日本産農産物の海外輸出成功に必要なこと〜日本茶に学ぶ農産物輸出(後編)

前回は「コロナ禍でも日本茶の海外輸出が伸びている理由(前編)」と題して、なぜ日本茶の輸出額が伸びているのかを説明した。

今回はその後編として、さらに輸出額を増やすにはどうすべきか、日本茶だけでなく日本産農産物を海外に輸出し、成功するために必要なことを述べたいと思う。


コロナ禍でも輸出が好調! 日本茶をもっと世界に流通させるには

 

英語による情報発信の強化


少し話が逸れるが、緑茶と同じく日本を代表する飲み物の一つである日本酒の輸出戦略には、日本ブランドを海外で普及させるためのヒントが見える。

日本酒を中心に取り扱う商社を立ち上げ、ドイツを拠点に欧州で日本酒の魅力を発信するUENO GOURMET代表の上野ミュラー佳子さんは、海外への情報発信や日本酒教育の必要性を指摘している(「ヨーロッパにおける日本酒市場現況と課題」)。

「海外の人たちが日本酒の情報を得ようとするときに、恒常的に日本酒情報を収集整理して英語で発信する公の機関やホームページがないこと、また英語で各国からの質問に対応する窓口もないことが課題です。欧州での日本酒需要拡大に関しては、世界に誇れる各県の地域性、酒造の特徴、各蔵やお酒の特徴をまとめる過程でアイデンティティを確立することと、これを英語でインターネット、SNSを使い発信することだと思います」



普及者向け教育制度の充実も不可欠


また、日本酒教育の必要性も強調する。

「現状では農林水産省や日本酒造組合中央会などの支援を受けたいくつかの教育コースはあるものの、恒常的に日本酒の知識を集約し、伝える教育機関がありません。海外の日本酒教育者を養成する機関も少なく、優良な日本酒コースや教育者を認定する公的な機関が必要です」

日本茶の場合、情報発信や教育という点に関しては「日本茶輸出促進協議会(公益社団法人日本茶業中央会内)」や「NPO法人日本茶インストラクター協会」が中心となって、日本茶の魅力を英語で発信するパンフレットを作成したり、日本茶愛飲家の裾野を広げるべく日本茶インストラクター・アドバイザー資格制度の普及、日本茶検定の実施などに取り組んだりしている。

また同協議会では、海外に在住する日本茶インストラクターの有資格者から20カ国で計45名(2020年度)を、海外で日本茶の魅力を伝える「日本茶大使(Japan Tea Goodwill Anbassador)」として任命。

現地大使館やJETRO(日本貿易振興機構)の協力を得ながら、日本茶講座やお茶の試飲会などを開催し、日本茶の普及に努めている。こうした業界を挙げた地道な努力が、少なからず継続的な輸出拡大につながっていることは間違いないだろう。

フランス在住の日本茶大使・能宗Lelong美佐子さんが2019年7月に開催したメディア・芸術関係者向けの日本茶試飲会と日本茶セミナー(出典:日本茶輸出協議会「2019年度日本茶大使活動報告書」)

とはいえ、まだまだ海外のバイヤーやユーザーへの英語による情報発信、教育システムの整備が不十分であることは否めない。ドイツではワイン・ソムリエ養成コースが40日間の教育システムとして充実しており、その中で日本酒についても1日かけてテイスティング付きの講義が行われているという。

そのことを考えると、もっと日本茶の栽培や製茶現場での体験や日本茶と料理とのペアリング、他の飲み物への目配りなども含めて、幅広い知識と体験、本物の舌を養っていける国内外で活躍できる人材の教育システムをさらに充実させていくことも必要になってくるだろう。

2016年にイタリア・ミラノで開催された食の万国博覧会で、日本食の魅力を描いた映像を全面に押し出した演出で日本館を盛り立てた映像会社「オーギュメントファイブ(augment5)」代表の井野英隆さんは、日頃から仕事の中で欧米現地の商社や有名シェフ、パティシエなどと日本の食材・食品に関するやりとりを行う中で感じることについて、次のように語る。

