オプティムが考える、AI・IoTが当たり前になった日本の農業像とは?【OPTiM INNOVATION 2019レポート】

10月24日(木)と25日(金)の2日間、ホテル雅叙園東京にて、「OPTiM INNOVATION 2019」が開催された。株式会社オプティム初の単独プライベートショーとして「AIの未来とあらゆる産業のビジョンが集う」をテーマに掲げたイベントだ。

ひとつの企業のサービスを紹介する展示会ながら、その展示に関わった企業は実に215社。新しく発表されたオプティムの13のサービスとともに、AI・IoTを駆使した第4次産業革命型のサービスを52のブースで具体的に紹介した。

本イベントのメインコンテンツは、基本的にはオプティムが手掛ける様々な事業の展示、およびシンポジウムだ。AIが当たり前になる未来の産業はどうなっていくのか、リーダーカンパニーであるオプティムの考えを聞くことで、それが具体的にイメージできたように感じられた。

本記事では、イベントの冒頭に行われた基調講演の概要をご紹介。中でも、「農業×IT」の最新サービスの説明と、代表取締役社長の菅谷俊二氏によるAI・IoTの未来についてじっくりまとめさせていただいた。




「農業×IT」の未来戦略
「スマート米2020」は新潟、長野にも進出

「農業×IT」のスマート農業の分野に関しては、ディレクターの休坂健志氏が説明した。

まずは、2019年収穫の「スマート米」の新米についてだ。今年はさらに産地を拡大し、新潟県や長野県などの米どころでも導入が進んだという。全体の収穫量は約140トンを見込む。

試食ブースでは青森県産の「まっしぐら」・佐賀県産の「さがびより」に加えて、兵庫県の丹波篠山産黒大豆の枝豆も振る舞われた。特に枝豆は、減農薬栽培の結果、一部は特別栽培農産物の規格で、高島屋や成城石井でも販売されたという。余談だが、成城石井からは当初の予定以上の追加注文が入ったという。


これらの農作物に使われている技術が、オプティムが開発した世界初の技術「ピンポイント農薬散布テクノロジー」だ。AIによって病害虫発生個所を特定し、ピンポイントで農薬を散布するというもので、全面散布と比べると大幅な減農薬、そして労力軽減になる。

そもそも、ドローンによる圃場撮影やAIによる画像解析自体は、様々な企業が実施しており、ハードウェア/ソフトウェアともに販売されている。しかし当然、ドローンの導入コスト、AIサービスの利用料、技術を習得するための人的コストなどがかかる。

そんな生産者からの声を受けてオプティムは、この「ピンポイント散布テクノロジー」を無償で提供し、その技術で栽培した農作物を市場価格で全量買取する「スマートアグリフードプロジェクト」を立ち上げた。このビジネスは付加価値のレベニューシェアモデルであり、最新技術を用いた付加価値がついた米としてオプティムが販売し、その利益の一部をオプティムも受け取りながら、売り上げがアップした分については生産者にも追加でキックバックする。

実際に販売がスタートした2018年度産は、全国4地域5品種の「スマート米」をAmazonや直販サイト「スマートアグリフード」などで販売しており、ほぼ完売の状態だ。特に、無洗米玄米が忙しい家庭にありながら健康意識が高い層にマッチし、人気を博しているという。


オプティムが常に考えているのは、ともかく「農家が楽をして儲ける」ということ。そのターゲットは約80兆円と言われる食品市場だ。

農作物市場は食品市場の中の約9兆円を占めているが、農機や資材などの経費を差し引いた生産者の利益となると、3兆円にも減る。実に6兆円が流通や資材などに取られてしまっているというわけだ。

オプティムは生産者利益の3兆円市場を狙うのではなく、80兆円の大きな市場の中で生産者とともに新しい市場を生み出し、生産者の利益を上げていきたい──それが「スマートアグリフードプロジェクト」の理念となっている。

もちろん、このような自社サービスの他にも、農林水産省とタッグを組み3カ年計画で進めている「スマート農業実証プロジェクト」にも積極的に参画。全国各地の企業や生産者と連携しながら、AIやIoTを駆使して多彩な品目で取り組みを進めている。


各種スマート農業をワンストップで提供
「スマート農業プロフェッショナルサービス」

続いて紹介したのは、生産者が“楽して、儲ける”ための取り組みだ。そのひとつが、固定翼ドローン「OPTiM Hawk」を用いた農地調査プロジェクト。ドローンによって空撮した画像により、生産圃場を判別しつつ、作付け作物を検知する。

