象印マホービンがいまスマート農業に注目する理由 〜「ライスマイルNEXTプロジェクト」仕掛け人インタビュー

象印マホービン株式会社(以下、象印)といえば、「炎舞炊き」に代表される炊飯ジャーやステンレスボトルなどを愛用されている方も多いと思います。

そんな象印が2022年、スマート農業を活用した米づくりを応援する「ライスマイルNEXT」という取り組みを実施していたのをご存じでしょうか?

スマート農業導入現場を象印社員が取材して動画で配信し、スマート農業を活用して穫れたお米を公式オンラインストア「象印ダイレクト」にて販売。お米を事前購入されたお客様を「試食会イベント」へご招待したり、象印の「炊飯のプロ」が「スマート米」の味を評価するといったもので、YouTubeにてそれぞれ公開されています。

ライスマイルNEXTのYouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/playlist?list=PL8pfXk2ot9K-iiFhbsHO9b_IeW81sM0ti
そんなYouTube番組が最終回を迎えた2023年1月、このプロジェクトの中心メンバーとして活動してきた象印マホービン株式会社 新事業開発室の岩本雄平さんと四方知洋さんに、象印がなぜスマート農業を応援することになったのか、プロジェクトの裏話、そして取材する中であらためて気づけたというお米への想いについて、お話をうかがいました。

「ライスマイルNEXT」の動画にも登場している、象印マホービン株式会社 新事業開発室の岩本雄平さん(左)と四方知洋さん(右)

PRからビジネスにまで結びつける「ライスマイルNEXT」プロジェクト


──まず、「ライスマイルNEXT」とはどんなプロジェクトなのでしょうか?

象印 岩本さん:象印はおいしいご飯を食べていただくことを目的として炊飯ジャーなどを開発していますが、その炊飯ジャー事業のCSRの一環として、2013年から「ライスマイルプロジェクト」がスタートしました。当時は炊飯教室を開催したり、大阪と東京に田んぼを借りてお客様と一緒に田植えや稲刈りなどを行っていたんです。

その後、炊飯ジャーのPRの一環として、2018年10月に「象印食堂」という和食レストランを大阪・なんばにオープンし、最上級炊飯ジャーで炊いたご飯を手軽に食べ比べできる場を提供し始めました。そんな中で2018年11月に私達が所属する「新事業開発室」が設立され、従来の商品販売ビジネスではなく、商品・技術・ノウハウ等を使って新たな価値を提供するビジネスや、お客様に商品をもっと活用してもらえる場を提供していくビジネスなどを通じて社会課題の解決を考えていくことになりました。

象印食堂 大阪本店
そんな時期に、「スマート米」に取り組んでいたオプティムさんからお声がけいただいたのが協業のきっかけでした。

私たちもお米の消費が減っているということは承知していたのですが、オプティムさんから「農家さんの減少が深刻だ」という話をうかがいました。そこで、象印ももっと上流のお米を栽培している農家さんまで遡って考えていくことが必要なのではないか、CSRから一歩踏み込んでビジネスとして象印が貢献できることはないかと考えて、「スマート米」を通して一緒に取り組むようになりました。


「スマート米」の栽培過程や農家の声の動画が好評


──「ライスマイルNEXT」の大きな取り組みとしてはYouTube番組の配信で、ドローンによる直播や生育状況調査といった「スマート米」の栽培過程だけでなく、実際にそれを導入した農家さんの言葉なども率直に語られていたのが印象的でした。

象印 岩本さん:動画については非常に好意的に受け止めていただいた方が多かった印象です。「スマート農業に興味を持つことができた」とか「子どもたちにも見せてあげたい」といった声や、「米農家がこんなに減少しているなんて驚いている」、「もっとお米の文化が広がるように象印にはお米のおいしさを伝えてほしい」といった声もいただきました。


また、今回取材させていただいたアグリヘルシーファームの原さんは、「動画のために作り込もうとするのではなく、ありのままを伝えたい」という気概を持たれている方で、その想いに沿って伝えられているという感想もいただきました。継続してお米の消費量増加を目指したいという想いは原さんも象印も同じなので、こういった活動を続けていければとの声もいただいております。

第3回の動画では、アグリヘルシーファームの原さんが就農した頃の考え方なども率直に語っていた

──実際に「象印ダイレクト」でスマート米を購入いただいた方からの反響はいかがでしたか?

象印 岩本さん:味もとても良かったですとか、友達も食べて喜んでいましたといった声もいただきました。2022年11月から販売しているのですが、リピーターで買ってくださる方もおられます。

実は、オプティムさんとの取り組み自体は2021年から実施していまして、社内向けにひと足早く取材動画を発信して、スマート米を販売しました。当時は20名くらいが参加してくれて「おいしかった」「動画が面白かった」という声を受けて、2022年から一般に向けてもスタートすることになったんです。

「象印ダイレクト」での売上もオプティムさんや農家さんに還元することで、少しでもお米の消費量を増やすサポートにもなればと思っています。


炊飯器メーカーがあらためて感じた日本の米の魅力


──もともと象印は炊飯ジャーのメーカーとして、あらゆるお米をおいしく炊くことを使命とされているわけですが、今回のプロジェクトを通して新たな気づきなどはありましたか?

