なぜ今「スマート農業」をドラマに? 『ゲームチェンジ』仕掛け人が描く農業と人の物語

1月8日(木)23:00より、BS-TBS(TVerにて見逃し配信も実施中)にて放送がスタートしたドラマ「ゲームチェンジ」。「スマート農業」をテーマにしたドラマとして話題になっており、どのような展開になるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。

担い手の高齢化、人手不足、資材などの高騰と幾重にも壁が立ちはだかっている日本の農業に対して、SMART AGRI編集部としてもさまざまなスマート農業の技術やサービスをご紹介してきました。ですが、いまだに現場の生産者の方々にとって使いにくかったり、ニーズに合ったサービスや技術が知られていないという実情も、取材する中で感じています。

今回はドラマ「ゲームチェンジ」の企画・脚本・プロデューサーを務めた青野華生子さんにインタビュー。スマート農業を題材にしたきっかけ、脚本執筆の中で青野さん自身が感じた、日本の農業の実情やスマート農業の意義などについてうかがいました。

「ゲームチェンジ」の企画・脚本・プロデュースを担当した青野華生子さん

「スマート農業」はロボットの話じゃなく、人間の話


──今回「スマート農業」というテーマを、なぜドラマの題材にしようと思われたんでしょうか?

青野:2024年の末に、スマート農業に取り組んでいる企業の方と知り合うきっかけがあったんです。そこで初めて農業用ドローンをはじめとするスマート農業を知って興味を持って、なにか企画できそうだなと思いました。

いま農業以外でもITがどんどん発達しているじゃないですか。それらがみんな同じ答えを求めているというか、外側の「正しさ」を求めている感じがするんです。でもそれってすごくロボット的というか、ChatGPT的なAIに正解を委ねる世界になっていくのかもと思っていて。

そんな中で、“人間らしさ”“自分らしさ”を見失わないこと、自分自身の内に深く潜ったり、内面を育てていったりしないといけないと考えていて……そこが「ヒューマンコメディ」のポイントになるなと、興味を持ちました。


──具体的に、スマート農業を見てどんなことを感じられましたか?

青野:私が最初に触れたのも蒼太と同じドローンで、とてもわくわくしました。「すげぇ」と(笑)。そして、農薬の使用量が減らせる話なども聞いたりして。ドラマ(第2話)の中で「みどりの食料システム戦略」の話題も出てくるのですが、たしかに必要な指針だし、そのためにスマート農業は欠かせないということも私自身も実感しました。

日本ってやっぱり、ある程度農薬を使わないと収量や品質を安定的に確保できないという現実はあるじゃないですか。そんな中で、よりサステナブルな取り組みには共感したいし、応援したいとシンプルに思ったんです。

──青野さんご自身も、サステナブルとか農薬をあまり使わない食品などに日頃から気を付けてらっしゃるんですか?

青野:撮影で一緒に過ごした中沢さんやスタッフたちにバレるくらいには、食べる物に気を付けている方です(笑)。ただ、昔は「農薬は悪」みたいなイメージがあったことも知っていますが、日本の環境でまったく使わないという選択は難しいという実情も理解できるから、現場の農家さんのことを何も考えずに好き勝手言うのもなぁ……とすごく思っていて。

それでも、やっぱり余分に使わなくて済むのなら当然使わない方がいい。そのせめぎ合いは自分の中にもあって。なので、必要な成分と量だけを適材適所で効率的に使うスマート農業には、私はとてもポジティブな未来を感じたんですよね。

──まさにドラマの中でも、完全にITなんかやらないという猿島家と、ITを便利に使うという犬山家、ふたつの農家が描かれていますよね。

青野:そうですね。「調和」のテーマに基づいて対立するものを挙げていて、各話にもさまざまな対立構造を混ぜ込んでいるんです。

登場人物の相関図。さまざまな対立構図の中で主人公や登場人物が関わっていく

──消費者と生産者の温度感の違いや、農業の人手不足、外国人労働者、さらにはパワハラ、セクハラ、ミソジニー、いじめなど、いろいろな社会問題も盛り込まれているとも聞きました。

青野:第2話までの感想ポストでも「いろいろな要素が詰め込まれている」と気づいてくださる視聴者さんもいて。農業を通して、「これからの世界を生きていく」というところに持っていきたいんですが、最後の第10話まで観たら、きっと作品の意図したことは分かっていただけると思います。


ニュースと農家のSNSの矛盾を参考にした脚本づくり


──撮影されたのは2025年の8月〜9月とのことでしたが、世間ではちょうど「令和の米騒動」などの米不足、異常な米価の高騰、同時に高い米が余るといった動きがありました。そんな世論に合わせて、脚本で変わった部分などはありましたか?

