ドローン&AIによる新技術「ピンポイント施肥」の成果とは?

ドローンで撮影した圃場の写真をAIを使って解析し、雑草防除や病害虫対策を行う株式会社オプティムの特許技術「ピンポイント農薬散布テクノロジー」。人間の目や経験では見つけきれない雑草や病害虫の兆候を探し、作業時間の短縮と使用する農薬などの資材費用の削減、そしてなにより安全で安心な農産物を提供できる技術として、これからの新しい農業のやり方のひとつとして期待されています。

その「ピンポイント」技術に、新たに「ピンポイント施肥」が登場しました。稲の生育状況をドローンとマルチスペクトルカメラで分析し、成長を促したい場所にだけ、自動で効率的に肥料を追加するというものです。

いったいどのように行われているのか。オプティムとスマートアグリフードプロジェクトとして取り組んでいる、有限会社ファーマーの宮崎数馬さん、隆司さん親子に、その作業を見せていただきました。

有限会社ファーマー代表取締役の宮崎数馬さん(左)と、息子の隆司さん

40aの田んぼで散布はわずか20分


「ピンポイント施肥」を簡単に紹介すると、

  1. ドローンを用いて圃場を撮影する
  2. 撮影した画像をオプティムのクラウドサーバーでひとつの画像(オルソー画像)に変換
  3. NDVI解析により生育状況を分析し、施肥が必要な場所を割り出す
  4. 施肥が必要な場所に自動飛行ドローンが施肥を行う

という流れになっています。

今回実証した圃場は40aの水稲圃場。準備などを含めても解析に半日、施肥に20分程度と丸1日で完了してしまいました。

実証を行った圃場。稲の高さや色、量などのムラがある部分が施肥が必要な箇所

この圃場は地域の方から譲り受けたため、過去の知見や生育状況などのデータは宮崎さん親子にはまだありません。離農や委託などで新たに手がけることになる圃場は、一般的にそれまでのデータを引き継げることは少ないため、今回の圃場も今年から新たにデータを取り直す必要があるのです。

確かに、素人が周囲を歩いてみただけでも、稲の育ち方にムラがあることだけはわかります。問題は、40aの圃場のうち、目で判断できるのは畦道から見えるせいぜい数メートル範囲だけということ。上空からドローンで撮影した目にはベテランの農家でもさすがにかなわないと、ファーマー代表の宮崎数馬さんは言います。

「今まで圃場を歩いて自分らの目線で見て判断してきましたが、この技術を使うことでデータ化され、ドローンを利用することで圃場を上から細かく見ることができます。データ化するので引き継ぎも楽になり、目線が共有できるので人材育成にも役立つと思います」

6年前に就農したという息子の隆司さんも、「これまでは自分で見て覚えたり、行政の指導員さんに教えてもらったりしながら生育状況の確認をやってきました。ただ、昔の職人気質のような教え方でやってもこれからの人は付いてこない。そういったところをデータ化することで、若い人でもスッと農業に入ることができます」とピンポイント施肥に期待を寄せます。

自動飛行により均一な散布が可能に


作業としては、隆司さんがドローンにより半自動で圃場撮影(センシング)を担当。撮影時間は5分程度で、パソコンを使ってデータをクラウドにアップロードする時間は1~2時間ほどです。オプティムのクラウドサーバーによる解析が2時間程度なので、今回は準備なども含めて11時〜16時で撮影から解析まで、あらかじめ行っておきました。

NVDI画像として解析したもの。生育状況が悪い緑の部分が見られる
圃場を5m四方のグリッドで区切り、施肥が必要な場所を分析した図。色が薄い場所に施肥を行う

オプティムのクラウド解析システム「Agri Field Manager」と、ドローンがシステム連携しているため、実際の施肥作業については、今回使用したXAG製自動飛行ドローン「P30」では、必要量の肥料を搭載してスタートボタンを押すだけ。飛行時間は約10分、準備も含めて2時間程度で「ピンポイント施肥」の作業はあっけないほどにトラブルなく終了しました。

実証に使用したXAG製自動飛行ドローン「P30」

肥料はある程度の範囲に効果を発揮してくれるため、「ピンポイント」と言ってもピンと来ない方もいるかもしれません。具体的には、40aの圃場を解析ソフトで散布幅=グリッドに分けて、施肥が必要なグリッドがいくつあるのかを解析しています。

撒く量については、ドローンの制御アプリで圃場に対して何g必要かを計算してくれるため、あとは散布場所をオプティムの「Agri Field Manager」で指定するだけ。スマホのボタンひとつで飛び立ち、施肥が終わると自動的に戻ってきます。

圃場の角にはRTKアンテナを設置。GPSと合わせて、位置をより正確に合わせられる

今回使用した肥料は細かめな粒剤の「LPコード30」。散布の時期(7月末)はまだ穂が出ていない状態でしたが、穂が出てからの体力を付けるためにこの追肥を行いました。生育のための肥料の効果が切れかけているこのタイミングで、今度は実りのための肥やしとして、収穫間際まで栄養分が切れないようにすることが目的です。

