「農業を感動産業に」データ農業でコマツナからイチゴへ転換 〜中池農園(後編)

中池農園(広島市)は2020年産からイチゴの栽培を始めると同時に観光農園を開園した。目指すのは農業を通じた「感動産業」の創出。人に喜びをもたらす経営の姿とは。

1年目から好成績をあげられた鍵となるデータの活用についても紹介する。

観光農園を始めた中池さん

コマツナ暴落への危機感


2021年の真夏に中池農園を訪ねると、イチゴを栽培する施設を増設する工事の最中だった。2020年産に3棟だったのを9棟に増やすという。

増棟中のイチゴの園芸施設
代わって減らすのは主力だったコマツナ。その理由は「市場での相場がもやしみたいな扱いになっているから」。こう説明する中池さんによると、広島市は過去20年近くにわたってコマツナを生産する農家を育成してきた。その人数は毎年2、3人。このためコマツナの生産が過剰になり、価格が崩れ始めているという。

事実、中池農園ではコマツナの利益率は5%にまで下がっている。

「このままコマツナを作り続けていくのは怖いなと思いました。では、何を作ればいいのか。日本はものであふれかえっている。人々が求めるのは感動なのかなと。『心に残るもの=感動産業』が、これからくるのではないか。それなら、イチゴを食べて感動してもらおうと」

イチゴを選んだのは広島県では競合相手が少ないこともある。

「この周囲でイチゴを作っている農家がほぼいない空白地帯です」


データに基づき、イチゴ農園で10aの売上1000万円


2021年度は9棟でイチゴの高設栽培を始めた。驚くのはその売上だ。10a換算で1000万円。1年目からこれだけの実績をあげられたのは全国でもごくわずかだろう。好結果を残せた理由について、中池さんは「データに基づくコンサルタントからの適切な指導があったから」だと説明する。

コンサルタントとは埼玉県春日部市の中村商事。環境制御機器の販売や活用について指導するほか、自らもイチゴの観光農園を経営している。その指導方法は、顧客が管理する園芸施設の環境データをパソコンやスマートフォンで常に把握しながら、必要に応じてLINEや電話で助言するというもの。

中池農園でも温度や湿度、地温、風向、風速、CO2、日射量等を計測するセンサーを設置している。収集したデータは中池さんだけではなく中村商事も閲覧できるようになっている。

「いい先生につけるかどうかが大事だと思いました」(中池さん)


インバウンド向け観光農園がコロナ禍で僥倖に


2020年産は3月初旬まで収穫して市場へ出荷した。それ以降は土日祝日と水曜日を観光農園「モグベリー」として開園し、それ以外は収穫して市場へ出荷した。

観光農園にはトイレが整備されている。見せてもらうと、案内板に繁体字と簡体字、ハングル文字で表記されていることに気づいた。


広島県がインバウンドの拡大を図るための補助事業を活用したそうだ。しかし、コロナ禍で外国人観光客の来場者はまったくなかった。

その一方で旺盛だったのは、県内からの来場者だ。

「開園した時期が、県から県を超えた往来を控えてほしいというお願いが出るなど、ちょうど密を避けるころと重なった。コロナ禍での需要にあてはまったのかなと思います」

定員人数は当初120人にしていたのを150人にまで増やしていった。それでも定員以上の予約があり、断るほどだったという。3月初旬に開園してから閉園するまでの約3カ月間の来場者数は延べ約2500人、売上は約380万円に達した。


品種と販路の見直しで来期の売上目標は1200万円


中池農園の観光農園「モグベリー」
観光農園と市場出荷のそれぞれの利益率についてはデータがないものの、「観光農園のほうがずっと儲かります」と中池さん。

そこで2021年産は観光農園に力を入れる。そのために園芸施設を増築していることはすでに述べた通り。さらに品種と販路を見直して、売上を伸ばしていく。

品種については2020年産で採用したのは「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」「よつぼし」の3つ。このうち「よつぼし」を選んだのは種子繁殖型だからだ。初年度ということで苗の管理をする暇がなかったのである。ただ、収量は他の両品種の「4分の3くらいの感じだった」。2021年産では「よつぼし」の比率を減らして増収を図る。

販路については、市場への出荷を減らしていき、代わりに直売を増やしていく。直売する方法としては観光農園や自社のECを活用する。売上の目標は10a当たり1200万円と、2020年産の2割増しだ。

既述した通り、中池さんが観光農園に力を入れたいのは、「感動産業」をつくりたいからでもある。その手ごたえは1年目にすでに確かめられたという。

「40代くらいの夫婦が3回も来てくれて。聞いてみたら、『心地いいからここは好きなんだ』って言ってくれたんです。それはうれしかったですね」

また、中池さんには3人の子どもがいる。コロナ禍で自粛が続く中、自分の子どもたちが自身の農園でイチゴ狩りを楽しんでくれたことも励みになったという。

「人の喜びを自分の喜びと感じられる経営をつくりたい」と語る中池さん。これからが楽しみである。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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