象印 岩本さん:昔上司から聞いた話なんですが、 ある開発者がどんな炊飯ジャーを作るべきか悩んでいた時期に、自分の奥さんにどんな製品が欲しいかと聞いたら「スーパーで買ってきた安いお米でもコシヒカリみたいにおいしく炊いてほしい」と言われたそうなんです。そんな無茶な……と思ったそうですが、世の中が求めているのはそういうことなんですよね。

そこから研究を進める中で、象印は圧力をかけることでふんわりもちっとしたご飯が炊けるということに辿りつき、圧力がかかる炊飯ジャーを始めた、というエピソードがあったと聞いています。

その思想は今も受け継がれていて、私たちはどんなお米でも最終的にはお客様が一番望んでいる炊きあがりに近づけることに力を入れています。

それが一番わかりやすいのが「わが家炊き」という機能です。毎回食べた後に炊飯ジャーがご飯の炊き上がりについてアンケートを聞いてくるので、それに答えていくことでお客様が一番望んでいる炊き上がり近づけていくというものです。

象印の「わが家炊き」のイメージ(出典:https://www.zojirushi.co.jp/syohin/ricecooker/sp_contents/nwla/function.html#container

実際は品種ごとにやはり差はあるので、最終的にはお米が本来持っている特徴との掛け合わせになります。

例えば、もともと粘りがある品種は好みによってはもっと粘りのあるものにしていくこともできますし、逆に粘りの少ない方に調整することもできます。今回のスマート米は「丹波篠山コシヒカリ」という比較的オーソドックスなお米でしたが、今後さまざまなお米を知っていく中で、お客様にさらに多種多様なおいしさを届けていける可能性があると思っています。

──お米の育て方を学び直す機会になったとのことですが、動画では生産者に素朴な質問をされていたのが印象的でした。

象印 四方さん:私はこのプロジェクトに参加するまで、営業として炊飯ジャーの販売をしていたのですが、正直炊飯の素材であるお米がどういうふうに作られているか、そこまで関心がない人間でした。オプティムさんとお話をしていく中で、米の消費量が減っていることは知っていたのですが、農家が減っているという話を聞いて、米の消費がここまで減ってきていることも参加してから知ったくらいだったのです。

そんなこともあって、今回の取材にあたっても、あえてあまり予習をしないことで、できるだけ現場で見て感じた素朴な質問ができるように心がけました。

視聴者の素朴な疑問を代弁するような質問などが印象的だった(出典:https://www.youtube.com/watch?v=8HT-pXHoq6E

スマート農業についても想像はできていたのですが、やはり実際に目の前で作業が短時間で完了するのを見て驚きました。ドローン直播もそうですし、以前は1つ1つ手で稲を計測されていたという生育調査がドローンで2分ぐらいで完了してしまうのには省力化のすごさを肌で感じました。

一方で、2022年は猛暑の影響で丹波篠山では一時的に水不足もあったそうで、やはり人の手でやらないといけない部分もあります。スマート農業技術が及んでいない作業もまだまだ残っていることも知りました。


炊飯ジャー市場の変化


──お米の消費が減っている一方で、おいしいお米が食べたいというニーズ自体はむしろ高まっているように思います。炊飯ジャーメーカーとして市場の変化はどのように感じていますか?

象印 四方さん:炊飯ジャーの販売台数としては、お米の消費量や農家の減少ほど急速ではないものの、やはり年々微減傾向にあります。人口減少に加えて世帯人数も減少しているので、需要もちょっとずつ減ってきてはいます。

その反面、おいしくお米を食べたいという需要はどんどん増えてきており、我々メーカーも応えるためにおいしく炊ける高級炊飯ジャーの開発を進めています。実際、お客様にお買い求め頂く炊飯ジャーの平均単価は少しずつ上がっていっているんですよ。

象印 岩本さん:僕らが動画で現場を取材していろいろお届けしていく中で、実はもう1つテーマがありました。それは、「お米がおいしいのは単に粘りがあるとか甘みがあるだけではなく、もっと主観的な部分もあるのかな」という点です。

例えば、子どもの頃に自分で田植えして稲刈りした田んぼはやっぱり愛着が出てくるので普段以上においしいと思えますよね。そんなふうに、今回私たちが取材を通じてずっと見てきてもらった田んぼでできた丹波篠山コシヒカリは、愛着を持っておいしいと思っていただける部分があるのでは……ということも、この取材のテーマだったんです。

そういう意味で、なるべくありのままの農家さんの姿、栽培の様子をお伝えしていくことで、象印のお客様や「スマート米」に興味がある方にも現場に一緒に行ったように感じてもらえるかなと思っています。

「ライスマイルNEXT」の意義


──「ライスマイルNEXT」は、スマート農業を知ってもらうきっかけづくりと、それをビジネスに結びつけることが狙いとのことですが、振り返ってみてどんな意義があったと感じますか?

