自動収穫ロボットビジネスは収穫量に対するマージン方式──inaho株式会社(後編)

※初出時、写真のお名前を誤っておりました。お詫びして訂正いたします。

農業ロボットの開発を手がける神奈川県鎌倉市のベンチャー企業、inaho株式会社が2019年から実用化に入るアスパラガスの自動収穫AIロボット。農業ロボットを開発する企業が増える中、inahoの普及方法で特徴的なのは、販売するのではなく貸し出すという点だ。

▲inaho株式会社の自動収穫ロボットのプロトタイプ

inahoの収益は収穫量に対するマージン方式

貸し出すといっても利用者が支払う料金は定額ではなく、このロボットで収穫したアスパラガスの売上に対して15%のマージンを想定している。つまり顧客である農家の利益が増えれば、そのままinahoのそれも増える仕組みである。

売上は収穫量と市場価格を掛け合わせて算出する。収穫量はどうやって把握するのかといえば、ロボットの荷台部分に重量センサーを搭載している。

なぜそうするのか。inahoの外波山晋平さんはこう説明する。

「これは設計思想に基づいています。このロボットはコンピューターやセンサー、小型モーターなどを搭載した精密機器なのですが、もし従来の農機具のように売り切りにすると、耐久性や堅牢性を今よりもずっと上げないといけなくて、自動車レベルのものが必要になってしまう。それだと高額になり過ぎて、現実的ではない。だったら貸し出す方式にして、破損したらこちらの負担で修理します」

さらに言えば、ロボットのアップグレードを行ったり機能を増やしたりしていく構想を持っていることとも関係している。

「これらの機器は年々めざましく進歩していて、スマホのように数年もすれば性能が時代遅れになってしまいます。貸し出すものを順次アップグレードして性能が上がれば、借りる側も貸す側も双方のメリットになる。アップグレードするなら売り切りでないほうがいいんです。将来的にはこれ1台で、薬剤の散布や草刈りなどもできるようにしたいと考えています」

▲inaho株式会社の菱木豊社長(右)と外波山晋平氏

充電の自動化やデータ収集も

プロトタイプではフル充電すれば6時間持つ。バッテリーの充電にかかるのは3時間。作業の流れとしては朝から稼働させ、昼は充電に当て、午後から再始動させるといったことを想定している。最終的にはロボット掃除機のように、バッテリーがなくなりそうになったら、ロボットが圃場に設置した充電できる基地に戻るようにするつもりだ。

さらにデータを活用したクラウド型の営農支援サービスも展開する予定。ロボットに気温や湿度などのセンサーも取り付け、一連のデータを収集。それを分析して、収穫量や病害虫の発生を予測したり判定したりして、利用者に伝える。

ロボットを普及する先はまずは佐賀県。それに当たって2019年1月に佐賀県鹿嶋市と進出協定を締結し、同地にオフィスを開設した。ここを拠点に福岡、佐賀両県にも広げていく。

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すでにキュウリの収穫でも実用化できる段階に来ており、今年はアスパラガス用とキュウリ用でそれぞれ20台ずつを製造する。2020年には300~400台の製造を見込んでいる。さらに園芸栽培の野菜の中で国内でもっとも生産高が大きいトマトでも使えるように検討していくという。

▲ビニールハウスでの収穫作業の実演

自動収穫ロボットの実用化はこれからだが、すでに全国の産地から自分たちのところで試験してほしいと声がかかっているという。それだけ人手不足が切実な問題であるということはもちろん、農家とともに成長し、儲けていくというinahoの姿勢に、農家たちが共感しているからなのだろう。今後の成長が楽しみなベンチャーである。

<参考URL>
inaho株式会社
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
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    川島礼二郎
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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