北海道のスマート農業を支える計量のプロ 効率化だけでなく付加価値の獲得も
自動での計量に強みを持ち、北海道内のJAや農家に計量や包装の機械の販売やメンテナンスなどを行う北海道イシダ株式会社。AIを駆使した緻密な計量で人手のかからない「省人化」や効率化を進め、出荷する農産物の付加価値の向上にも貢献する。さらに酪農分野でのスマート農業にも挑む。
大量のミニトマトがベルトコンベアの上を流れていき、自動で選別され、既定の数量になるようプラスチックのトレーに詰められていく。たとえば100グラムずつ詰める場合、1~数グラムのプラスという極めて少ない誤差にとどめることができる。
「ミニトマトは1粒十数グラムあって、人手で詰め合わせると誤差が大きくなるうえ時間がかかります。この『ミニトマト用組み合わせ計量機』を使えば、毎分40パックほど詰めることができます」
北海道イシダ営業推進部の岩見康彦さんがこう説明する。
販売するこうした機械は、産地である北海道よりもむしろ、消費地を擁する関東地方で多く導入されてきた。
「北海道から農産物を段ボール箱で出荷して、本州のパッキングセンターで小分けするというのがこれまで多かったんです。けれども最近の傾向として、より付加価値を高める意味で道内でパック詰めまでするようになり、徐々にこうした機械が導入されています。導入すれば、『省人化』が図れ、計量の精度も上がります」(岩見さん)
ロボットやIoT、AIなどを駆使して正確に計量するこうした技術は、以前から扱っていた。それだけにスマート農業の担当で市場開発部参与の小西昭彦さんは「昔からやっていて、気がついたらスマート農業だったという感じ」と話す。顧客のニーズに応じた製品の提供をしていたら、注目を集めるスマート農業の範疇に含まれるようになっていたわけだ。
同社が以前から取り組んできたものに、酪農の現場における計量のIoT化がある。
飼料や必要な栄養分を混ぜ合わせたエサ(TMR)を酪農家に供給するTMRセンターでは、飼料の種類ごとに10本ほどのタンクがずらっと並ぶ。その下にトラックを止めて、タンクごとに既定の重量を荷台に落としていく。人手で操作すると、重量に達したタイミングで停止の操作をすると重量オーバーになり、重量に達するギリギリを狙うと足りないということが起きがちだ。
「200キロを量らないといけないのに、195キロや205キロになって、面倒なのでそのままトラックが走っていくことがよくある」(小西さん)
その点、同社が開発した「IoT活用型TMR調製システム」を使えば、500グラム単位の精度で計量できる。トラックがタンク下の定められた位置に到着すると、設定されている量が自動的に落とされる。ドライバーがいちいち下車してタンクを操作する必要がなく、作業時間が1割減るうえ、計量が正確になる。
「TMRセンターでは人による計量の誤差で、1種類の飼料につき、1カ月で7トンのタンク1本分を余計に使ってしまった……なんてことがよくあるんです。1キロ70円するエサだとすると、1カ月で49万円、12カ月になると588万円。タンクが何本もあれば1000万円以上違ってくるわけです」(小西さん)
TMRセンターで作る飼料は、1本に粗飼料や濃厚飼料などを合わせて900キロ詰める。5キロ単位で計量されるエサが多いなか、カルシウムは500グラム単位で量る。
「多くても少なくてもダメなので、こういうものできちっと量って、牛の体調を整えたい」(小西さん)
TMRセンターでは、飼料6本分をまとめて混ぜ、それから1本ずつ詰めていくことが多い。まんべんなく混ざらずに、粗飼料ばかりになったり、濃厚飼料が設計よりも多かったりと偏りが生じがちだ。とくに、そもそもの量が少ないカルシウムはうまく混ざらず、特定の1本にまとめて出てきてしまうことがよく起こるという。
「それでは、牛の体調は良くならない」(小西さん)と、エサを1本ずつ配合、攪拌するシステムを作った。コンベアの上を流れていく過程で粗飼料に濃厚飼料や必要な養分が自動で適量足され、攪拌機でまんべんなく混ぜられ、60トンという高圧で圧縮梱包される。
