「産直卸事業」で“豊作貧乏”をなくしたい 農総研会長インタビュー

青果物業界の後発組として、市場外流通での地位を築いた株式会社農業総合研究所(以下、農総研)は、2020年度から卸売事業に参入している。

参入から約1年が経過した現在、さまざまな実感やこれからの展望などを農総研の代表取締役会長CEOである及川智正(おいかわ・ともまさ)氏にうかがった。

株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川智正氏


新たなブランディングによって“豊作貧乏”をなくしたい


――「産直卸事業」を始めた理由について教えてください。

大きく分けて二つあります。一つは、2020年からの新型コロナウイルスの影響で、スーパーから「野菜と果物がもっと欲しい」と注文が入るようになったこと。当初はうちの主力事業である「農家の直売所」の売り場を広げることで対処していました。ただ、スーパーからは「それだけでは足りないので、直接仕入れられないか」と。それで「産直卸事業」を始めました。

もう一つの理由は、会社をつくった目的でもある豊作貧乏をなくすことにつなげられないかと思ったからです。「農家の直売所」(※1)では登録している生産者が毎回、値段と販売するスーパーを主体的に決められます。生産者にはもちろん喜んでもらっていますが、それでも豊作貧乏をなくすには至っていません。というのも「農家の直売所」で販売する野菜や果物の値段も市場の相場に影響されるからです。「農家の直売所」で100円をつけて売ったとしても、市場相場が10円ならそれに引っ張られてしまう。それを防ぐには、市場で流通している青果物を市場外に持ってきて、ブランディングすればいいのではないかと考えました。


富山での取り組みが評価され、広がる市場


――富山での取り組みについて卸売り会社と農協の反応はいかがですか。

白ねぎは富山県内のほかの市場でも扱っている中、富山中央青果を通ることで「仲良しろねぎ」として付加価値が上がり、すべて売り切れるようになったと評価頂いています。農協の組合員には、自分たちが作ったものがどこで売れているかを家族や子どもに話すことができるので、作ることの意欲を上げられるという声を頂きます。

富山での取り組みが評価されて、県内外の他産地からも声をかけてもらうようになりました。その中には単協やJA全農もあります。他の産地でもすでに取り組みは始まっていて、これからさらに広げていくつもりです。

――市場との付き合いはこれまでなかったのですか。

物流拠点として場所を借りたり、グループ会社と輸出で連携したりすることはありました。ただ、商流をつくるのは今回が初めてです。


新たな物流プラットフォームを築きたい。今後の市場流通の可能性


――市場流通の可能性をどう感じていますか。

市場外流通を手がける事業者からは市場流通を評価していない声を時に聞きますが、それは正当な評価ではないと感じています。流通業界で最も伸びそうなところこそ市場流通だと、私は考えているからです。

市場流通にも市場外流通にもそれぞれに“強み”と“弱み”があるのです。市場流通の強みといえばなによりも物流インフラで、大量の青果物を安定して供給できます。一方で弱みといえば「情報の使い方」に長けていないこと。そこに我が社が入ることで、面白いことができるのではないかと。

――「情報の使い方」とは。

基本的には情報をつなぐことで需要と供給の調整を図ることですね。私はそれを「流通の六次産業化」と呼んでいます。これは我が社だけではできません。市場流通の事業者とも連携しながら、生産者が優れた青果物を作ったときにはお金がきちんと入る仕組みを構築したいですね。

――御社の今後の展開は。

流通総額を上げることです。「農家の直売所」や「産直卸事業」はそのための手段ですね。2021年度8月期の通期業績予測では、流通総額は約125億円、このうち1割弱が「産直卸事業」になる見込みです。こうした事業の積み重ねの結果としてできたのが産地のネットワークとスーパーのアカウント口座、物流です。この三つに新たなビジネスを加えながら、新たな物流のプラットフォームをつくっていきたいですね。


※1 農家から集荷した農産物を委託販売する農総研の基幹事業。売りは物流の短縮化で生み出した鮮度の良さ。一般的なJAから卸、仲卸を経由する場合は2~4日かかる。対して同事業では集荷場や流通網は自社で構築。前日あるいは当日の朝に取れたばかりの青果物を翌日の開店時には各店舗に並べる。 集荷場は北海道から沖縄まで31道府県に92箇所を備える。会員の農家は8850戸、取引先の店舗数は1536店舗。2019年通期での物流総額は96億円、売上高は31億円(いずれも2020年2月末実績)。


「産直流通」のリーディングカンパニー | 株式会社農業総合研究所
https://nousouken.co.jp/

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  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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