自然災害による農業被害を最小限に抑えるための支援策&事前対策まとめ

異常気象の影響で、ここ数年、台風や大雨による災害が多発している日本。この7月にも甚大な被害が出た九州豪雨をはじめ、中部から西日本にかけて、すでに全国で影響が出ているし、2019年に起きた台風19号では、東日本にまで及ぶ広範囲で深刻な被害が報告されている。

昨年、浸水により特に大きな被害を受けた作物は米、イチゴ、りんごなどで、農林水産関連の被害額でいうと台風19号だけで3058億円を超えている。また、氾濫した川の水が田んぼに流れ込み作付け不能になってしまった地域もあり、未だ復旧作業を行っているところもあるというのが現状だ。

そこで今回は、これから本格化する自然災害時に利用できる制度や取り組み、心構えをまとめてみた。



農水省が行う災害時の公的な取り組み


まずは、政府が打ち出している取り組みについて紹介しよう。

国の支援策や制度については、すでに実績のある2019年の取り組みを参考にした。自分の被害状況によって支援が受けられるかどうかは個別のケースとなるため、あくまでこのような制度があるという情報をお届けするレベルになってしまっている。

しかし、災害対策はその年の状況に応じて臨機応変に行われているため、これから実際に被害を受けてしまった際にどのような制度が活用できるのか、生産者自身でどのようなことができるのかを知っておく意味で、活用いただければ幸いだ。


早急な営農再開に向けての査定前事前着工

「査定前事前着工」とは、農水省が定める災害査定を待たずに復旧工事に着手することができる制度で、早急に復旧作業を行うことで営農再開が見込める場合や、生活に直結した被害箇所の復旧が行える。

また、査定前事前着工には応急仮工事と応急本工事の2種類があり、それぞれ要件が異なる。

応急仮工事の留意点

  1. 災害が発生し放置すると被害が拡大する恐れがある場合に、事業主体の判断で実施した応急仮工事も補助の対象。
  2. 1か所の応急仮工事費が20万円以上、かつ応急仮工事の費用を除く復旧工事費用が40万円以上であること。
  3. 復旧作業の必要性、工法の選定理由が確認できるよう施工前の被災写真を撮影しておくこと。
  4. 工事実施中の写真、出役人夫、契約書、工事費支払額などの証拠書類を用意しておくこと。
  5. 応急仮工事を実施した場合は地方農政局に報告。
  6. 工事に要した費用を査定設計書に計上しておくこと。
  7. 用水手当や排水処理の費用のうち、ポンプの購入費や運転労務費は補助の対象にはならない。

農水省が作成した応急仮工事の申請チェックリスト
応急本工事の要件

  1. 被災施設または、それに関連する施設の増破防止や作物被害を防止するために緊急に着工する必要があるもの。
  2. 緊急に作業を行えば作付けに間に合う農地などの復旧であること。
  3. 復旧作業の必要性、工法の選定理由が確認できるよう施工前の被災写真を撮影しておくこと。
  4. 工事実施中の写真、出役人夫、契約書、工事費支払額などの証拠書類を用意しておくこと。
  5. 応急本工事は災害復旧事業となることから、着工前に都道府県または地方農政局に協議し承認を得ておくこと。
  6. 工事に要した費用を査定設計書に計上しておくこと。
  7. 用水手当や排水処理の費用のうち、ポンプの購入費や運転労務費は補助の対象にはならない。


農水省が作成した応急本工事の申請チェックリスト

【査定前事前着工問い合わせ先】
農村振興局整備部防災課
TEL:03-3502-8111


稲作農家への特別対策

河川堤防の決壊などによる水害が発生した場合、稲作農家の被害が大きいことから営農再開に向けて支援を受けることができる。また、稲作農家が受けられる支援は被災農家営農再開緊急対策事業、水田農業継続特別対策の2種類があるので、それぞれの支援内容を紹介していく。

被災農家営農再開緊急対策事業
被災農家営農再開緊急対策事業とは、米を保管していた倉庫が浸水し出荷できなかった農家の営農再開に向けて必要な費用を支援してもらうことが可能。

【支援内容】
土づくり、土壌診断、種苗などの資材の準備、ゴミや瓦礫の除去にかかる費用。

単価:70000円/10a
要件:収入保険や任意共済特約などに加入すること。

【問い合わせ先】
市町村または都道府県の農政担当部局など


水田農業継続特別対策

水田農業継続特別対策とは、地域において大規模な浸水被害を受けた、稲作農家の営農継続に向けての取り組みにかかる費用を支援してもらうことが可能。

【支援内容】
土づくり、土壌診断、作業委託および機械のレンタルなどにかかる費用。

単価:土づくり10000円/10a、作業委託・機械レンタルなどは補助率1/2
要件:収入保険や任意共済特約などに加入すること。

【問い合わせ先】
政策統括官穀物課
TEL:03-6744-2108


強い農業・担い手づくり総合支援交付金(被災農業者支援型)


