「ゼロアグリ」は施設栽培の水やりをどこまで自動化できるのか?

AIを用いた潅水施肥を行うロボットゼロアグリ」。人が行う水やりや肥料の追加を自動で行ってくれる画期的なシステムです。SMART AGRIでも以前、株式会社ルートレック・ネットワークスの佐々木伸一社長にインタビューを実施し、「農業に休日を」という言葉を掲げて、休みの日でも圃場を見回らなければならない農業を変えるシステムとして話題になりました。

AIで水+肥料を制御する「ゼロアグリ」は農家に休日をもたらしたのか? ──株式会社ルートレック・ネットワークス

あれから1年半が経過し、「ゼロアグリ」は省力化は当然のこととして、より品質のいい作物、より収量を上げる方法を人が工夫できるように研究・開発を進めています。そして、土壌や気候が異なる日本の幅広い地域で、さらに多くの品種を誰もが栽培できるように実証実験が重ねられてきました。

施設栽培における潅水施肥制御技術はどこまで進んでいるのか、生産者の作業はどこまで省力化されたのか。株式会社ルートレック・ネットワークスで技術統括責任者を務める喜多英司氏にあらためてうかがいました。

株式会社ルートレック・ネットワークス技術統括責任者の喜多英司氏

「ゼロアグリ」がもたらすメリット

潅水制御を簡単に言えば「水やり」です。野菜に限らずどんな生き物でも水は成長するために必須ですが、あげすぎても足りなくてもいけないため、ちょうどいい分量をコントロールするのは人の役目でした。「ゼロアグリ」が行っているのは、その「ちょうどいい分量」を導き出すための土壌センサーやクラウドで取得したデータによる分析とAIによる判断です。

ただ、慣れた生産者であれば簡単にできそうなこの作業を、データを分析して植物に最適な分量とタイミングで実施しようとすると話は違います。

「土耕向けの潅水システムには、これまでタイマー式、日射比例式、土壌管理式といったものがありましたが、きめ細かい対応までは難しいものがありました。『ゼロアグリ』は、作物が1日に要求する潅水量=蒸散量を計算して、少量多頻度で水ストレスがないよう潅水します」

従来の潅水装置では、タイミングや量の検討(考える)と、数値などの決定(設定する)、次回の反省や対応(分析・修正)は人間が行い、決めた内容で潅水(実行する)部分だけが自動化されていました。「ゼロアグリ」はそのうちの人間が考える部分を、日射量と土壌水分量を分析することで肩代わりしています。

人間が行ってきた作業の大部分を「ゼロアグリ」が行ってくれる
さらに注目すべきは、生産者ならではのノウハウの部分もゼロアグリが担ってくれること。昼には多め、夕方から夜にかけては少なめにしたり、曇りでも成長期だから多めに水やりをした方がいいといった配慮を、土壌センサーやクラウドで取得したデータからAIが考えてやってくれるのです。

日々のセンサーによる情報取得の間隔は10分ごと。圃場の状態をクラウドが四六時中考えてくれることで、複数回に分けて少量で多潅水するという、人には時間的にも肉体的にも難しい頻度で潅水を行うことができます。


これだけいいところだけを聞くと「ゼロアグリ」に欠点はないのかと疑いたくなるもの。率直に聞いてみると、「カメラが付いていないので、その品種がトマトなのかナスなのかは区別できません」と喜多さん。この点だけは、作物の品種や特性を生産者が目で見て補正する作業が残されています。そしてここが、「ゼロアグリ」でも実現できない経験と勘が生かされる部分なのだそうです。

「潅水システム+人間」では成し遂げられない少量多潅水の精度

生産者が「ゼロアグリ」に指示しなくてはならないのは基本的に2点だけ。土壌にやる水分量の判断(目標土壌水分量)と、液肥濃度の判断です。それも、細かい数値を指定するわけではありません。初期設定で決めた数値に対してちょっと多めにしたり、ちょっと少なめにしたりする、というだけです。

「ゼロアグリ」の管理画面。スライダー部分を動かすことで、水分量(左)や液肥の濃度(右)を調整できる
それができるのも、少量多潅水で安定的な水と肥料を供給できるため。点滴のように少しずつ時間をかけて、天気や作物の成長度合いによって潅水量を変えていきます。一定量をタイマーで潅水するような方法と比べて水分の変化が少なく、作物へのストレスが少なくて済みます。人間で言えば、多量の水分を一度に摂取して1日持たせようとするのと、少しずつ飲むことの違いといえばわかりやすいでしょう。

手動方式、タイマー方式、ゼロアグリの潅水の違い
この少量多潅水による生産者へのメリットとして、作物・時間・経験という3つの悩みを解決できると喜多さんは言います。

「まず、少量多潅水を人間よりも正確にこなすことで、収量や品質の向上が期待できます。時間に関しては潅水と施肥の省力化もできますし、その部分を経営や作物の管理に充てることができます。経験値の部分は、生産者の経験が浅くても早い段階で匠の域に到達できますし、経験値がある生産者であれば自身のやり方を体系化したりマニュアル作りに役立てていただけます」

