農業生産者の悩みにもっと寄り添うために──オプティム・ファームが目指す農業DXの次の一手

稲作の省力化が実現できるとして期待される、ドローン水稲直播栽培。ピンポイント農薬散布サービスなどを展開する株式会社オプティムでは、自社で独自開発したドローンによる「打込み条播栽培」の研究開発にも力を入れている。

そんな同社が、近未来型農園「オプティム・ファーム」を設立した。組織としても株式会社オプティム・ファームとして独立させ、栃木県と茨城県の圃場にて、自社のスマート農業ソリューションを用いた生産分野に参入するという。

今回、その圃場のひとつである栃木県栃木市にて、2023年5月28日に地元の生産者や栃木県の農業関係者を招いて行われた、ドローン打込み条播の実演会を見学させていただいた。筆者はドローン播種を見るのも初めて。噂には聞いていたドローン播種がどこまで実用的なのか、実際に見た感想と、一緒に見学した地元の生産者の声、そしてオプティム代表の菅谷氏の声とともにご紹介したい。

左から、株式会社オプティム・ファーム代表の休坂氏、オプティム・ファームの星野氏、株式会社オプティム代表の菅谷氏


ドローンによる打込条播を地元生産者の前で実演


ドローンの仕様や実演の流れを説明する星野氏

今回の実演で使用されたドローンは、オプティムが独自開発したもので、本体下部に4カ所のシューターが付いているのが特徴。これにより、上空からの散播ではなく、4つの条を形成しながら種をまくことができる。

今回使用した種籾は、シンジェンタジャパン株式会社が開発した「リゾケア」でコーティングされた種子だ。通常使用するのは一般的に販売されている種籾で、わずかに催芽させた状態で散布して圃場の土の中で発芽させていくというが、今回は地域のニーズに合わせるために、同じドローンでコーティング種子に対応できるかを検証する目的もあった。

ドローンによる播種を行っている様子

一般的な直播栽培では、まいた種が圃場の表面に残り、鳥に食べられてしまったり、うまく発育しないことが課題となっていた。しかしオプティムは、ドローンによる打込条播で種籾を適度な深さに打ち込んでいくため、鳥害リスクを大幅に軽減。さらに、条を形成しながら均一に種を落とすことで苗立ちのそろいがよくなり、その後の生育管理が容易に行えるという。

いざドローンの飛行がはじまると、およそ20分で6.5kg/26aの種籾の播種作業が終了。一度バッテリー交換のために作業を中断したくらいで、トラブルもなく無事播種を終えることができた。

今回の圃場は2023年から耕作予定がなかった土地。地元生産者の協力も受けながら、今後は自社農園として営農していく

育苗した苗を植えていくという従来の米作りしか見たことのない筆者にとっては、あまりの早さに拍子抜けしてしまった。安全のために離れたところから見学していたため、種籾が本当に落ちているのか目視はできなかったが、播種が終わったあとの圃場を見てみると、種籾がしっかり打ち込まれていることも確認できた。

播種後の圃場の様子。ほぼ均一な深さで打ち込んでいることが目視で確認できた

通常の種籾では勢いよく打ち込んでいくが、今回は重量があるコーティング種子に合わせて、打ち込む強さを抑えて自然に沈むように調整していたとのこと。圃場の状況や地域、生産者の希望に応じて多彩なニーズに合わせたチューニングも行えるという。

栃木県の圃場の生産者代表として、地元での調整役を務めた中田睦男氏

当日実演会に来ていた地元の生産者は約20名ほど。この地域の担い手としてそれぞれ圃場を持っている方々ばかりで、ドローン播種などはほとんど行われていない地域だ。そのため、多くの生産者が集まり、ドローンによる作業に興味津々な様子だった。

見学に来ていた生産者の何人かに実演会の感想を聞いてみたところ、「期待通りの収量が得られるのかは秋にならないとわからない」という懐疑的な意見もあったが、「育苗や田植えの手間がなく、この時間で終わることに驚いた」「秋の収穫時期が楽しみ」と期待感を持っている声が多かった。