青野:脚本はニュースや米農家さんや野菜農家さんなどのSNSも見ながら書いていったので、変えるというよりも「こういう意見があるんだ」と知ったことは、常に取り入れていました。

第3話で、猿島さんが農家の思いを語る場面があるんです。「令和の米騒動」で、米がないって言われて買い占めに走る人がいましたが、戦後国民がパンとかパスタとかを食べるようになって米の消費量が減っていき、生産を減らしていった側面もあった。そういう事実を無視して、農政が論争になる──

猿島さんというキャラクターを通して、米農家さんの悲哀というか、今まで「清貧であれ」と言われ続けてきたことへの私なりのエールのようなものを込めたつもりです。


──そういった思いを持つきっかけもあったんですか?

青野:世論と農家さん個人の意見があまりも違うとか、そういうものを比較していると思うことがたくさんあって。

買い占めに走ってしまった方だって、後から自分でも気づいてはいると思うんです。買えた時にはその場では安心するけど、実際に食べる分量だけ買っているかと言われたら違うこともあるかもしれない。

──確かに、米不足に対して消費者にも不安な気持ちがありましたが、農家としての思いも複雑ですよね。

青野:ニュースなどでも、米の値段の話ばかりするのではなくて、「今は『スマート農業』のような新しい技術があるから注目していきましょう」とか、前向きな側面も増えればと思ったんです。感情的に不安に飲み込まれることよりも、問題は解決していくことが大事じゃないですか?

人手不足とか高齢化とか、農家は向き合っていかないといけない。でも、文句を言っている方たちが農業をやってくれるのかといえばそうじゃない。その解決のためにスマート農業などのテクノロジーの力を使うことは、私はすごくいいことだと思っています。まだ導入しているところも少ないとも聞きますし、資金の問題とかハードルはあるんでしょうけど、それらをみんなで乗り越えていけるような日本でありたいですよね。


ドローンだけじゃない、スマート農業の現場のリアル


──スマート農業についても取材をされたかと思いますが、イメージが変わったことはありましたか?

青野:ドローンが一番のインパクトだと思うんですけど、ほかのスマート農業の技術も知ってもらいたいという欲があったので、圃場管理システムとか、種子処理の話など各話でいろいろな技術を話題に出していて。

第4話に出てくる田んぼの水管理システムに対しては、日本って水資源が豊富な国だと思っていたけど水ストレスは高いんだ……とか、今後AIデータセンターの建設で水不足が深刻になっていきそうという話も含めて、私自身も考えさせられました。

──主人公の蒼太もゲーム会社からニートになって農業に携わりますが、農業の現場では本当に若い担い手がいないと聞きます。

青野:就農者全体のうち、49歳以下が10%とか言われていますよね。スマート農業をきっかけに面白そうと思ってもらいたいですが……。私も今までは農業は肉体労働だと思っていたけど、知能も使わないといけないし、化学実験みたいなものなんだと途中で気づきました。

番組の予告編にも入れていますが、第1話で「3000年の時を経て」っていうセリフがあるんですけど、縄文後期から稲作が始まったと考えると、稲作の歴史って約3000年なんですよね。年に1回の稲作で3000回。ひとりの農家さんでも人生で60回くらいしか作れない。そう思ったら、1年1年作物を育てるということがいかに尊いかということに感動したんです。最近では再生二期作などで年に2回作れるようになったとも聞きますが、今回本当に学びがいっぱいありました。




若い世代にこそ、農業を“自分ごと”にしてほしい


──「ゲームチェンジ」を通して、農業関係者や農家さんたちに一番伝えたいことはなんですか?

青野:企画の発端は、「若い人に農業に興味をもってもらいたい」でした。だから、蒼太が元ゲーマーの方が取っかかりやすいし、「もしかしたら自分も農業できるかもしれない」って思ってもらいたいなあって。でも、犬山さんと猿島さんみたいに、農業を愛している方や違う立場の方たちにも、いろんな視点、いろんな角度から観てほしいです。

第3話で蒼太の「農家さんたちには頭が上がらないです。みんなのためにというか……」という言葉に、猿島さんが「本来人間はそうあるべきだろう」と言うんです。人の営みってそういうものじゃないのかなと私は思っていて。エゴではなくて「プレーマ」(無条件の愛)のあり方というか。