「従来の機械だと低い圧力で圧縮梱包するので、エサが空気に触れて意図しない二次発酵を起こして劣化しやすい。我々のシステムを使うと、嫌気的な発酵である乳酸発酵が進んで牛にとってはおいしいので、エサの食いつきがいいんです」(小西さん)
導入により、搾乳量が増えただけではない。TMRセンターの職員が休みを取得しやすくなるという働き方改革にもつながった。通常、エサづくりには6人の手が必要だったのが、3人、場合によっては2人でも間に合うようになったからだ。
「酪農のエサづくりにおいて考えにくかった週休2日も、導入した施設であれば、やれないことはない」(小西さん)
エサの計量だけでなく、牛そのものの行動把握にも挑む。
ホクレン訓子府実証農場(訓子府町)で、今春までNTTコムの「ローカル5G」を使ったスマート農業加速化実証プロジェクト(NARO)が行われ、宮崎大学など産学官の7組織が参画していた。
ローカル5Gとは、高速かつ大容量の通信ができる5G(第5世代移動通信システム)がまだカバーしていない地域に個別に導入する5Gをいう。このローカル5Gを使って北海道イシダが挑んだのが、顔認証による牛の個体識別と、個々の牛が牛舎内でどう活動しているか追跡することだった。
これらの技術開発を目指したのは、牛の行動歴がわかれば、発情や発病の可能性を把握しやすいからだ(※スマート農業加速化実証プロジェクトでは跛行(はこう。正常な歩行ができない状態)検知と個体識別を実証している)。
加えて、北海道で増えている牛をつながないフリーストールの牛舎で、発情している牛を見つけて獣医を呼んでも、到着時に肝心の牛を見つけるのに時間がかかっていた状況を改善する目的もある。
牛には個体を識別するため、番号とバーコードが印字された耳標が付けられている。
「耳標のバーコードがカメラで読み取れれば手っ取り早いけれど、耳や毛で隠れてしまうんですね。カメラだけで識別できる方法を編み出せればメリットが大きいと、以前から挑戦してきました」(岩見さん)
実は、牛の個体識別ですでに市販されているシステムは存在する。ただし、導入費用が極めて高額なため、国内では北海道イシダのほか、大学などの研究機関でも個体識別のための研究開発がなされている。
かつて同社は、牛舎の天井に取り付けたカメラで牛の背中や胴体全体を見て個体を識別できないか試したことがあったが、うまくいかなかった。そこで今回は、顔の模様(斑紋)で判別しようと、牛の顔をさまざまな角度から撮ってAIに学習させた。
個体識別の実用化にはまだ課題の多い一方、商品化も視野に入っているのが牛舎に設置したカメラから行動を追跡する動線解析技術だ。牛の個体識別番号とその牛がどこにいるかを紐づければ、スマートフォンやタブレットから牛が牛舎内をどう移動したかという行動履歴を追ったり、今どこにいるかの位置検索をしたりできる。
「水をどれくらい飲んで、エサをどのくらい食べたか。そうした行動に費やした時間がわかります。『エサへの食いつきが悪いから何かあったかな』『寝てばかりいるから調子が悪いかも』『行動が活発だから発情しているかもしれないな』と個々の状況を把握しやすくなります」(岩見さん)
カメラとカメラの隙間になる部分を牛が通過しても、AIを使って情報が途切れる部分をつなぎ合わせ、1頭の牛の行動として把握できる。「追跡の実証は商品化まで行けそうなところに来ている」と岩見さん。
牛の行動履歴を解析していると聞いたとき、一瞬「本業の計量と関係ないのでは」と思ってしまった。しかし、小西さん、岩見さんの話を聞いていて、それが顧客の困りごとに技術で応えるというこれまでの技術開発の延長上にあると痛感させられた。岩見さんは言う。
「農業分野にさまざまな計量器といった機械を納めるメーカーとして、スマート農業を使って地域に貢献したい」
そんな思いを胸に、北海道イシダは技術開発を続けている。
北海道イシダ株式会社
