“使える”スマート農業サービス「ファーモ」成功の秘訣は、とことん農家の課題解決に寄り添い続けること

農業生産の現場から「スマート農業は期待外れだった……」という声が聞こえてくる。高機能だが高コストだったり、そもそも現場のニーズを解決する機能を有していない、あるいは使いこなすのに知識や技術を要する製品サービスが市販されてきたことが、多くの農業生産者に失望を与えてきた結果だ。

そんな「期待外れ」とすら言われるスマート農業関連製品サービスにあって、着実に普及してきているのが株式会社farmoが手がけるIoTデバイス「ファーモ」だ。農業生産者が必要とする機能のみを厳選して搭載した製品は、リーズナブルな価格も相まって、高く評価されている。

発売開始から時を経ても、機能追加を理由に高価格化することもなく、farmoは淡々と農業生産の現場に向き合っているように見える。なぜfarmoは、そんな当たり前のことを継続できるのだろうか?

創業者であり株式会社farmo 代表取締役を務める永井洋志氏に、インタビューさせていただいた。

※説明の都合上、会社名は「farmo」、製品・サービス名は「ファーモ」に統一している。

株式会社farmo 代表取締役の永井洋志氏

いちご農家の悩み解決のために生まれた「ハウスファーモ」


今でこそ「ファーモ」の代名詞は水稲などの水位センサーだが、永井氏は「2015年にいちご農家の課題解決のお手伝いを始めたのがきっかけでした」と懐かしそうに話し始めた。

大学で建築を学んだ永井氏は、卒業すると即起業。最初の事業は、学んでいた建築の技術を生かしたペットハウスの製作・販売。そこから紆余曲折を経て、2000年頃からはホームページ制作やアプリの受託開発を生業としていた。

「事業が順調どころか自転車操業で苦しんでいたとき、偶然、宇都宮市から農業に関連した依頼を受けたのです。ご存じのとおり栃木県はいちご生産日本一であり、宇都宮市もいちご生産は盛んです。ここで冷水を使って夏にいちごを栽培する実証を行っていたのですが、その水温を効率的に測定できずに悩んでいる、とのことでした」


これがファーモ誕生の原点となった。永井氏は単に水温を測定できるようにするだけでなく、データをクラウドで飛ばしてアプリで見えるようにした。部品を探して手作りして納めたところ、これが大いに喜ばれた。要望に応じて、気温や湿度、CO2濃度を測れるようにした。こうして、自宅にいても買い物をしていてもハウス内環境を知ることができる「ハウスファーモ」というモニタリングシステムが形作られた。

「きっかけは水温測定でしたが、実際に使ってみると、うまく活用すれば収量アップできるとか、クラウドサービスにしたことで農業生産者と市の職員とでデータ共有ができる、といったメリットに皆さんが気付いてくれた。それも大きかったですね」

これに気を良くした宇都宮市から、今度は「水稲生産者に向けた製品はできないか?」との依頼を受けて開発したのが「水田ファーモ」だ。当初はカメラや水温センサーを搭載したが、最終的には最も多くの農業生産者が使える形として、極限まで機能をそぎ落としたシンプルな水位センサーとした。それを実証に参加していた6軒の農業生産者に120台、すべて手作りして納品したという。

初期のfarmo。当時はパーツを集めてひとつずつ手作りで製作していた
2024年2月現在、株式会社farmoが提供する製品は、栽培環境を見える化する「ハウスファーモ」、「果樹ファーモ」、「露地ファーモ」のほか、水位センサーと給水ゲート(または給水バルブ)からなる「水田ファーモ」、それに農業のほか建設現場や観光地・ゴルフ場で使われる「気象センサー」、また新しい挑戦として水路やため池の水位がわかる「アクアファーモ」とクラウドカメラの「フィールドショット」と、多岐にわたる。これらはいずれも「最低限の市場調査は行っていますが、基本的には現場から求められて開発したものばかりです」と永井氏はとつとつと語った。

常に農業生産者視点を忘れず、シンプルな機能に徹するfarmoの理念


「ハウスファーモ」と「水田ファーモ」には類似製品が少なくない。それでもファーモは順調に普及し続けている。その秘訣は、farmoが徹底的に農業生産者視点だから、と言えよう。

例えば、機能を絞ることで農業生産者の手に届く範囲に価格を抑えることを徹底している。「ハウスファーモ」はモニタリングシステムであって、遠隔制御機能は搭載していない。基本的に農業生産者は、栽培期間中ほぼ毎日、自分のハウスにいる。だから遠隔制御機能を搭載して高価格化する必要はない、という判断だ。


他社製品と比べるとアプリのインターフェースもシンプルで、セットアップも圃場に設置するだけと簡単
また、ファーモはすべての製品で月額制をとらず、買い切りとしている。仮に月2000円の月額制とすれば見掛け上は安く見えるが、10年使うとすると24万円とかなり高額になる。ところが、例えば「ハウスファーモ」は地上部のパラメータであれば最高でも12万9800円の買い切り。「水田ファーモ」の水位センサーも同様で、本体のみなら1万9800円、水温計付きでも2万4200円だ。

通信インフラはすべて無償レンタル


さらに、一般的な製品ではこれとは別に月に数百円〜数千円の通信費がかかるが、ファーモでは月額の通信費も不要である。専用のSIMも必要ない。

この買い切り&通信費無料を可能にするのが、ファーモが採用している通信技術であるLPWA。少ない電力で数km〜数十kmの広範囲で通信が可能だ。通信速度は他の通信技術に比べると遅いが、LPWAはデータ送受信量が少なくモニタリングに特化したファーモとの相性が極めてよい。

