛土を抑えられる可能性があります。

農研機構の研究でも、誤差が±3cm以内に収まり、作業回数を20〜30%削減できたと報告されています (出典:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)研究報告https://doi.org/10.34503/naroj.2019.1_13)。

このように、測量を正確に行うことで「削るべき場所」と「盛るべき場所」が明確になり、効率的な作業につながります。さらに、現場では測量データを地図化し、作業計画に落とし込むことが効果的です。

2.土壌条件の最適化


均平化作業を行う際、土壌水分が多すぎると、土が重くなりブレードの動きが鈍くなる傾向があります。

農林水産省の資料では、水分が30%を超えると作業効率が平均15%低下することが確認されています (出典:農林水産省「作物共通基盤技術 レーザー均平技術」https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_manual/pdf/1_1.pdf)。

均平化は「土が適度に締まっている状態」で行うのが望ましく、水分が多い場合は一度乾かしてから作業に入ることで、ブレードがスムーズに動き、仕上がりの精度も高まりやすくなります。

3.作業者の違いによるばらつきを防ぐための作業パターンの統一


均平化はレベラーを圃場で走らせながら、作業漏れがないように実施する必要がありますが、もし走行間隔や重ね代がバラバラだと、均平度にムラが出やすくなります。

特に、大規模農業法人などで複数の作業者が作業を行う場合など、作業者ごとに走行パターンが異なると均平度が安定しにくいため、ラインを統一することが重要です。現場では「走行間隔を目印で示す」「ブレード角度をマニュアル化する」といった工夫が有効です。

4.数値で効果を確認


「均平化したつもり」で終えるのではなく、数値で確認することも重要です。

均平度の目標値は標準偏差1.2〜2.0cmと定義されており、均平度を1.5cm以内に収めた圃場では苗立ち率が平均95%に達し、3cmを超えると80%に低下する傾向が確認されています (出典:農林水産省「作物共通基盤技術 レーザー均平技術」 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_manual/pdf/1_1.pdf)。

そのため、作業後に均平度を測定することで「どこがまだ不均一か」が数値でわかり、次の補正作業や翌年の改善計画に活かせます。感覚ではなく数値で管理することが、安定した苗立ちにつながりやすくなります。

5.年間工程に組み込む


均平化は一度行えば終わりというものではなく、年間の作業工程に組み込むことで効果が持続します。

農研機構の研究では、収穫後にわだちや沈下箇所の補正を行い、次期作計画時に均平度を再設定する体系を導入した場合、春の整地作業時間を30%弱削減できたと報告されています (出典:農研機構研究報告https://doi.org/10.34503/naroj.2019.1_13)。

収穫直後に圃場を観察して沈下箇所を記録し、耕起前に補正する習慣をつけることで、次期作の準備がスムーズになりやすくなります。

「定期的な均平化」を次の営農戦略へ


ここまでご紹介してきたように、均平化の徹底は単なる作業効率化に留まらず、経営改善にも直結します。

均平化は、苗立ちの安定、水管理の精度向上、資材コストの抑制など、稲作経営の基盤を支える技術です。記事で紹介したように、測量精度の確保、土壌条件の見極め、作業パターンの統一、数値による確認、年間工程への組み込みといった要素を押さえることで、単なる整地作業ではなく、経営全体を安定させる戦略的な取り組みへと位置づけられます。

一方で、導入には機械や作業コストといった課題も伴います。ご自身での導入が難しい場合には、外部委託や共同利用を検討することで、費用対効果を高めながら均平化のメリットを享受する道も開けます。限られた労働力や資源をどう活用するかが、今後の稲作経営において大きな鍵となるでしょう。

はじめの一歩として、まず自分の圃場の現状を把握することが重要です。例えば「田植え前に水深のばらつきを測定してみる」「収穫後に沈下箇所を記録してみる」といった手作業でもできる小さな取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。こうした行動が、次期作に向けた改善計画や外部委託・共同利用の判断材料につながります。

限られた農地や担い手の中で、資源を最大限に活用する工夫を模索してみることが、持続的な収量安定と経営改善への第一歩となります。

そのために、これまであまり重要視されていなかったであろう均平化を営農サイクルに組み込み、戦略的に活用することで、将来の稲作をより安定的で効率的なものにしていくことができるでしょう。

生育ムラなど安定した収量の解決に……
▶︎均平化のご相談はこちら



SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
パックごはん定期便