JA全農が佐賀県でキュウリの反収55tを上げられたノウハウとは

JA全農がこのほど発表した佐賀県でのキュウリの栽培実証の実績は、施設園芸の関係者に大きな驚きを与えた。

これは、作り始めて1年目にして、反収が全国平均の4倍近くに当たる約55tという国内最高記録を達成したためである。しかも土耕とロックウールともに、だ。

参考記事:キュウリ栽培の実証施設「ゆめファーム全農SAGA」が全国平均約4倍の収量を達成
https://smartagri-jp.com/news/2286

しかし、残念ながら事後の報道を見ても高収量の要因が明らかではなかった。そこで、責任統括者のJA全農高度施設園芸推進室の吉田征司室長に話をうかがった。

JA全農高度施設園芸推進室の吉田征司室長JA全農高度施設園芸推進室の吉田征司室長

高収量を実証する施設「ゆめファーム」


まずは実証試験の現場となったJA全農が運営する園芸施設「ゆめファーム」の概要に加え、佐賀での今回の実績を押さえておきたい。

「ゆめファーム」は園芸品目で安定して高い収量を上げるための栽培技術を実証するためJA全農が運営する施設だ。2014年に栃木県でトマト、17年に高知県ではナスで実験をしたという前例がある。そして最も新しい実績が19年12月から佐賀市で取り組まれたキュウリの栽培だ。

佐賀市の「ゆめファーム」の面積は1haで、栽培面積は86a。それをざっと半分に分けて、土耕区とロックウール区にした。

誘引の方法は前者が地元で一般的な摘芯誘引仕立て、後者がハイワイヤー仕立てとなっている。両者の大きな違いは経験を要するかどうかにある。摘芯誘引仕立ての方が経験を求められる。

土耕区土耕区(提供:JA全農)
ロックウール区ロックウール区(提供:JA全農)
反収の目標は土耕区が45t、ロックウールが50t。ちなみに施設栽培におけるキュウリの全国平均は15tほどである。

吉田室長は施設園芸の専門家であるものの、キュウリを栽培した経験はなかった。それが蓋を開けてみると、反収は土耕で54.7t、ロックウールで56.2tとなったのだ。

吉田室長は「目標は達成できると思っていましたが、55tに達したのは驚きました」と打ち明ける。ちなみに土耕とロックウールで反収がほぼ同じだったことは、キュウリの栽培で土耕の経験がある優れた農家に指導してもらったことが大きく影響しているという。

以上を前置きにして本題に移る。「国内最高記録」といえる反収をなぜ上げられたのだろうか。


高収量の秘密は「軒高」と「屋根の構造」


まず施設について見ていこう。高反収の秘密は、この施設の「軒高」と「屋根の構造」にある。

今回の施設の軒高は5m。国内にある環境制御型の多くの施設と比べて高くなっている。

軒高の高い施設軒高の高い施設(提供:JA全農)
軒を高くしたことで、夏場でも室温を下げることができた。これは、気化熱のおかげである。

「葉の蒸散で気化熱が発生し、室温が下がる。軒高が低いと、太陽光で温まるほうが強くて、外気温よりも室温が高くなってしまう。それが今回の検証でわかったことの一つです」

もう一つの要因である「屋根の構造」では、換気の効率が高くなるようにした。

吉田室長によると、環境制御型の施設では棟の左右にある天窓は一般に「千鳥」の状態で配置されている。つまり全面が開くわけではないので、換気の効率が下がるのだ。

換気の効率が高くなる全面が開く屋根換気の効率が高くなる、全面が開く屋根(提供:JA全農)
一方、今回の天窓は左右ともに全面が開くので、換気の効率は上がる。しかし、全面が開く天窓はすでに普及している。従来普及しているものと違うのは、今回のオランダから輸入した天窓の場合、開閉に必要な駆動装置が極端に少ない台数で済むということだ。設置する台数が少ない分、導入や修理にかける費用や時間を減らすことができる。

加えて、優れた採光性を誇るフィルム「エフクリーン」の改良版を採用した。「エフクリーン」は強風であおられないように、骨材で抑えて使用するが、今回はエフクリーンを支える骨材の本数を半分ほどに減らした。結果、骨材によって日射が遮られる面積が減り、その分だけ施設内の採光性が高まった。改良版は日蘭のメーカーと共同で開発し、骨材を減らしても強度が落ちないことも確かめている。


大切なのは「作物管理を数字で行う」こと


ここまで今回の施設がいかに優れているかについて触れてきた。しかし、吉田室長は「いかに優れた施設でもここまで(約55t)の収量は上がらない。それ以上に大事なのは作るノウハウ」と語る。そして、「作物を数字で管理すること」だと強調する。

といっても、JA全農はキュウリの栽培では初心者だ。どうやって急速に腕を磨き上げたのか。答えは「作物を数字で管理すること」(吉田室長)。

今回のハウスではセンサーで取れる環境のデータはもちろんのこと、植物の状態に関する生体のデータについては人の目やメジャーを使って毎日計測し、記録した。その記録と収量などの結果を踏まえ、次にどんな管理をすればいいのかを検証していったのだという。こうしたPDCAの繰り返しが「国内最高記録」という反収を築き上げたのだ。

メジャーで茎の太さを計ったり目で花芽を数えたりするのは、大変な時間と労力がかかる。それでも吉田室長は「収量を上げたいなら絶対にやるべきです」ときっぱり。「計測しているうちに、茎が先週よりも1mm太くなったとかわかるようになってきます」と続けた。

余談ながら、キュウリは栽培に手間がかかることから生産者が減少傾向にあり、産地の維持には一戸当たりの生産量の増加が求められている。

「ゆめファーム」の目的は技術の実証に加えて、その成果を普及することにある。とはいえこれだけの規模の施設を建てることは、一般の農家には資金面や用地の確保などの面から見ても容易ではない。しかし、規模の小さい施設でも増収に関するいくつかの要素を組み入れることは可能だという。

実際に、ある農家が佐賀県内で「ゆめファーム」をモデルにした40aほどの施設を建てている最中で、年内にも栽培を始めるそうだ。いずれ機会を見て報じたい。


ゆめファーム全農SAGA/大規模多収技術の確立と普及目指す|JAさが 自己改革の取り組み |自己改革|JAさが 佐賀県農業協同組合
https://jasaga.or.jp/kaikaku/archives/235
キュウリ栽培実証施設「ゆめファーム全農SAGA」全国平均約4倍の収量(55.6t/10a)を達成 | JA全農
https://www.zennoh.or.jp/press/release/2021/79863.html

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  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。