自社農園開設の目的は、生産者の経営をもっと学ぶため


株式会社オプティム代表の菅谷俊二氏

今回、オプティム・ファームというかたちで自社の農園を設立するに至った理由について、オプティム代表の菅谷氏は、「やはり米の栽培におけるすべてを理解したいということがあります」と、5年以上にわたるスマート農業の取り組みの次のステップであると語る。

「我々は、ピンポイント農薬散布という技術を作り、生産者様に使っていただくというかたちで、農業への部分的な関わり方をしてきました。しかし、米作りの栽培工程のすべてを理解できていたわけではありません。同時に、農業経営にまつわる細かなことについても理解できているわけではなく、資材や種の仕入れ、いくらくらいで売れているのかといったことについてもさらに理解しないと、本当の意味で生産者のお役に立てる会社にはなれないという思いがありました。そこで、今回たまたまご縁をいただけた栃木県と茨城県の方々にご協力いただき、オプティム・ファームを開設しました」

当初の圃場を栃木県と茨城県に置いた理由については、首都圏からでも足を運びやすく、オプティムのメンバーが、より深くこの事業に関わっていくために、来やすい場所に開設したいという思いだったという。

自社農園を開設するといっても、本格的に栽培から販売までを自社で行う、農業生産をメインにするわけではない。あくまでみているのは、いま困っている生産者たちのサポートをすることだという。

「我々は生産によって収益を得ようとは思っていません。もっと生産者のお役に立てる企業になることが一番の目標です。少しづつ生産者様から『オプティムがいてくれると助かる』という会社になっていくことが、大事なステップだと思っています」


農業×ITの難しさは1年1作のデータしか取れないこと


すべての産業にインターネットを、という言葉で「農業×IT」に取り組んできたオプティム。しかし、農業×ITという取り組みについては、想定よりも難しいこともたくさんあったという。

「農業×ITの取り組みについては、当初の想定よりもやはり時間がかかっていると思います。農業という特性上、1年に1回しかトライできませんし、結果も1年に1回しか見ることができません。弊社のメンバーもすごく頑張ってくれていますが、やり直しのきかないことを地道にやってきているという感じです。もちろん、農業の世界の中では早い方なのかもしれませんが、さらに早く進めていきたいという思いはありますね」

そんな中でも、特にドローンを用いた防除や直播といった技術については、かなり安定した成果を上げられるようになってきた。

「過去には、開発中のドローンがうまく飛ばなかったり、みなさまにご迷惑をかけることもありましたが、今回の実演を見てメンバーの段取りがよくなっていることを強く実感しました。2022年からドローンを用いてユーザー様が希望する適期に防除などを行う『ピンポイントタイム散布サービス』に取り組んできたこともあり、運用面の完成度は上がっているとも感じています。また、生産者の方々の反応もよくなっていてうれしい限りです」

今後の農業分野への取り組みについては、さらに拡大していく予定であると同時に、協力している地域の生産者とのつながりを第一に考えているとも言う。

「もちろん、ほかの場所や地域にも展開していくつもりです。ただ、私たちとしては最初にお世話になった土地を大事にしていきたいという思いもあります。土地によっても栽培体系などが変わってくることもありますし、まずはこの圃場を起点に、栃木県と茨城県の方々に理解していただいた上で、広げていければと考えています」

AIなどの進化のスピードが早いITの他業界と比べると、短時間で飛躍的な進化を感じることは難しい農業界。ただ、今回の実演を取材した限りでは、農業におけるDXが着実に進んでいることを実感できた。

実演を見に来ていた生産者の反応も、半信半疑な部分よりも、ドローンを用いて播種された米がどう育っていくのかが気になっているようにも感じられた。生産者が現在も実践し続けている米作りの常識を、オプティム・ファームがどう塗り替えていくか、まずはこの秋の収穫の時期を期待して見ていきたい。

農業DX事業|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/business/agriculture


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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