オプティム・ファームと栃木県の取り組みに学ぶ、農業DXに大切な考え方とは ──株式会社オプティム 代表取締役社長 菅谷俊二氏講演レポート

2023年11月28日、栃木県栃木市にて、下都賀地域の自治体や農業関係者を対象に、「デジタルを活用したスマート農業は栃木と日本の未来を明るくする」と題したセミナーが開催された。

今回の講演は、株式会社オプティムが栃木県と茨城県に設立した新会社、オプティム・ファームを中心として、地元の生産者や自治体と一緒に実践的なスマート農業への取り組みを加速させたことが契機だ。

その特別講師として、株式会社オプティムの代表取締役社長である菅谷俊二氏が講師として登壇した。

菅谷氏といえば、佐賀大学農学部時代にオプティムを立ち上げ、ITベンチャーとして数々の特許を取得し、東証一部上場も果たしたIT業界の先駆者。「楽しく、カッコよく、稼げる農業」をスローガンに、スマート農業、農業DXを進めている人物だ。

株式会社オプティム 代表取締役社長の菅谷俊二氏
今回、特別にその講演を聴取する機会をいただいた。菅谷氏の講演の中から、日本の多くの自治体が抱えているであろう、スマート農業が次のステップに向かうため、農業DXを成功させるためのヒントとなる言葉をご紹介したい。


スマホで自治体業務をDX化した佐賀市の「スーパーアプリ」


最初に、オプティムという会社の自己紹介を兼ねて、同社が大切にしている「○○×IT」という考え方と同社のITサービスについて説明された。

オプティムではこれまで、各産業のパイオニアやリーディングカンパニーに携わりながら、AIやIoTを活用してDX化を推進している。その分野は農業をはじめ、水産、建設、医療など、それぞれの産業で実績を上げている。

そんなDX事業の事例の中でピックアップしたのが、佐賀市に委託されて開発した「スーパーアプリ」というスマホアプリだ。一見農業DXと関係なさそうに見えるが、ポイントはその「DX化の進め方」にある。

佐賀市スーパーアプリの概念図(https://www.city.saga.lg.jp/promotion/main/2649.html

「スーパーアプリ」はひとつのスマホアプリに住民のあらゆる機能をまとめ、電子申請や図書館カードのDX化、防災・防犯情報のプッシュ通知など、生活に必要な情報や機能を提供している。これにより、市民は便利で快適なサービスを受けられ、市役所職員は負担軽減につながっている

このようなアプリの紹介で必ず言われるのが、デジタル技術を使いこなせない高齢者などが置き去りにされるという話題だ。しかし菅谷氏は「DXとはDIY」という言葉で、その解決策を示す。

DX化というのはDIY、つまり自分自身で使いこなすもの。では、それができない高齢者やデジタルに慣れ親しんでいない人たちに対しては、DIYによってコストダウンできた分、全力でサポートすればいい、という考え方だ。職員もこれまでと同じ働き方のままだが、DIYできる人たちの分だけ確実に負担が軽くなっている。


言葉のロジックのように思えるが、佐賀市の「スーパーアプリ」ではこの考え方をもとに、利用者である市民や企業など、地域が一体となってより使いやすいアプリへと育てていくことを目指しているという。実際、今回のセミナーの参加者には栃木県内の自治体関係者も多く、自治体業務のDX化について興味を示している関係者も多くみられた。


生成AIにできることは8割程度


このようなDX化を進める上で、私たち人間はAIには完璧なものを求めてしまいがちだ。未完成な状態を「使えない」と安易に評価してしまうところもある。

ただし、ヒューマンエラーもプログラムのバグも、必ず存在してしまうもの。DX化によりそれらもすべて解消できるというわけではない。

こうした完璧なサービスを求められる自治体側の悩みに対する回答として菅谷氏は、「最近なにかと話題になっている『ChatGPT』などの生成系AIも、完璧なわけではない」とも語っている。

「生成AIの正答率は8~9割程度であり、これをどう見るかはIT業界のなかでも議論されています。しかし人間だってミスをすることはある。そう考えると、8~9割の正答率でも使い方によっては十分に役に立てるのではないか」

実際にオプティムでは、生成AIを活用し製品などに関する問い合わせサービスを展開しているが、AIが対応できない1割ほどの間違いについては人間がフォローしている。

ただし、AIが圧倒的に便利なのは、人間のように疲れたり弱音を吐いたり気分に左右されることなく、黙々と与えられた仕事をこなしてくれるということだ。


それにより、オプティムが生成AIによるカスタマーサポートの導入で、人間の労力を約7割削減することに成功している。たとえ100%の結果が得られなくとも、その方がコスト面でも十分に貢献できれば、DX化の恩恵は受けられる。


ドローンパイロットの育成は、地方人材の育成と雇用促進に


こうしたDX化の事例やサービスの紹介の後は、今回のセミナーの主題である農業分野についての話題になった。

少子高齢化や担い手不足といった課題を多く抱えながらも、人が生きていくうえで不可欠な産業である農業。多岐にわたる分野でデジタル活用を推進するなかでも、菅谷氏の専攻だったこともあり、オプティムとして特に注力している産業だという。

2023年は、「楽しく、かっこよく、稼げる農業」をコンセプトに、スマート米をはじめとする「スマートアグリフードプロジェクト」や、最適なタイミングで防除を丸ごと委託できる「ピンポイントタイム散布」(PTS)などのサービスを提供し、日本各地で利用が進んだ。