https://www.ishida.co.jp/ww/hokkaido/
北海道でも付加価値を高めて出荷する流れ
大量のミニトマトがベルトコンベアの上を流れていき、自動で選別され、既定の数量になるようプラスチックのトレーに詰められていく。たとえば100グラムずつ詰める場合、1~数グラムのプラスという極めて少ない誤差にとどめることができる。
「ミニトマトは1粒十数グラムあって、人手で詰め合わせると誤差が大きくなるうえ時間がかかります。この『ミニトマト用組み合わせ計量機』を使えば、毎分40パックほど詰めることができます」
北海道イシダ営業推進部の岩見康彦さんがこう説明する。
販売するこうした機械は、産地である北海道よりもむしろ、消費地を擁する関東地方で多く導入されてきた。
「北海道から農産物を段ボール箱で出荷して、本州のパッキングセンターで小分けするというのがこれまで多かったんです。けれども最近の傾向として、より付加価値を高める意味で道内でパック詰めまでするようになり、徐々にこうした機械が導入されています。導入すれば、『省人化』が図れ、計量の精度も上がります」(岩見さん)
ロボットやIoT、AIなどを駆使して正確に計量するこうした技術は、以前から扱っていた。それだけにスマート農業の担当で市場開発部参与の小西昭彦さんは「昔からやっていて、気がついたらスマート農業だったという感じ」と話す。顧客のニーズに応じた製品の提供をしていたら、注目を集めるスマート農業の範疇に含まれるようになっていたわけだ。
IoTを駆使しエサを正確に計量
同社が以前から取り組んできたものに、酪農の現場における計量のIoT化がある。
飼料や必要な栄養分を混ぜ合わせたエサ(TMR)を酪農家に供給するTMRセンターでは、飼料の種類ごとに10本ほどのタンクがずらっと並ぶ。その下にトラックを止めて、タンクごとに既定の重量を荷台に落としていく。人手で操作すると、重量に達したタイミングで停止の操作をすると重量オーバーになり、重量に達するギリギリを狙うと足りないということが起きがちだ。
「200キロを量らないといけないのに、195キロや205キロになって、面倒なのでそのままトラックが走っていくことがよくある」(小西さん)
その点、同社が開発した「IoT活用型TMR調製システム」を使えば、500グラム単位の精度で計量できる。トラックがタンク下の定められた位置に到着すると、設定されている量が自動的に落とされる。ドライバーがいちいち下車してタンクを操作する必要がなく、作業時間が1割減るうえ、計量が正確になる。
「TMRセンターでは人による計量の誤差で、1種類の飼料につき、1カ月で7トンのタンク1本分を余計に使ってしまった……なんてことがよくあるんです。1キロ70円するエサだとすると、1カ月で49万円、12カ月になると588万円。タンクが何本もあれば1000万円以上違ってくるわけです」(小西さん)
秤から働き方改革まで
TMRセンターで作る飼料は、1本に粗飼料や濃厚飼料などを合わせて900キロ詰める。5キロ単位で計量されるエサが多いなか、カルシウムは500グラム単位で量る。
「多くても少なくてもダメなので、こういうものできちっと量って、牛の体調を整えたい」(小西さん)
TMRセンターでは、飼料6本分をまとめて混ぜ、それから1本ずつ詰めていくことが多い。まんべんなく混ざらずに、粗飼料ばかりになったり、濃厚飼料が設計よりも多かったりと偏りが生じがちだ。とくに、そもそもの量が少ないカルシウムはうまく混ざらず、特定の1本にまとめて出てきてしまうことがよく起こるという。
「それでは、牛の体調は良くならない」(小西さん)と、エサを1本ずつ配合、攪拌するシステムを作った。コンベアの上を流れていく過程で粗飼料に濃厚飼料や必要な養分が自動で適量足され、攪拌機でまんべんなく混ぜられ、60トンという高圧で圧縮梱包される。
「従来の機械だと低い圧力で圧縮梱包するので、エサが空気に触れて意図しない二次発酵を起こして劣化しやすい。我々のシステムを使うと、嫌気的な発酵である乳酸発酵が進んで牛にとってはおいしいので、エサの食いつきがいいんです」(小西さん)
