農家の知見をスマート農業で実現する「ピンポイントタイム散布サービス」とは

ピンポイントタイム散布サービス」は、株式会社オプティムが新たにスタートさせる、スマート農業の新技術・新サービスだ。農産物の生育状況や病害虫などの発生時期に、最も効果的なタイミングを見計らって、最小限の農薬使用で最大限の防除効果を得られるという。

こうした農作業は、知識と経験のある生産者自ら行うことはできても、経験がない新規就農者や、そこまで対応できない生産者には難しい面があった。しかし「ピンポイントタイム散布サービス」により、本当の意味で篤農家の経験と勘を、誰もが利用できるようになるかもしれない。

今回は、2021年11月30日(火)に開催されたオンラインイベントOPTiM INNOVATION 2021 Agri」のウェビナーの内容をもとに、「ピンポイントタイム散布サービス」の革新的なポイントを探ってみたい。



時間・費用・労力の無駄を省く、3つの「ピンポイント散布技術」


これまでオプティムは、AI・ドローンによる圃場の画像分析により雑草や病害虫を検知し、必要な箇所に必要なだけ散布する「ピンポイント農薬散布」、生育状況に応じて必要な箇所に必要なだけ肥料を投入する「ピンポイント施肥」という2つのピンポイント散布技術を実施してきた。


これらはいずれも、生産者の労力軽減、資材のコスト低減、そして高品質な農産物の栽培という課題をまとめて解決するためのものだ。

SDGsが注目され、農業における環境負荷を軽減させることは重要な課題となっているが、すべての生産者が農薬使用をすぐに完全にやめることは難しい。だからこそ、株式会社オプティム サブマネージャーの星野祐輝氏は、「オプティムが目指しているのは、最低限の農薬使用で最大限の効果を上げること」だと語る。

ドローン防除での現場の悩みは「散布タイミング」


今回「ピンポイントタイム散布サービス」を始めた経緯として、オプティムは3つのポイントを挙げている。


ひとつ目は、生育ステージの予測や病害虫の予察といった技術開発が進んだこと。熟練の生産者にしかできなかった最大限の効果を発揮できるタイミングが、センシングとAIなどによってわかるようになってきた。

ふたつ目は、地域や近隣との共同防除などが進んできている一方で、最も効果の上がる「適期」での防除が難しいという時間的・人員的な状況があること。離農の拡大により一部の生産者に栽培や収穫などの作業が集中しているが、作業する人数自体が増えているわけではなく、どうしても作業の日程は数日〜数週間に及ぶ。しかし、依頼者としては当然、自分の農産物にとって最適なタイミングを希望するもの。このジレンマは現場で作業を請け負っている多くの生産者から聞かれる。

そして3つ目は、ドローンの購入障壁だ。小型・安価になってきたとはいえ、1年に数回しか利用しないドローンを個人で購入するのはまだまだ敷居が高い。しかも、自動飛行も可能になってはいるものの、運用する上では飛ばすための研修も必要で、コストも時間もかかる。

こうした現場のニーズに応えるために、オプティムが実証してきた技術を組み合わせることで、「ピンポイントタイム散布サービス」が誕生した。

地域ドローンパイロット育成による雇用創出も


「ピンポイントタイム散布サービス」の利用は、1haあたり1万5000円(税抜)から。申し込みはスマホから行える。申し込むと、まずは圃場の分析に始まり、最適な散布タイミングを推定して、パイロットをアテンドしてくれる。もちろん今日申し込んで明日散布できるというわけではない。散布の適期を知るためには分析が必要だからだ。


散布タイミングを決めるために、1kmメッシュの高精度気象情報を元に生育状況を推定し、圃場ごとに最適なタイミングで散布を行う。この技術はオプティムが「スマートアグリフードプロジェクト」の中で培ってきた適期作業支援のための研究・開発が生かされている。


従来の散布作業では、多くの地域で広範囲の生産者が集まったりJAなどがとりまとめて委託するケースが多かった。しかし、共同防除の場合、必ずしも自分の圃場の状況に合わせたものにはならなかったことも事実だ。

「ピンポイントタイム散布サービス」が特に新しいのはこの「タイム」の部分。天候などの状況は仕方ないとしても、可能な限りベストな日時に散布できることは、多くの生産者にとって画期的なことだろう。

このようなサービスが実現できるのは、オプティムが防除にかかわる一連の手続きのすべてを一気通貫で行っているため。それが必要最低限の作業で最大限の効果を発揮するために大切なことだと、オプティムが考えているからだ。ITベンチャー企業というと、実現可能な技術論だけでサービスを作る傾向も見られるが、「農業×IT」を事業のひとつの柱として、実際に現場に赴いて取り組んできたからこそ、実現できたサービスと言える。


対象地域は、大規模農地だけでなく中山間地域に対応。米・大豆・麦の生産者向けのサービスとなっており、液剤・粒剤のいずれにも対応している。ドローンのトレンドは自動飛行だが、中山間地の棚田などでは手動でなければ飛行できない場所もある。そういった地域にも対応していくという。

実際に2021年には、福島県白河市で300haの水稲で適期防除を実施しており、品種ごとに最適なタイミングでの防除により、カメムシ被害などもなく、品質が高い米を収穫できたという実績がある。また、兵庫県丹波篠山市では10人の現地ドローンパイロットを育成し、オプティムからのレンタル機体で散布を行った。



また、今回の「ピンポイントタイム散布サービス」の開始に合わせて、地域内でドローンパイロットを育成する取り組みも進めていくという。ドローンを操縦できる人材は増えているものの、農業用ドローンの操縦となるとまだまだ経験者は決して多くはない。地方在住のドローンパイロットに、新たなビジネスとして農業分野で活躍できる場を広げることで、パイロット不足の解消にもつなげていく考えだ。ゆくゆくは、緊急時の防除や次年度以降のための試験防除の取り組みなども実現しやすくなる。


これからのスマート農業は“栽培技術”から“よりリアルな収益アップ”へ


「ピンポイントタイム散布サービス」は、ベテラン生産者が経験と勘で培ってきた栽培ノウハウを、AIやドローンといった技術によってすべての生産者が享受できるようにするサービスとも言い換えられる。

そのために、各社がしのぎを削って、病害虫による被害を抑えたり高品質な農産物を栽培するというスマート農業の技術面での課題解決を目指してきた。しかし、それらの技術が社会実装され、誰もが利用できるまでには至っていない。

「ピンポイントタイム散布サービス」は、誰もが利用でき、環境にやさしい技術によって収益アップに結びつけるという、農業の課題を解決するサービスだ。予算と知識のある一部の生産者だけが、試験的に導入してきたスマート農業が、よりリアルな実効性と収益を生み出すものとして期待したい。


ピンポイントタイム散布|オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts
OPTiM INNOVATION 2021
https://www.optim.co.jp/innovation2021/

【特集】OPTiM INNOVATION 2021 agri レポート
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。