実は、それらの作業を担うドローンパイロットの育成にもオプティムは力を入れており、地方在住のドローンパイロットのニーズ掘り起こしと、新たな雇用の促進にも貢献している。


オプティム・ファームのある栃木県においても、さまざまなサービス活用が始まっており、県下の1250ヘクタールの圃場で水稲を栽培している。

JAしおのやでは、1000ヘクタールの大きな圃場の管理にオプティムのサービスを導入。圃場の地図化などの作業をオプティムに任せることで、担当者の作業負担が大幅に軽減した。

また、JAしもつけでは、地元のドローンパイロットの協力も得てドローン防除を実施。ヘリでの防除と比べて騒音やドリフトの心配もなく、生産者の立ち会いなし、クレームなしで防除を行えたという。


2023年5月には、オプティム・ファームの圃場で、ドローン直播による田植えの見学会も実施。通常田植えは時間と手間がかかる作業だが、ドローンで種を直接まくことにより、短時間で田植え作業を終わらせることができた。オプティムが独自開発した「ストライプ・シード・シューター」技術によりきれいな条を作って植えられるため、管理の際にも機械が入りやすかったり、病気が出にくいというメリットもあった。

オプティム・ファームとしては、こうした技術を用いながら米の栽培を学ぶ意味で、従来の田植機とドローン播種の比較なども実施。収穫・乾燥といった工程に関しても、生産者に指導してもらいながら取り組んできた。

菅谷氏はさらに、「米の田植えや農薬散布にとどまらず、ほかの作物にも展開できるようにしたい」とも話しており、研究開発は日夜進められている。栃木県については、まずは県の名産でもあるねぎのドローン防除からはじめ、最終的には果樹の農業DXも推進していくことを目指したいと意欲を見せていた。



パターン化された作業を徹底的に効率化していく


オプティムは日本全国でドローンを活用し、何千回もの防除を行ってきた。栃木県の農業関係者と作業をする中で、「防除に関しては日本で最も知見を有する、バーチャルな農業法人のような存在ではないか」とも言われたという。


農業は近代化が進みにくいと言われているが、生産者がトップに立ち、防除などの作業に関しては専業として徹底的にオプティムが効率化することで、生産コストを下げ、その分生産者に還元できる仕組みを確立しようとしている。そして、それを見た若者が農業に興味を持ち、担い手になってもらうことで、最終的には地域の発展に貢献したいという。

菅谷氏は最後に、「日本の農業が抱える課題解決の一端を担うオプティム・ファームをスマート農業のショーケースとし、この取り組みを栃木県全域に広げていきたい」とセミナーを締めくくった。



超高齢化社会の日本だからこそ、世界の農業DXをリードできる


講演後に行われた質疑では、オプティム・ファームでの取り組みを1年間見てきた参加者から、「(スマート農業技術を使うことで)高齢者であっても活躍していける農業を実現できるのではないかと、希望を感じた」という言葉が聞かれた。

たしかに世界的にみると、デジタル技術の活用が遅れ気味であるとも言われる日本だが、菅谷氏は「産業のDXについては日本は進んでいる方であり、世界でいち早く超高齢社会に達しているからこそ、高齢者でも活躍できるDXサービスを作ることができる。この波に乗りながらさらにスピーディーに展開していきたい」とも語っていた。

高齢者が農業の担い手の大半を占めている農業は特に、スマート農業というものを理解してもらうのには苦戦しがちだ。しかし、オプティム・ファームの取り組みやドローンを実際に現地で見て、スマート農業がどういうものなのかを一発で理解し、安心してくれた生産者も多かったという。

来場者からの質疑ではほかにも、
  • オプティム・ファームのスタッフの生産者を尊重する姿勢に感動した
  • 最初は、オプティム側から『圃場を見に行きたい』と言ってきてくれて、実際にオプティム・ファームのスタッフの人に会ってみると、気さくな人柄と地域に溶け込もうという姿勢が感じられた
  • 技術を提供するだけでなく、地域がこれまで培ってきた技術と融合していこうという姿勢を感じられ、地元の生産者たちも受け入れることができた。圃場の条件などの問題もあり、新しい技術はうまくいくことばかりではないかもしれないが、その部分を経験豊富な生産者がサポートするという形が出来上がっている
  • (オプティム・ファームやオプティムの取り組みを見ながら)日々技術が進化していることが感じられている。1回目は失敗に終わっても次はうまくいくという期待が持てる。前年の経験を活かしながら、毎年同じ人が同じ場所で農業を行うということが大切なんだと思う。実際にどんどん進化していることを実感している

といったさまざまな評価の声が寄せられた。


実は、国の事業として行われている栃木県の地域計画策定の話し合いにも、オプティム・ファームのスタッフが参加しているという。このような活動によって生産者との信頼関係が深まったことで、栃木県内にある圃場を任せたいという地域もすでに増え始めている。

2024年は、栃木県におけるスマート農業の取り組みがさらに広がっていくだろう。

オプティムの農業DXは既存農業を切り捨てない


農薬散布や田植えの効率化など技術面が進む一方で、現場に普及させるのが難しいという問題は、スマート農業が技術開発期から普及期へと移行しつつあることを示している。

2023年のオプティム・ファームの取り組みはまだスタートラインに立ったばかり。まずは栃木県を中心として、あらゆる農業の課題の解決を目指す。

そして近い将来、栃木県とオプティム・ファームによる先進的な農業DX化の事例が全国各地に広がり、生産者の収益向上や地域農業の発展につながることを期待したい。


農業DX事業|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/business/agriculture
株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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