このように緻密な管理を常時行っているため、普段と違う状況になったときにLINEで通知したり、液肥タンクの残量不足なども知らせてくれます。当日や1週間の潅水状況のレポート機能もあります。製品のアップデートもクラウド側だけでいいので、本体を買い替えることなく最新の機能を使えるのも、IoT機器のメリットです。

イニシャルコストを抑えたサブスクモデルも

スマート農業導入の最大の障壁と言われているのが初期費用の部分。どれだけ高機能でも、予算に見合った成果が上げられなければ無駄になってしまいます。「ゼロアグリ」には、そういった生産者側のリスクを抑えて導入しやすい料金プランが設定されています。

ゼロアグリの料金プラン
まず、ハードウェアについて「圃場に設置する制御盤」と「土壌のセンサー・ケーブル」のみ。いちから導入する場合にはこれらの敷設工事なども必須ですが、すでに電磁弁や液肥の混入機、フィルター、ポンプ、タンクなどの潅水資材がある場合は、最小限の追加費用だけで利用可能になります。

料金プランは、「買い取り」「リース」「サブスクリプション※」の3つ。「買い取り」は支払総額が抑えられ、コロナ禍で利用可能な「経営継続補助金」などを利用する方もいるとのこと。「リース」は費用計上や支出の平準化をしたい方向け、「サブスクリプション※」は本格導入前に試してみたい方向けで、4カ月目からはいつでも解約可能です。

※サブスクリプションは2021年3月リニューアル予定

全国のモデルケースとなる3地域での研究プロジェクト

「ゼロアグリ」がどれだけ高機能であっても、実際に導入した成果が現れなければ意味がありません。ここからは、3つの地域での実証実験を通して、「ゼロアグリ」導入の価値についてうかがいました。

必要な液肥だけを与えることで8%増収 〜青森県での夏秋トマトの事例


青森県の事例では、生産者の協力により手作業の慣行栽培の区画と「ゼロアグリ」の区画で並行して実験。その結果、「ゼロアグリ」の施肥量が手作業よりも大幅に少なくなったにもかかわらず、8%の増収を実現したそうです。その理由は、「吸いきれない肥料のあげすぎ問題」でした。

「慣行栽培の場合は肥料を土に混ぜますが、それを全部吸いきれるとは限りません。しかし養液土耕の場合は、潅水チューブで水が行きわたるところにだけ液肥を与えます。そして、作物の根は肥料があるところ以上には伸びません。つまり、養液土耕にするだけで肥料の節約ができるというわけです」

※出典:「ICT養液土耕自動化支援装置栽培マニュアル」より
肥料のあげすぎ問題は、多くの生産者もご存じでしょう。日本の土壌は戦後、不足していると言われたリンを大量に投入してきたため、ほとんどの圃場でリン過剰と言われています。さらに、肥料のあげ方自体も人によってまちまちなため、圃場内でも成分に偏りがある場合も。肥料も水も適切に与えることが重要です。

この点については、各県ごとに「施肥基準」というものも設けられているので、必ずしも間違いというわけではありません。この圃場では「ゼロアグリ」による少量多潅水を実現することで、89%も肥料を削減できたことがわかりました。

砂丘地域での輪作で24万円の収入増 〜山形県でのメロン・ミニトマトの事例


山形県の事例は、春にメロン、夏にミニトマトという輪作での実証です。目的は、砂丘地域での圃場容水量の判定と、ECセンサーによる土壌内の硝酸体窒素を予測し液肥濃度を制御する方法の実証です。

「水はけがいい地域での目標土壌水分を調べたところ、通常が48時間程度のところ、24時間程度が適切だと考えられました。栽培開始時の水分量を適切に給水することで、より正確に作物に必要十分な潅水施肥を行うことができるようになります。液肥濃度の制御についてはまだ実証中ですが、人が行っていた濃度調整を土壌中のEC濃度を一定に保てるように自動制御できるよう、研究中です」

※出典:「ICT養液土耕自動化支援装置栽培マニュアル」より
この例でも、潅水と追肥に要する労働時間はミニトマトで95%、メロンの場合は69%削減という結果になりました。メロンの方が低いのは、甘みを蓄えるためにあえて潅水しない時期があるため。経営試算上は導入経費を差し引いても、10aあたりの収益が24万円ほど増える見込みです。