導入により、搾乳量が増えただけではない。TMRセンターの職員が休みを取得しやすくなるという働き方改革にもつながった。通常、エサづくりには6人の手が必要だったのが、3人、場合によっては2人でも間に合うようになったからだ。
「酪農のエサづくりにおいて考えにくかった週休2日も、導入した施設であれば、やれないことはない」(小西さん)
難度高い個体識別にも挑戦
エサの計量だけでなく、牛そのものの行動把握にも挑む。
ホクレン訓子府実証農場(訓子府町)で、今春までNTTコムの「ローカル5G」を使ったスマート農業加速化実証プロジェクト(NARO)が行われ、宮崎大学など産学官の7組織が参画していた。
ローカル5Gとは、高速かつ大容量の通信ができる5G(第5世代移動通信システム)がまだカバーしていない地域に個別に導入する5Gをいう。このローカル5Gを使って北海道イシダが挑んだのが、顔認証による牛の個体識別と、個々の牛が牛舎内でどう活動しているか追跡することだった。
これらの技術開発を目指したのは、牛の行動歴がわかれば、発情や発病の可能性を把握しやすいからだ(※スマート農業加速化実証プロジェクトでは跛行(はこう。正常な歩行ができない状態)検知と個体識別を実証している)。
加えて、北海道で増えている牛をつながないフリーストールの牛舎で、発情している牛を見つけて獣医を呼んでも、到着時に肝心の牛を見つけるのに時間がかかっていた状況を改善する目的もある。
牛には個体を識別するため、番号とバーコードが印字された耳標が付けられている。
「耳標のバーコードがカメラで読み取れれば手っ取り早いけれど、耳や毛で隠れてしまうんですね。カメラだけで識別できる方法を編み出せればメリットが大きいと、以前から挑戦してきました」(岩見さん)
実は、牛の個体識別ですでに市販されているシステムは存在する。ただし、導入費用が極めて高額なため、国内では北海道イシダのほか、大学などの研究機関でも個体識別のための研究開発がなされている。
かつて同社は、牛舎の天井に取り付けたカメラで牛の背中や胴体全体を見て個体を識別できないか試したことがあったが、うまくいかなかった。そこで今回は、顔の模様(斑紋)で判別しようと、牛の顔をさまざまな角度から撮ってAIに学習させた。
牛の動線解析技術に自信
個体識別の実用化にはまだ課題の多い一方、商品化も視野に入っているのが牛舎に設置したカメラから行動を追跡する動線解析技術だ。牛の個体識別番号とその牛がどこにいるかを紐づければ、スマートフォンやタブレットから牛が牛舎内をどう移動したかという行動履歴を追ったり、今どこにいるかの位置検索をしたりできる。
「水をどれくらい飲んで、エサをどのくらい食べたか。そうした行動に費やした時間がわかります。『エサへの食いつきが悪いから何かあったかな』『寝てばかりいるから調子が悪いかも』『行動が活発だから発情しているかもしれないな』と個々の状況を把握しやすくなります」(岩見さん)
カメラとカメラの隙間になる部分を牛が通過しても、AIを使って情報が途切れる部分をつなぎ合わせ、1頭の牛の行動として把握できる。「追跡の実証は商品化まで行けそうなところに来ている」と岩見さん。
牛の行動履歴を解析していると聞いたとき、一瞬「本業の計量と関係ないのでは」と思ってしまった。しかし、小西さん、岩見さんの話を聞いていて、それが顧客の困りごとに技術で応えるというこれまでの技術開発の延長上にあると痛感させられた。岩見さんは言う。
「農業分野にさまざまな計量器といった機械を納めるメーカーとして、スマート農業を使って地域に貢献したい」
そんな思いを胸に、北海道イシダは技術開発を続けている。
北海道イシダ株式会社
https://www.ishida.co.jp/ww/hokkaido/
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