農場設計から始まる果樹収穫ロボット開発──銀座農園株式会社(前編)

銀座農園株式会社は2009年の創業からトマトや梨を作るだけでなく、東京・有楽町の交通会館前をはじめ首都圏各所でマルシェを展開し、全国の農家に都心での販売拠点を提供してきた。さらに自社や契約農家の野菜や果物を原料にした漢方ジュースのバーを銀座で営業する。一貫してフードバリューチェーンの構築に尽力してきた同社。それが突如としてロボットビジネスに参戦するという。

造ろうとしているのは果樹の収穫ロボット。開発の拠点となるのは福島県、そしてイスラエル。それぞれの地で別のタイプを造り、2020年にも実用化するそうだ。狙いはどこにあるのか。物流やインフラ点検、大規模災害時などに活躍が期待できるロボットの一大研究拠点「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市)で飯村一樹代表に聞いた。

栽培システムを農業ロボットに合わせる

──どうして果樹収穫ロボットの開発を始めることになったんですか。

少しさかのぼって話をしていきます。我々は2012年からシンガポールに進出して現地でフルーツトマトの生産を始めました。農法は根域制限栽培のアイメック農法(特殊なフィルムを用いて水分供給量を制限することで、高糖度の野菜や果物を栽培する技術)。計画ではまずはシンガポールで実績を残し、いずれアジア各地に展開しようと思っていたのですが、雇っていた技術者が辞めてしまうと栽培計画をゼロから練り直すことになったり、海外での長期滞在が長期化すると家族の反対もあったりと、日本人技術者に農業技術を帰属させる形での海外展開に限界を感じました。

そんな時、茨城の実家で新しい樹形で梨の栽培を始めたのです。通常は棚状に仕立てていくところをY字型にする。これだとロボットでも収穫しやすいので、自分たちで農業ロボットを造ってみようとなった。それで昨年、福島県からロボット開発事業費をもらうなどして、研究開発をしているところです。ロボットならばデータを蓄積していくことができますから。

──ロボットに樹形を合わせるという発想が面白いですね。

そうですね。僕は農業を始める前は建築業界にいて、一級建築士の資格も取っていたので、農場の合理的な配置を設計する癖がついているんです。

──Y字はどのくらいの角度になるんですか。

神奈川県農試は60度を推奨していますが、僕らはロボットがより取りやすいように45度を試すつもりです。ただ、Y字がベストだとは思っていませんので、筑波大学とさらなるロボットに合わせた樹形の可能性について研究を進めています。例えば、側枝をT字型にして横にきれいに並べる。この場合、ロボットは下から上にある果実を画像認識して取っていくことになります。

──Y字とT字とでは果実の取り方が変わってきますよね。

そうなんです。ただ、いずれにせよ人間と同等に10秒以内に果実を摘み取ることを目指しています。それにはアームを多関節にしてはだめ。動き出してから収穫するのに、間接数が多いほど時間がかかってしまいますし、コストが高すぎる。我々はせいぜい二軸か三軸で済ませ、動き出してすぐに果実を収穫できるようにしたい。樹形としてはおそらくT字のほうが軸が少なくてコストが安くて済むのかなと思っています。


次回は、銀座農園の農業ロボット開発のさらなる展望と、その先に見据えるデータプラットフォームの構築についてお伝えする。

<参考URL>
銀座農園
福島ロボットテストフィールド

SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便