なのに、なぜか国民生活のライフラインである農家さんたちばかりが「追い込まれる」ような思いをさせられている。それは私はいいことじゃないなと思っていて。みんなが助け合って支え合っていく共生社会で、日本の和の精神みたいなものをもう一度思い出したいという気持ちもあります。


猿島さんよりも上の世代の農家さんたち、あるいはいままさに作物を育てている方たちは、そういう「和の心」を忘れずに持っているのかなって。自然と調和して生きることが当たり前に根付いていて、おてんとさま、水の恵み、風や大地に抱く感謝の気持ちみたいなものももう一度呼び起こせたらな、とも思います。

農家さんたちにもなにか感じてもらえるものがあればうれしいですし、農業初心者に向けたドラマでもあるので、ツッコミどころがあっても少し大目に見てください(笑)。

──逆に、農家さんにとってもスマート農業というテーマを通して、普段あまり接することのない若い人の考えていることが伝わるかもしれませんね。

青野:そうですね。若い世代は効率的、合理的にという思考の人が多いと言われますが、私は必ずしも悪いことじゃないと思っているんです。一歩間違えれば最初に言った「ロボット化」みたいになってしまうかもしれませんが、どんな物事にも良い面と悪い面が表裏一体でありますから。そういう志向性を農業にもうまく活用できたらいいし、それこそがスマート農業だと思っています。

あと基本的にいまどきの若い世代は平和主義ですしね。いろいろな世代、立場の人が「調和」していくというところもこのドラマのテーマなので、お互いに歩み寄って理解し合っていきたいですね。



BS-TBS「ゲームチェンジ」放送情報


2026年1月22日(木)よる11時 第3話放送


【第3話「それぞれの戦い方」】
猿島(山内圭哉)の家の離れで一緒に暮らすこととなった蒼太(中沢元紀)と龍郎(髙松アロハ(超特急))。2人のビジュアルを利用できると考えた結女美(石川恋)は、彼らをイメージキャラクターに抜擢し、ニュース番組の取材を取り付けるなど農家専門マッチングアプリのPRに奔走するが、そんな結女美を猿島は気に食わない様子。そんな中、蒼太は田んぼの害虫情報を猿島に伝えようと行動する。これをきっかけに蒼太と猿島の間に交流が生まれるも蒼太がぽろっと話した結女美の行いに対して、猿島はヒートアップ。上べだけを取り繕うとする結女美に厳しい言葉を放つ。猿島に勝ちたい思いが募る結女美だが、蒼太が淡々と自分の考えを話すと、結女美の心も変化していく……。


放送日時:2026年1月8日(木)よる11時スタート 全10話(30分枠)
※BS-TBS、BS-TBS 4Kで同時放送
※HBC北海道放送 2026年1月8日(木)深夜1時56分スタート
※RKB毎日放送 2026年1月10日(土)深夜2時00分スタート
(放送日は特別編成により変更になる可能性あり)

■出演
草道 蒼太/クサミチ・ソウタ・・・中沢 元紀
沢樹 結女美/サワキ・ユメミ・・・石川 恋
立花 龍郎/タチバナ・タツロウ・・・髙松 アロハ (超特急)
犬山 萌子/イヌヤマ・モエコ・・・丹生 明里
葉室 京子/ハムロ・キョウコ・・・中村ゆりか
猿島 次時/サルジマ・ツギトキ・・・山内 圭哉
犬山 浩/イヌヤマ・ヒロシ・・・小松 和重
太田 優/オオタ・ユウ・・・鈴木拓(ドランクドラゴン)
中屋敷 昭美/ナカヤシキ・アケミ・・・・青木さやか
竹下 愛一郎/タケシタ・アイイチロウ・・・いとうせいこう

■スタッフ
企画・脚 本・プロデュース:青野華生子
監 督:田中和次朗(1話~3話・7話・9話・10話)
中山佳香(5話・6話・8話)
伊藤一平(4話)
音 楽:成田ハネダ(パスピエ)
オープニングテーマ:
INF「CHANGE DA GAME」(チェンジダゲーム)(キングレコード/HEROIC LINE)
エンディングテーマ:
ラブリーサマーちゃん「ウインド・ソング」(日本コロムビア)
プロデューサー:黒木彩香(BS-TBS)、三好保洋(さざなみ)、伴健治(さざなみ)
製作著作:「ゲームチェンジ」製作委員会
製作委員会:BS-TBS、TBSグロウディア、HBC、RKB
制作プロダクション:フラッグ、さざなみ
URL:https://bs.tbs.co.jp/gamechange/

©「ゲームチェンジ」製作委員会


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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