干拓地での地下水の影響を解明 〜熊本県での促成トマトの事例


最後は熊本県での干拓地での施肥について、「施肥量オート調整」による自動化を一歩進めるための実証事例です。

この地域は、「ゼロアグリ」が潅水する水以外に地下水からも水分が供給されてしまっていました。このような地域は全国にも他にあるそうです。ただ、「ゼロアグリ」は基本的に土壌水分量に応じて潅水と施肥を制御しているため、潅水量が自動的に減り、潅水時に混ぜている肥料も不足してしまう問題がありました。

これに対応するために、晴天の日はこれくらいの肥料が必要といったテーブルをあらかじめ計画しておき、潅水量が少ない時でも計画量の肥料を与えられるように濃度を濃くする「施肥量オート調整機能」を実現しました。

地下水の影響に合わせた施肥量のイメージ ※出典:「ICT養液土耕自動化支援装置栽培マニュアル」より
「実証した熊本県の地域は干拓地ですが、一般的に地下水位が高い圃場には同様の傾向があります。『施肥量オート調整機能』により他の地域でも安定運用できるようになりました。熊本県の事例では慣行栽培と『ゼロアグリ』で、2年間にわたって2品種のトマトで実施したところ、いずれも20%以上『ゼロアグリ』の方が多く取れました」

結果として経営試算上は年90万円もの収益アップにつながる見込みとのこと。温暖な西日本の方が成果が現れやすかった面もあったようです。

慣行栽培と「ゼロアグリ」による増収効果。通年での収量の変化を見てみると、冬よりも夏場に大きな差が現れている ※出典:「ICT養液土耕自動化支援装置栽培マニュアル」より

生産者の省力化を目指して

今回の研究は、寒冷地と西南暖地での実証により、「ゼロアグリ」が全国各地で使えることを示すことが大きな目標だったとのこと。その結果、気候や土壌の異なる日本の各地で、「ゼロアグリ」の効果が感じられる結果が出ました。

ただし、イニシャルコスト分を賄えるくらいに利益が確実に上がるかといえば、ことはそう単純ではありません。喜多さんは、「ゼロアグリ」の強みは「品質と収量が安定する」という点と「頭脳労働が減る」という点だと言います。

「販売可能な収穫物が増えることは、これまでロスしていたものが商品になるという意味では収入増とも言えますが、品質と収量の安定であり、増加とまでは言い切れない部分もあります。明確に収量が増えるかどうかは、生産者の栽培ノウハウ次第なところもありますね。また、導入いただいた生産者の声として、ただでさえ肉体労働が多い中で、頭脳労働が減るのがうれしいという声も聞かれます。天気などを見てその都度判断するのが結構しんどいと。特に新規就農者だと、自分の判断が合っているのかどうかは作物が成長するまでわかりませんよね。そこを『ゼロアグリ』がやってくれるので負担が減るというのです」

同じ地域でも、圃場が変われば土壌の質も作物との相性も変わるため、隣の圃場で「ゼロアグリ」を導入しても同じように成果が出るかはわかりません。科学的に分析して最適解を導き出した答えはAIという「頭脳」によるもの。「ゼロアグリ」に頼り切るのではなく、同時に生産者も試行錯誤して経験と勘を身につける余地もあります。ただ、そこさえもルートレック・ネットワークスでは自動化を目指しています。

「実は、施肥の濃度や目標水分量は、感覚でもいいので生産者がゼロアグリの制御を調整した方が現状は圧倒的にうまくいくんです。そこをなるべく省力化するために、施肥制御の自動化を進めていて、『ゼロアグリ』の判断に対して少し調整するくらいで済むようにしていけたらなと思っています」

※ ※ ※

「農業に休日を」から始まった「ゼロアグリ」は、労力軽減のフェーズから、収量と品質の安定、そしてどんな地域でも成果を出せるフェーズへとステップアップしています。AIが水やりと施肥を行い、いずれは人間のノウハウさえも凌駕する時が来るかもしれません。ですが、それでも生産者の経験と勘にはかなわない部分があります。

すべての水やり作業が自動化される日も来るかもしれませんが、農業はそんなに単純で簡単なものではありません。ロボットと人がそれぞれの能力を発揮してこそ、農業はさらに発展していけるのだと思います。


今回ご紹介した3地域での事例と、その実験の成果をもとに作られた「ICT養液土耕自動化支援装置栽培マニュアル」の詳細を解説するウェビナーが、2月8日(月)に開催されます。より詳細な実証結果も紹介される予定とのことです。

「青森県産業技術センター/山形県/熊本県との共同研究!養液土耕のスマート化実証実験の成果報告」
日時 2月8日(月)16:00〜
対象 施設栽培の生産者、農業生産法人の担当者
視聴方法 申し込みフォームより事前登録が必要。参加用のURLをメールにて送付
定員 先着100名
参加費用 無料
URL https://www.zero-agri.jp/smart_drip_irrigation_research

AI潅水施肥ロボットZeRo.agri(ゼロアグリ)
https://www.zero-agri.jp/
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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