「いま欧米では本物を求めてきていることを実感する。ヨーロッパのパティシエたちは本格的に和菓子をアレンジしたスイーツをつくり、それに合うお茶を求めているし、私の知るアメリカの茶師は、現在人気が高まっている抹茶の次のトレンドとして、玉露や被せ茶(玉露と同じ被覆栽培により旨みと香り、水色を引き出したお茶)の旨味を求めている。その良さをアピールし、高品質な商品を提供できる体制を作るべき」と語る。その上で、「海外から英語でメールによる問い合わせが日本茶を輸出する業者にたくさん入ってきているが、英語ができないためにスルーしてしまっている。そうした海外からの問い合わせや要望に応えられる共同の窓口センターが必要ではないか。そこでは日本茶に関する専門知識を持ったネイティブが海外向けの商品説明書を英語で作成し、受注の受け入れ窓口の機能も持ち、各業者に輸送手配も行うような仕組みをつくっていくべき」

上記の指摘は日本茶に限ったことではなく、すべての農産物や食品にいえることであり、輸出に関わる行政、業界関係者の皆さんが深く耳を傾け、早急に実行に移していくべき課題であると思う。


ミラノ万博では、静岡県茶業会議所が日本茶輸出促進協議会の支援を受けて冊子「SCIENTIFIC EVIDENCE FOR THE HEALTH BENEFITS OF GREEN TEA」を制作し、各国のバイヤーや小売、レストラン関係者などに配布した。国内の第一線で活躍する研究者たちが科学的なエビデンスに基づいた日本茶のさまざまな効能について英語で解説

輸出先の残留農薬基準に沿った栽培体系


もう一つ、農産物の輸出にあたっては避けて通れない大きな課題が、農産物の生産・保存などに使用できる薬剤の規制だ。

1990年代以降、世界的な健康ブームにより、欧米各国やアジアの新興諸国の富裕層・中間層でも有機栽培茶や緑茶の需要が増えている。その一方で、食品衛生や環境政策を重視するEUでは、【残留農薬基準「MRL(Maximum Residue Level)/2008年9月決定」】を定め、農産物や食品の輸入規制を強化してきている。

そのため、これまで国内向け生産を主体としてきた日本茶の産地では、価格面のみならず、残留農薬の面でも輸出が難しい状況が生じている。

一方、インドやスリランカの緑茶はEUでの残留農薬の問題がなく、さらに健康機能を持つカテキン含有量も多い品種であるため、輸出量も増えている。

中国も茶が輸出品目として生産されているため、早くからEU基準をクリアした農薬使用の栽培体系に切り替えている。そもそもお茶の栽培環境は日本のように高温多湿が適しているが、病害虫・雑草が発生しやすい環境でもあり、適正な施肥管理や適正な病害虫や雑草の防除が必須である。

とはいえ、輸出先の設ける基準をクリアできない限り輸出もできない。そこで、日本茶輸出促進協議会では農林水産省の支援を受け、日本茶の輸出業者100社あまりについて輸出を予定・計画している日本茶の残留農薬の検査を毎年1回実施している。

世界のお茶産地と競争していくためには味や品質の向上とともに、こうした各国の残留農薬基準などの規制にしっかりと対応できる栽培体系を確立していく必要がある。その意味では、国際水準の基準(規格)として国際的にも認められている有機JAS認証にそった有機栽培の取り組みが全国の茶産地でもっと積極的に進められてもいいだろう。


日本オリジナルの新品種の開発


同時に進めていきたいのが、日本独自の高品質なお茶づくりである。

現在、国内では20世紀初頭に育成された緑茶品種「やぶきた」が全国の茶園面積の7割以上を占めており、病害⾍の多発や作業集中、香味の画⼀化、茶園⽼朽化による収量や品質の低下などの弊害が顕在化している。

