JAからつでのパッキングセンター導入で、イチゴ農家の所得が増加
今回はイチゴの産地で選果やパック詰めなどの作業を一括して担う「パッケージセンター」の意義について考えてみたい。
ほとんどの産地では現状、これらの作業は農家の仕事だ。その負担の大きさから後継者が毛嫌いし、品目の転換や廃業する事態が生じている。
佐賀県のJAからつでの取材を通して、産地の維持には同センターの存在が欠かせないことがわかった。
佐賀県におけるイチゴの生産量の3割以上を占めるJAからつ。12月上旬、唐津市市原にある同JAのパッケージセンターでは、同県が育成したブランド「いちごさん」を出荷する農家が車でちらほらと訪れていた。ちょうど前日から、2021年の5月末にまで及ぶ今期の集荷を始めたところだった。
同JAの説明によると、センターでは集荷したイチゴを予冷庫で1日保管し、選果やパック詰めなどをした後に出荷する。これらの作業は2014年まで農家が個別に行ってきたものである。
それをJAで一括して請け負うべくパッキングセンターを運営した背景には、生産農家の高齢化と、止まらない農家の減少があった。
出典は、三重大学大学院生物資源学研究科の徳田博美教授が独立行政法人・農畜産業振興機構が発行する「月報野菜情報」の2017年5月号に寄稿した「導入進むいちごパッケージセンターの成果と課題~唐津農業協同組合の取り組み~」。この報告書によると、JAからつ唐津地区のパッキングセンターが竣工する直前、2012~14年度の全国における労働時間(農業経営統計を基に算出)の平均は4667時間だった。
農業経営に関与する平均的な人数は2.49人だったので、1人当たり1874時間。強調したいのは、これは1年ではなく半年の労働時間であるということだ。休みなく働いたとして1日当たり10時間を超える。
同じくこの報告書で労働時間の内訳をみると、最も多く占めるのは1029時間の「収穫・調製」で29.1%。
「包装・荷造・搬出・出荷」が842時間の23.8%。両者で半数以上を占めている。イチゴづくりがいかに労働集約的であるかが理解してもらえただろう。特に収穫の最盛期には「2時間しか寝れないことなんてざら」(JAからつ)という過酷さだ。収穫期間中となるとイチゴは毎日実をつけるので、当然ながら休みはない。
「イチゴ農家には嫁をやれない」という話を産地でときどき耳にするのは、こういった背景があるためである。
JAからつがこうした労働環境を改善するために建てたのがパッキングセンターだ。基本的に農家は収穫したイチゴをコンテナに入れ、センターに運んでくるだけでいい。後の作業はセンターの職員がこなしてくれる。
JAからつが運用するパッキングセンターは2棟ある。1棟は冒頭に紹介した唐津地区のセンター。もう1棟はこれより5年前の2010年から稼働している上場(=うわば)地区のセンターだ。
取材先としてJAからつを選んだのは、これら2棟のパッキングセンターで管内で生産する農家全戸のイチゴを受け入れられる体制ができているためである。私が調べた限り、パックセンターを運営するJAは存在するものの、農家全戸を対象にしているJAは存在しなかった。
では、本当に所得が減ったのか。
JAからつによると、選果と調製をパッキングセンターで引き受けるようになったことで、まず農家の収量は上がったという。というのも農家が自ら選果やパック詰めをしていた時代には、それらの作業に追われて収穫しきれず、残った下位等級品の一部は廃棄していたのだ。
事実、農家の平均反収はセンターが稼働した前後で4200kgから4800kgに増えており、収穫する余裕が生まれたことが分かる。JAからつ唐津中央営農センター(いちごリーダー)所得の変化について、課長代理の山口康宏さんはこう語る。
「きちんと集計して計算しているわけではないが、感じとしては数パーセント上がっている」
同JAいちご部会長の本弓寿徳さんはパッキングセンターを「とにかくラクになったよね」と評価。山口さんは「以前であればショッピングや子どもの行事に参加する暇もなかった。パッキングセンターができたことで、そうしたことができる余裕が生まれた」と語っている。