実は、このLPWAの通信範囲を日本全国の農地に広げようと、farmoは農業生産者と一体となって取り組んでいる。

近隣の圃場にfarmoユーザーがいれば、結果的にメッシュネットワークのように広がっていき、ユーザーの拡大も見込める
「当社は農村地帯など電源もインターネット環境もない場所でIoT技術を利用できるように、LPWA通信機を開発しています。基地局については、ユーザー様をはじめとした地域の方の協力を得ながら、全国に通信インフラを整備しているのです。通信インフラを構築できれば、ユーザー様に通信費用を負担させることなく、地域住民の皆さまがIoT製品を利用できるようになります。今のところ当社サービスは農業がメインですが、防災をはじめとして、地方には社会課題が散在しています。そこに貢献したいのです」

ファーモの1つの基地局は半径約3kmをカバーする。

驚いたことに、farmoはLPWA通信インフラを整備するために、基地局もfarmo製品を購入したユーザーに無償で貸し出している。

「有償にすれば、当社は短期的には売上が上がりますが、その基地局は誰かの所有物になってしまいます。すると、その基地局の通信範囲の方がファーモを使いたいとなったとき、『何故、私が買った基地局の電波を他人に使わせねばならないのか』となってしまいます。これはあまりに非効率です。

そこで当社では、投資家の方の協力を得て、基地局を貸し出しできるように出資していただきました。社会インフラという側面から見ると、地方自治体にもご協力いただきたいのですが、それは簡単ではありません」と、永井さんは説明してくれた。

farmoの基地局。構造はシンプルで、太陽光により電源も不要

社会から必要とされるサービスを提供し続ける


ところで、稲作をしている農業生産者であれば、J-クレジット「水稲栽培の中干し期間延長」が始まっていることをご存じのことと思う。営農アプリのほか、農業機械メーカー、専門事業会社などがプロジェクトを立ち上げた。この中干し期間延長の証明にも、「水田ファーモ」は活用しやすい。となれば、そもそもfarmoが自社でプロジェクトを立ち上げれば、ビッグビジネスに育つ可能性が高いはず。

しかし、このチャンスに対する永井氏の回答は、拍子抜けするほどシンプルだった。

「中干し期間延長が話題になったことで、確かに『水田ファーモ』についての問い合わせは増えました。でも、当社がプロジェクト化するなんて、考えてもみませんでした。プロジェクトは他社さんが立ち上げていますから、製品を使っていただければ十分。当社には他にやるべきことがあります」

それが、全国で話題となっている水管理の問題だ。


「ご存じのとおり、全国各地で水管理が課題になっています。施設の老朽化だけでなく、人手不足が深刻化しているため、省力化が求められているんです。そこに当社が培ってきたIoT技術を使えないかと、水路やため池用の水位センサーや、クラウドカメラに力を入れているのです。これらにもLPWAを活用することでネット環境不要で使える仕様にしています。ここに力を入れて行きたいのです」

世界で一番魅力的な「日本の農業」に貢献していきたい


会社設立のきっかけから、目の前の生産者の困りごとの解決を目指してきたfarmoだが、農業生産者の間に広がる「スマート農業は期待外れ……」という声についてはどう感じているのか、最後に永井氏に尋ねてみた。

「他社のことは何とも言えませんが、原因の一つとして、製品化の前に、ある技術開発の段階と農業生産の現場とが解離してしまっている、という気がします。

優秀な研究者・開発者が高い目標を掲げて立派な研究をして、その成果を社会実装しようとする。それ自体は素晴らしくて、成功している事例も多いのだとは思います。ただ、技術としては優れていても高価すぎて一般的な農業生産者は導入できない、という事例はしばしば目にします。出発地点が技術開発にある場合、商品として成立させるのが難しくなるのかもしれませんね」


そのうえでfarmo自身については「幸か不幸か、当社は小さな会社のままですから、管理部門も小さく一致団結しやすい。だからこんな感じで続けていられるのかもしれません」とも語った。

日本は経済不振や人口減少といった負の要因が少なくないからか、メディア上にはネガティブな話題が溢れている。農業も同じ状態だ。資材高騰や人手不足が続くうえ、農作物価格は上がらない。農業生産者からは「そもそも農業は日本人に求められていないのではないか……」という声すら上がる。

こんな現状に永井氏は真っ向から反論する。それを本稿のまとめとしたい。

「私の願望かも知れませんが、どこかのタイミングで、生産性や効率といった定性的な指標ではなく、日本農業だけが持つ豊かさとか、農業があるからこそ育くむことができた文化が、高く評価される時代になる。そうなって欲しいんです。

これまでお話ししたとおり、当社は農業のプロフェッショナルではありませんが、農業生産者の皆さまのお手伝いを通じて、農業が日本らしい文化を育むうえで多大な貢献をしてきたことを学んできました。ですから、農業生産者の皆さんには、農業に携わっていることに自信を持ってほしい、誇りに思ってほしいです。

farmoはこれからも、そんな皆さんのお手伝いをし続ける、必要とされる会社であり続けます」

株式会社ファーモのメンバー。日々新しい製品やサービスの開発にいそしんでいる

株式会社farmo
https://farmo.info/
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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