粒剤は直接ドローンのタンクに入れ、下部のノズルから散布を行う

「ピンポイント施肥」なら1人でもできる


実際の作業を終えた宮崎さんは、省力化と時間短縮により、圃場による収量のバラツキを均一化することに期待を寄せます。

ファーマーの宮崎数馬さん

「今まで畔の中までは見えなかったですが、上から見ることによって見えるようになりました。経験はありますが、こっちの方が正確ですからね(笑)。だいたいでやっていたものがもっと精度が上がった感じ。しかもピンポイントで落としたいところにだけ落としてくれるので画期的だと思います。

そもそもひとつの田んぼでも収量のバラツキはあります。ここは草が生えやすいとか、水が溜まってぬかるみやすいとかね。これからはそれをデータとして蓄積して統計を見ながら、施肥などの調整をしていけます。

ひとつの圃場だけだと、今までよりも時間はかかっています。ただし、今まではアバウトだったからしっかり改善もできませんでした。さらに、これがうちが持っている75haの圃場でできたとしたら話は別です。

毎年収量が良くない圃場とかもありますが、そういうところを順番になくしていって統一できれば、次年度にもつながります」

特にメリットとして大きいのは、自動飛行ドローンによりひとりで作業ができるようになること。動力散布機は圃場全体に散布していたため、広さの分だけ人が必要ですし、手動のドローンでも安全確認のために最低限2人は必要です。

しかし、自動飛行ドローンであれば、スイッチひとつで自動的に飛行し、元の場所に戻ってくるだけで、作業人員はひとりだけで済むため、人手不足の解消にも大きく貢献してくれるそうです。

「ピンポイント施肥」によりベテランと若手の「目線」が合う


ピンポイント施肥の特徴をあらためてまとめてみましょう。

  • 経験や勘に頼らず、ドローンとAIにより圃場の生育ムラを確認できる(経験不足の解消)
  • 少ない人数かつ短時間で施肥が完了する(少人数、省力化)
  • 時間短縮により施肥できる圃場の広さが拡大できる(生産規模の拡大)
  • これらすべてが、経験の少ない若手でもすぐに実践できる(事業承継

これらは、いま日本の農業において課題とされているすべての要素と言っても過言ではありません。

そして、おそらく生産者にとって最大の障壁であろう、システム導入のための予算についても、オプティムは「スマートアグリフードプロジェクト」というビジネスモデルによって解決しています。

スマート農業アライアンス」は、オプティムの最新のスマート農業技術の実証や研究に一緒に取り組むことで、その技術によって生産された農産物をオプティムが一般的な市場価格で全量買い取りするというもの。そしてその販売については「スマートアグリフードプロジェクト」としてオプティムが請け負っており、「ピンポイント農薬散布」や「ピンポイント施肥」によって生産されたコメを「スマート米」というかたちで販売しているのです。

作業を終えた隆司さんに、あらためて「ピンポイント施肥」について伺ってみました。

ファーマーの宮崎隆司さん

「僕にとっての最大の魅力は、『目線が合う』というところですね。私が見に行った時と代表(父)が見に行った時、他の従業員が見に行ったときでは、生育状況の印象が違ってくるんです。

それと、ドローンでの全面散布でも操縦する人によってどうしてもムラが出てきてしまうのが、自動運転なので誰がやっても均一に散布できます。

第一次産業の農業には、頑張ったら頑張った分だけ結果として還ってきて、しかもそれを誰かに食べてもらって『美味しい』って言ってもらえるのが嬉しくて、そこに魅力を感じていました。地域の離農や委託が増えて農地があふれているのに自分だけではどうにもならないと思っていましたが、『ピンポイント農薬散布テクノロジー』や『ピンポイント施肥テクノロジー』といった新しい技術が入ってくることで全部できるようになる。そして、興味を持って新しく入ってきた人にもすぐにノウハウを伝えることができるというのが魅力的な部分なので、こんなふうに農業が変わっていくのは私はウェルカムです」

過疎地域での圃場の維持と集積化を進め、地域のコメの生産を一手に担うファーマー。さまざまな生産者から譲り受けた総面積約75haの圃場の生育と収量のバラつきは、「ピンポイント施肥」を活用して整えていくことができるはずです。

「ピンポイント施肥」で作った「奥能登コシヒカリ」は特別栽培米に


今回、「ピンポイント農薬散布」と「ピンポイント施肥」を活用して栽培した宮崎さんのコシヒカリは、農薬と化学肥料の使用量を慣行栽培の50%以下まで削減した特別栽培米の「スマート米」として販売。

宮崎さんの「スマート米 奥能登コシヒカリ 特別栽培米」販売はこちら

「能登はやさしや、土までも」と言われる肥沃な土壌で、甘みと粘りを蓄えた奥能登コシヒカリを、ぜひ味わってみてください。


有限会社ファーマー
http://notofarmer.jp/
スマートアグリフードプロジェクト
https://www.optim.co.jp/agriculture/smartagrifood/

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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。