一点断っておくと、管内で生産されたイチゴの全量を受け入れられるわけではない。収穫量が多くなる時期はパッキングセンターの能力を超えるので、一部は農家が自ら選果やパック詰めをしている。
ただ、山口さんは2020年からそれも改善されるとみている。理由は収穫量が時期によって浮き沈みが少ない品種の構成にしたからだ。2020年産で作付面積の95%を占める「いちごさん」がそれである。
JAからつは2006年に4つのJAが合併して誕生した。とくに旧JA上場の上場地区がイチゴづくりに力を入れてきたことから、まずは「必然性の高い」同地区でパッキングセンターをつくることにした。上場地区での評判が良かったことから、唐津地区にもその噂が広がってセンターを建てるに至ったのである。
イチゴ産地がパッキングセンターを建てることを計画するのであれば、必然性の高い地域から始めるということは覚えておくべきだ。しかし、山口さんはほかの産地でセンターを導入できるかどうかについては懐疑的だ。
同JAのセンターには多くの視察がある。そこで漏れ聞こえてくるのは、農家がセンターを望んでいない声だという。
「結局、農家は自分で選果や調製をしたい。人に任せたのでは、自分がつくったイチゴがきちんと評価されないという思いがある」
もちろん高齢とともに選果や調製をすることは厳しさを増し、いずれは廃業に至る。「それもまた良し」としてしまっているのだろう。それは個人の生き方であるので、他人がとやかく言う資格はない。しかし、産地として生き残るのであれば、是が非でもパッキングセンターを実現する道を探るのがJAの責務である。
JAからつ
https://www.ja-karatsu.or.jp/
ほとんどの産地では現状、これらの作業は農家の仕事だ。その負担の大きさから後継者が毛嫌いし、品目の転換や廃業する事態が生じている。
佐賀県のJAからつでの取材を通して、産地の維持には同センターの存在が欠かせないことがわかった。
佐賀県のイチゴ生産量3割以上を占めるJAからつ
佐賀県におけるイチゴの生産量の3割以上を占めるJAからつ。12月上旬、唐津市市原にある同JAのパッケージセンターでは、同県が育成したブランド「いちごさん」を出荷する農家が車でちらほらと訪れていた。ちょうど前日から、2021年の5月末にまで及ぶ今期の集荷を始めたところだった。
同JAの説明によると、センターでは集荷したイチゴを予冷庫で1日保管し、選果やパック詰めなどをした後に出荷する。これらの作業は2014年まで農家が個別に行ってきたものである。
それをJAで一括して請け負うべくパッキングセンターを運営した背景には、生産農家の高齢化と、止まらない農家の減少があった。
農繁期には睡眠時間が1日2時間
ここでイチゴの施設栽培における農作業別の労働時間とその割合を抑えたい。出典は、三重大学大学院生物資源学研究科の徳田博美教授が独立行政法人・農畜産業振興機構が発行する「月報野菜情報」の2017年5月号に寄稿した「導入進むいちごパッケージセンターの成果と課題~唐津農業協同組合の取り組み~」。この報告書によると、JAからつ唐津地区のパッキングセンターが竣工する直前、2012~14年度の全国における労働時間(農業経営統計を基に算出)の平均は4667時間だった。
農業経営に関与する平均的な人数は2.49人だったので、1人当たり1874時間。強調したいのは、これは1年ではなく半年の労働時間であるということだ。休みなく働いたとして1日当たり10時間を超える。
同じくこの報告書で労働時間の内訳をみると、最も多く占めるのは1029時間の「収穫・調製」で29.1%。
「包装・荷造・搬出・出荷」が842時間の23.8%。両者で半数以上を占めている。イチゴづくりがいかに労働集約的であるかが理解してもらえただろう。特に収穫の最盛期には「2時間しか寝れないことなんてざら」(JAからつ)という過酷さだ。収穫期間中となるとイチゴは毎日実をつけるので、当然ながら休みはない。
「イチゴ農家には嫁をやれない」という話を産地でときどき耳にするのは、こういった背景があるためである。