すでに佐賀県白石町では、約8500haある町の農地全体をドローンで2度、スキャンしている。これが本格採用されれば、年に2回、農家1件1件を回って確認している農政業務を大幅に削減できるという。会場では、独自に開発した固定翼ドローン「OPTiM Hawk バージョン2」を初公開。連続航続飛行距離は約100kmを誇る。


ただ、オプティム自身も、自社ですべての製品を作ることは不可能だ。そこで、パートナーと一緒に生産者の課題解決をワンストップで支援する「スマート農業プロフェッショナルサービス」という新事業が発表された。

これは、オプティムが生産者に対して課題解決のためのスマート農業に必要なあらゆるハードウェア、ソフトウェア、サービスを一括で提供するサービスを提案。パートナー企業からのハードウェア、ソフトウェア、サービスなどはオプティムが調達し、ドローンパイロットが不在であれば「DRONE CONNECT」でドローンパイロットを提供するなど、ワンストップサービスとして提供するというものだ。


前述のとおり、生産者に残る利益のうち、資材などの経費は削減することでそのまま手元に残る。長期間のローンを組まなければスタートできない農業ではなく、必要なものを必要な時期に、必要なだけ利用するというかたちでの農業が実現できる日も、そう遠い未来ではなさそうだ。


2025年、AI企業が世界トップを占める

基調講演の終盤、再び登壇した菅谷氏は「AIは実用化のフェーズに突入した」と宣言。AIサービスは3年後には町中に溢れ返っているはずだと断言する。

「AIに何ができるのかわからない」という状況からはすでに抜け出し、AIができることは実用化され始めている。ここから大切なのは、AIにできることとできないことを理解して、新しいサービスを作ることだ。

そのために菅谷氏が考えているのは、「今後AIにつながらないIoTには価値がない」ということ。例えば、人の目では認識できない紫外線などをAIが分析して農作物の生育状況を分析したり、人の耳には聞こえない波長の音をAIが認識することで故障を把握するなど、AIとIoTの組み合わせは、人間が知覚しえない世界を教えてくれる。AIとIoTが現実社会を人間よりも理解し始める時代に突入したという。



では、これからAIが中心となる世界はどうなっていくのか。
AIによって仕事が奪われ、人間の価値がなくなっていくのか。そうではない。

これまでデジタルの画像や音声などのデータ自体は存在していたが、実はコンピューターはその意味を理解できてはいなかった。しかしAIによって、その意味を理解したデータがネット上に現れ始めると菅谷氏は言う。

そして、これまで活用できていなかったそのようなデータ「シークレット・ビッグデータ」をいち早くAIで解析することで、業界をリードする会社になりたい、というのがオプティムの目標だ。

このシークレット・ビッグデータがこれから重要になる理由はひとつ。AIは学習するデータがなければなにもできないからだ。

つまり、そのデータをある会社しか持っていなければ、当然その会社が有利になる。オプティム自身は各分野に精通しているわけではないが、各分野のトップの企業と協力することで、AIの世界でトップに立てる企業になりたいという。


課題先進国の日本を第4次産業革命の先進国に

さらに菅谷氏は、「10年前になかったもの」を例に挙げて、現在のヒット商品の大半はインターネット関連商品だと紹介。それらは、ネット発明以前にもあったものをネット対応させたものばかりだ。


その上で、「2025年のヒット商品はAI関連商品であると予言します」と菅谷氏。世界の時価総額トップ10企業を見ても、大半がインターネット企業。となれば、2025年のヒット商品もAIに対応させた商品になる、というのは納得がいく。

そして最後に菅谷氏は、「第4次産業革命はAIだけで進むものではなく、社会の変化、顧客の変化、ITの変化の3つによって始まっています。私たちが取り組む7つの領域に関して、みなさんと新しいビジネスを築き上げていきたい」と来場者へのメッセージを伝え、基調講演が終了した。


日本の農業の課題を第4次産業革命の発展に生かす

AI・IoTの分野で大きく躍進を遂げているオプティムは、農業界から見れば異業種参入企業のひとつでしかない。しかし、自らが農業の専門家ではないことを明言し、これまで農業界に貢献してきた企業へのリスペクトをことあるごとに語ってきた。

そして、自分たちが得意とするAI・IoTの分野において、その業界トップの企業とパートナーとなり、あくまで生産者の視点に立ち、持続可能で楽をして稼げる日本の農業を実現したいと考えている。

AI・IoTの専門家だからこそ、日本の農業のためにできることがある。そしてそれは、オプティムでなければできないことでもある。

スマート農業の旗手としてオプティムが日本の農業界に与えてきたインパクトは非常に大きい。その代表的な企業として、今後のオプティムの取り組みに注目していきたい。


OPTiM INNOVATION 2019


【特集】OPTiM INNOVATION 2019 レポート
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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