それに代わる病害⾍に強く、⾹味に優れ、収益性も⾼い新品種として、農研機構が新品種「せいめい」を育成した。

抹茶用品種として育成されたが、煎茶や釜炒り茶、⽟緑茶、かぶせ茶、⽟露への加⼯適性もあるということから、海外輸出を目指す産地は導⼊を図っていきたいところだ。

農研機構としても、⽇本独自の煎茶や抹茶の輸出を⽀援する立場から、⽇本オリジナルの茶品種として初めて海外(オーストラリア、ベトナム、韓国、EU、中国)での品種登録を出願し、苗の不正な海外流出を防いでいくという。


堀口製茶が進めるスマート農業×IPMの取り組み


無人のロボット摘採機と伴走する形で、リモコン操作によって収穫を行うことができる。1人で2台を操作することも可能

最後に、スマート農業を活用した国内栽培環境をご紹介しよう。

鹿児島県志布志市で創業72年を迎える鹿児島堀口製茶有限会社では、茶生産から加工販売まで一貫して行うほか、ロボットなどを用いたIPMの取り組みや、新たな需要開拓のために海外輸出にも率先して取り組んでいる。

同社ではこれまで取り組んできた環境保全型農業の取り組みとともに、無人で茶摘みを行う「無人摘採機」の導入や、自動散水装置の活用による節水型の水管理と畑かん水を利用した防霜システムなど、IoT活用による経営の見える化などに取り組んでいる。

葉を摘む高さの設定は茶の品質に直結するので人が判断することになるが、無人のロボット摘採機を導入するとリモコンでロボットを操作しつつ自分は機械を使って伴走しながら収穫できるので、1人で2台を操作できる。また、摘採時期の判断は画像解析で行うことができる。

ただし、「摘採機は大型な機械になるため、人が乗る従来型タイプでもかなり高額。無人ロボットは現状でその2〜3倍程度かかるとされ、ここが大きなネックになる」と副社長の堀口大輔氏。(スマート農業推進協会2020年7月16日「オンライン講座」より)。

また、人手不足が喫緊の課題で、「我が社は栽培管理や市況など、さまざまなソフトを使っていますが、IoTをもっと活用できるように、メーカーさん同士が協力してソフトをつなげること。そして、現場に新しい農業を浸透させるには、営農指導者のようなスマート農業の専門者によるサポートが必須だと思います」と、スマート農業をサポートする企業への要望もあるという。



スマート農業の技術やシステムを導入することで、新たな稼げる経営モデルをつくり、地域の茶業がかかえる課題の解決にもつなげようとしている



静岡県でのスマート農業による茶栽培管理


静岡県は国内荒茶生産量の38%を生産する日本一の茶産地。小規模な生産者が多く、共同で荒茶製造を行う約500箇所の共同茶工場や法人茶工場が約8割の茶園を管理している。

起伏に富んだ中山間地域に茶園が分散し、茶園の巡回・観察や管理に多くの時間がかかる。さらに生葉収穫の判断は各生産者が行うため、品質にバラつきが多い。これが市場における価格低下を招き、高齢化や後継者不足により耕作放棄される茶園も増えている。

こうした現状の中で、ICTやAI等の先端技術を活用した「スマート農業」の技術は、後継者や若者が茶業に目を向けるきっかけとなることが期待され、これにより作業の省力化と高品質生産を実現し、着実に経営改善につながっていくことが求められる。

具体的には、茶園の一部にフィールドカメラなどを設置し、画像によって茶園の生育状況を判断するとともに、ドローンで病害虫発生状況のセンシングを行って防除が必要な茶園を特定。自動操縦システムを装備した乗用型防除機によって的確に防除を行う栽培管理のシステムがある。

また、茶生育ステージのAI解析によって収穫時期を判断。生葉品質の均一化を図り、さらに茶生産データ管理システムなどによる収益性や労働コストの分析を行い、経営改善につなげていく取り組みも行われている。

コスト負担が大きな課題とはなるものの、このようなシステムによって分散した茶園が遠隔管理され、茶工場の品質管理もコントロールされることで、海外輸出にも対応した茶業経営のための一貫した技術体系が可能になってくるものと思われる。


日本茶輸出促進協議会
http://www.nihon-cha.or.jp/export/

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  3. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  4. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  5. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。