JAからつがこうした労働環境を改善するために建てたのがパッキングセンターだ。基本的に農家は収穫したイチゴをコンテナに入れ、センターに運んでくるだけでいい。後の作業はセンターの職員がこなしてくれる。
JAからつが運用するパッキングセンターは2棟ある。1棟は冒頭に紹介した唐津地区のセンター。もう1棟はこれより5年前の2010年から稼働している上場(=うわば)地区のセンターだ。
取材先としてJAからつを選んだのは、これら2棟のパッキングセンターで管内で生産する農家全戸のイチゴを受け入れられる体制ができているためである。私が調べた限り、パックセンターを運営するJAは存在するものの、農家全戸を対象にしているJAは存在しなかった。
選果を委託しても、所得は数パーセント増加
第1号となった上場地区のパッキングセンターを建てるに当たって壁となったのは、意外にも農家から懸念する声だった。それは「パッキングセンターに出荷すると作業賃が取られる分、所得が減るのではないか」というもの。それまで農家は選果や調製といった作業を内在化してきたので、センターに委託すれば支出が増えるのは当然だ。では、本当に所得が減ったのか。
JAからつによると、選果と調製をパッキングセンターで引き受けるようになったことで、まず農家の収量は上がったという。というのも農家が自ら選果やパック詰めをしていた時代には、それらの作業に追われて収穫しきれず、残った下位等級品の一部は廃棄していたのだ。
事実、農家の平均反収はセンターが稼働した前後で4200kgから4800kgに増えており、収穫する余裕が生まれたことが分かる。JAからつ唐津中央営農センター(いちごリーダー)所得の変化について、課長代理の山口康宏さんはこう語る。
「きちんと集計して計算しているわけではないが、感じとしては数パーセント上がっている」
生活を楽しむ余裕が生まれる
もう一つの利点は農家の精神的、肉体的な負担が軽減されたことである。同JAいちご部会長の本弓寿徳さんはパッキングセンターを「とにかくラクになったよね」と評価。山口さんは「以前であればショッピングや子どもの行事に参加する暇もなかった。パッキングセンターができたことで、そうしたことができる余裕が生まれた」と語っている。
一点断っておくと、管内で生産されたイチゴの全量を受け入れられるわけではない。収穫量が多くなる時期はパッキングセンターの能力を超えるので、一部は農家が自ら選果やパック詰めをしている。
ただ、山口さんは2020年からそれも改善されるとみている。理由は収穫量が時期によって浮き沈みが少ない品種の構成にしたからだ。2020年産で作付面積の95%を占める「いちごさん」がそれである。
パッキングセンター導入までの段取りが重要
山口さんは、パッキングセンターを運用するのであれば、竣工するまでの段取りが大事だという。JAからつは2006年に4つのJAが合併して誕生した。とくに旧JA上場の上場地区がイチゴづくりに力を入れてきたことから、まずは「必然性の高い」同地区でパッキングセンターをつくることにした。上場地区での評判が良かったことから、唐津地区にもその噂が広がってセンターを建てるに至ったのである。
イチゴ産地がパッキングセンターを建てることを計画するのであれば、必然性の高い地域から始めるということは覚えておくべきだ。しかし、山口さんはほかの産地でセンターを導入できるかどうかについては懐疑的だ。
同JAのセンターには多くの視察がある。そこで漏れ聞こえてくるのは、農家がセンターを望んでいない声だという。
「結局、農家は自分で選果や調製をしたい。人に任せたのでは、自分がつくったイチゴがきちんと評価されないという思いがある」
もちろん高齢とともに選果や調製をすることは厳しさを増し、いずれは廃業に至る。「それもまた良し」としてしまっているのだろう。それは個人の生き方であるので、他人がとやかく言う資格はない。しかし、産地として生き残るのであれば、是が非でもパッキングセンターを実現する道を探るのがJAの責務である。
JAからつ
https://www.ja-karatsu.or.jp/
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