強い農業・担い手づくり総合支援交付金とは、産地の収益力強化や担い手の経営発展を推進するための制度であるが、2019年の台風被害が甚大化したことにより、被災者向けの支援も追加された。ただし、今年度起きた災害については発動されるかが決定していないため(2020年7月現在)、ここでは簡単に支援内容などを紹介していく。

【支援内容】
・農業用施設、機械などの復旧支援
・農業用ハウスなどに流入した土砂の撤去費用の助成
・農業用ハウスなどの補強についても助成
・被害を受けた日以降であれば、同事業の計画承認前の取り組みについても対象

【問い合わせ先】
市町村または都道府県の農政担当部局など


生産者自身が行える取り組み

いくら国の支援策が充実したとしても、生産者にとっては育ててきた作物をお客様に届けることができないことが最も大きな損害であり、その心情を思ってもやりきれない。

以前であれば、市場に受け入れてもらえない状態のものは廃棄するしかなかったが、IT技術による販路の拡大やインターネットの活用、食品ロスといった社会情勢の変化による消費者側の理解も進んできており、農家支援のための活動を行っている団体も増えている。


被災した作物の販路の確保


自然災害による被害は、圃場や設備だけにとどまらない。最も深刻なのは、すでに生育している野菜などが傷や汚れにより販売できない状態になってしまうこと。応援する気持ちがあるとはいえ、市場はもちろん、提携先の飲食店などであってもためらってしまうのも無理のないことではある。

そんな中で、被災した作物を積極的に引き取る取り組みをしているところもある。

たとえば、一般社団法人 野菜がつくる未来のカタチが運営する「チバベジ」では、昨年の台風15号で甚大な被害を受けた千葉県を起点とし、クラウドファンディングなどを活用しながら被災した農家を支援する取り組みを行っている。主な取り組みは災害時などに流通できなくなった野菜を農家の希望価格で買い取り、ECサイトでの販売や、加工品にするなどしてフードロスの削減にも貢献している。


参考記事:台風被害の廃棄野菜をクラウドファンディングで販売 被災農家支援の「チバベジ」が法人化
https://smartagri-jp.com/news/839

この他にも、クラウドファンディングによって被災した農家を支援するプロジェクトはいくつもあり、成功事例も多い。万が一の状況になってしまったときに、商品にならないかもしれない作物を目の前にして途方にくれたとしても、さまざまなかたちで助けを求められる場所があるということを知っておいてほしい。


生産者が行える台風対策


生産者自身が事前に行える圃場への具体的な対策については、台風被害が多い地域で暮らす生産者の方が圧倒的にノウハウを持っている。そういった情報をインターネットのコミュニティなどで得ることができれば、よりよい対策法を学べるかもしれない。

昨年の関東での被害のように、これまで影響が少なかった地域でも甚大な被害を被るケースも増えてきている。以下のような最低限の対策はしておこう。

ただし、台風が直撃している中で作業をしてケガなどをしてしまうケースも後を断たない。特に自然災害に慣れていない地域では、直前になって焦ることのないよう、これからの季節に向けて日頃から少しずつ対策しておきたい。そして、家族なども交えていざというときの対策方法や連絡手段をしっかり整えておくことも大切だ。


【事前対策の例】

  • 圃場周り、ハウス周りの排水溝をキレイにしておく
  • ハウスの補修・補強、施錠をしておく(状況に応じてビニールを外す、あえて開けておくことも)
  • 台風通過後に必要な資材や薬剤などを確保しておく
  • 塩害が起こりそうな地域はタンクに水を貯めておく

【事後対策の例】
  • 病気を防ぐための薬剤散布
  • 追肥(肥料の流亡が考えられるため)
  • 被害が大きい場合は次期作の検討

被害を最小限に抑えるために

これから夏本番を向かえるにあたって台風は避けることのできない問題であり、農業に携わる者にとっては厳しい状況が起こってしまうことも覚悟しておく必要がある。近年では気象災害とは無縁だと考えられていた土地でも災害が起きることが増えているため、この地域なら大丈夫ということはないと思っていた方がいいだろう。

台風は事前に接近していることがわかるので、事前に対策を施すことで防げる被害もある。災害に遭ってしまったらということも常に念頭におき、万が一被災してしまった場合には今回紹介した支援制度をぜひ活用してもらいたい。


農林水産省 台風19号などに関わる支援対策のポイント
https://www.maff.go.jp/j/saigai/attach/pdf/index-135.pdf
強い農業・担い手づくり総合支援交付金(被災農業者支援型)
https://www.maff.go.jp/j/keiei/sien/31_kofukin/1_ooametaihuu17/attach/pdf/1_hisai-7.pdf
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX(現在登記準備中)を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。