象印 岩本さん:いろいろな視点がありましたね。象印の視点から見ると、一年を通じて米づくりの現場に行かせていただいたことは大きな収穫でしたし、動画を見ていただいたお客様にあらためてお米に興味を持った方がいらしたことも良かったと思っています。

ただ、農家さんの応援やご飯好きな方を増やしていくという視点で見ると、まだまだリーチできているお客様の数は圧倒的に少ないので、そこはこれからの課題ですね。

──ちなみに、担当者として配信動画の中でおすすめの回はありますか?

象印 四方さん:私はドローンを使った稲の生育調査の回ですね。前半ではドローンで簡単に生育調査をし、後半では従来のSPAD計を用いて手作業で生育調査を行う。この対比から、スマート農業技術の良さがよく伝わる回だと個人的には思っています。

【ライスマイルNEXT】#05 スマート農業 稲の生育調査<前編>

もう1つは農産物検査の回ですね。これだけ頑張ってきたのに結果は2等級で、スマート農業を持ってしてもまだまだ自然の影響によってうまく生育できないこともあるという、農業の厳しさが色濃く出た回だったので印象に残っています。

【ライスマイルNEXT】#10 お米の農産物検査・精米編

象印 岩本さん:私はドローン直播の回で、見学に来た農家さんがドローンを見ながら「(これからの時代は)こういうこともやっていかないといけないよね」とつぶやいている場面。すごく考えさせられる内容だったなと思っています。

【ライスマイルNEXT】#02 ドローンチョクハ最新技術!

ちょうどウクライナ情勢で肥料や資材の価格が上がっていく一方で、お米自体の販売価格を上げるのは市場の構造としてもなかなか難しいということで、例えば、アグリヘルシーファームさんでは神戸牛の牛糞を追肥として使用したり、ドローンを使って省力化することで費用を抑えるといったことが今後必要になるというお話をされていました。

実際に世界のニュースがお米にも影響していること、それに対する農家さんの努力が伝わってくる興味深い内容だったと思っています。

また、昔から農業をされてきた方からするとドローンで種をまくことは少し異端に見えるところもあるとは思います。それでもお米を作っていかないといけないという使命感もあり、両方の感情が入り混ざる言葉だったなと感じました。


今後の農業への思い


──最後に「ライスマイルNEXT」を終えて、今後の日本の農業についての想いや未来への展望をお聞かせください。

象印 岩本さん:象印としてはおいしいご飯をお客様に届けていくことが使命ですが、その上で、ご飯好きの方を再び増やしていきたい。ご飯の消費が増えれば農家さんにもいい影響としてつながりますし、それは象印としても取り組むべきことだと感じています。

また、農家さんや田んぼのことを知って、日本の農業ってやっぱり大事で大切にしないといけないと見つめ直すことも、きっとおいしさにつながってくると思います。味覚以外のおいしさを伝えることも意識しながら引き続き活動していきたいです。

象印 四方さん:象印はお米の炊き方でおいしさを提供していますが、炊く素材であるお米自体もとても大事だとあらためて感じました。そのお米の裏側には、農家さんをはじめオプティムさんのスマート農業などの存在があって、最終的においしくて安全なお米が出来上がっています。

今回の取り組みをきっかけに、炊飯ジャーメーカーとお米の結びつきをさらに強めて、お米業界や農業界にいい影響力を与えられるような貢献ができればと思っています。

ライスマイルNEXTプロジェクト
https://www.zojirushi-direct.com/ext/ricemile_next.html


・ライスマイルNEXTでの「スマート米 丹波篠山コシヒカリ」の販売
「ライスマイルNEXT」の動画の中でご紹介されていた2022年(令和4年)産の「スマート米 丹波篠山 コシヒカリ(5kg)」は、象印ダイレクトにて好評販売中です。(※注文は2023年4月20日まで)
https://www.zojirushi-direct.com/item/ZOGOHANSM_00.html



・「象印食堂 東京店」が2月7日にオープン
「象印食堂 東京店」が東京・KITTE丸の内にオープン。厳選したお米を象印の最上位炊飯ジャー「炎舞炊き」で炊いて提供しています。普通、かため、やわらかめといった炊き分けしたものも提供しており、同じご飯でもこんなふうに味が変えられるということを体験できます。
https://www.zojirushisyokudo.com/shokudo/tokyo/access.html



・「炎舞炊き」を自宅で試せる「象印レンタルサービス」
最上位炊飯ジャーの「炎舞炊き」を2週間5980円~でレンタルできるサービス。普段食べているお米がどのように炊飯で変わるか、自宅で試すことができます。
https://www.zojirushi.co.jp/life/rental/

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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