【特別寄稿】日本と似た国、ニュージーランドのスマート農業とは?

南半球に位置し、四季もある島国、ニュージーランド。環境的に日本とよく似たこの国でも、いまスマート農業が推進されています。

ニュージーランド大使館商務部/ニュージーランド貿易経済促進庁 商務官の今村吉文氏から、ニュージーランドという国とその農業、そしてスマート農業の状況についてご寄稿いただきました。

島という限られた国土の中で、担い手の高齢化や労働者不足といった課題は日本と似ている一方、ニュージーランドは食料自給率が非常に高く、キウイやブドウなどの輸出産業が好調なことや、農業政策の違いなど、日本として参考にできる手立てもたくさんあります。

本記事から、日本が抱えている課題を克服するためのヒントをいただくとともに、環境の似た者同士、互いに交流していける部分も見つかるのではないでしょうか。両国のスマート農業の交流のきっかけになれば幸いです。

ニュージーランド大使館商務部/ニュージーランド貿易経済促進庁
ニュージーランドの国際的なビジネス開発を担う政府機関。世界の発展に役立ち、あらゆる問題の解決に貢献できると信じ、国際的パートナーシップを強化していくことを目的としている。

はじめに


日本には、「郷土富士」「ふるさと富士」が400以上あると言われますが、日本と同じ環太平洋造山帯の一部であるニュージーランドにも、そんな「富士」があるのを皆さん、ご存じでしょうか。

たとえば、下の画像「タラナキ」を富士山に見立て、ハリウッド映画「ラスト・サムライ」(2003年公開)が撮影されています。日本の原風景として描かれたトム・クルーズと渡辺謙が相まみえた背景にあった富士山が、実はニュージーランドにあったということは、当時はあまり知られていませんでした。

ニュージーランドのふるさと富士「タラナキ」

「ふるさと富士」も存在するニュージーランドは、その地形も日本とよく似ており、南半球に浮かぶ日本とは合わせ鏡のような島国です。


ニュージーランド最大の都市、オークランドを通る緯度は南緯36度であり、東京の北緯35度とは赤道を挟んでほぼ対称。南北に細長い島国で、日本と同様、はっきりした四季があります。

国土面積は、日本よりやや小さく4分の3程度。そのような国土に人口はわずか500万人で、日本のわずか25分の1です。2019年の羊の飼育頭数が2700万頭でしたので、羊が人の数より多いのは間違いありません。


畜産を中心に、輸出果樹が多いニュージーランドの農業


ニュージーランドの農地のほとんどは牧畜・酪農用地として使用されており、それらと比べて野菜・果物などの農耕面積は、わずか13万ヘクタールです。

ただし特筆すべきは、果物の栽培がこの100年ほどで急激に伸び、そのほとんどが輸出されているという事実です。

20世紀に入ってまもなく、ニュージーランドの生産者は、自分たちの土地が農耕栽培に恵まれた環境であることを認識し、輸出に適した農産物の栽培、品種改良などに取り組みました。

特にキウイフルーツは今ではニュージーランドの農作物の輸出額の約半分を占める特産品に育っていますが、実は1904年に中国から持ち込まれた種をニュージーランドで研究開発し、輸出に適した商品に品種改良されたものなのです。別名「チャイニーズ・グーズベリー」と呼ばれることをご存じの読者もいらっしゃるのではないでしょうか。すなわち、ゼロから始めていたということです。

また、ニュージーランドの果物農家はマーケティング活動にも力を入れています。キウイフルーツ、リンゴなどの果物生産者が共同で、海外で販売促進活動を行うなどの努力をした結果、2018年には農産物総生産額92億NZドル(約7084億円)のうち、55億ドル(約4235億円)が輸出されるまでに成長しました。

最近、日本でも冬から春にかけてニュージーランド産リンゴを目にすることが増えたと思います。これは、北半球・南半球の季節差を利用したもので、アジア、北米、ヨーロッパ向けに多くのリンゴの輸出があり、最近は⾼級リンゴとして「JAZZりんご」、ミニチュア・リンゴとして「ロキット・アップル」といった個性的なブランドが市場に浸透しつつあります。

参考記事:リンゴの知的財産権を守る「クラブ制」は日本でも根付くか 〜世界のリンゴ事情

キウイフルーツやリンゴの他には、アボガド、アプリコット、サクランボ、ベリー類といった果物が生産されており、その多くが輸出されています。今では、世界50カ国以上へ輸出され、主要な輸出産品の一つにまで育ったキウイフルーツに代表されるニュージーランドの果物ですが、その歴史は短く、商品として「研究開発」「マーケティング活動」という努力の賜物でした。

100年という期間で“ゼロから始めて世界的な農産物ブランドに育てた”ということ。この点は日本も大いに参考にできるのではないでしょうか。

また、ニュージーランド産ワインは、白ワイン「ソービニヨンブラン」が世界的に有名です。事実、ワインは単品で輸出品目第1位のキウイフルーツに次いで多い品目です。

ワイン用ブドウは、ほぼ100%がニュージーランド国内で生産されており2020年の作付け面積は3万9935ヘクタール、収穫量は45万7000トンでした。2000年の収穫量がわずか7万8000トンだったので、わずか20年で生産額が6倍近くになったということであり、これも製品としてのワインの輸出が生産増をけん引しています。


ニュージーランドの食習慣・食料自給率


ニュージーランドはヨーロッパ系先住民族である「マオリ系」「アジア系」などが混在する多民族国家ですが、人種構成でもっとも大きな割合を占めるのがおよそ6割を超えるヨーロッパ系です。よって食生活はヨーロッパ風であり、朝はパン、昼はサンドイッチ、夜はマッシュポテトが中心という方が多いです。

ニュージーランドの食料自給率は、大麦や小麦等の穀物が250%、野菜・果物類が約203%、肉類が約335%、魚介類は約625%にも上ります。先進国の中でもかなり高いのは、ニュージーランドが農業国だからであり、言うまでもなくニュージーランドの人口が少ない、というのがここまで自給率を押し上げている理由です。

種類が多く、価格も安いニュージーランドの野菜や果物ですが、ビニールハウスでの生産は少ないため、季節が外れ、輸入品の季節となると一気に価格が高騰します。

そのような事情のため、ニュージーランド人には「旬のものを食す」という習慣が身についているように思います。季節と共に生きる、ということもこれからの地球のためには大切かもしれません。

ニュージーランドのぶどう畑
ちなみに、ニュージーランドでは主に中国からのアジア人移民の増加で、アジア系の食べ物も増えてきています。大手スーパーマーケットでは、味噌やしょうゆなどの日本の食材も扱っており、米も豪州米やカリフォルニア米が輸入されています。

外食産業も発展しており、西洋料理をはじめ、移民が展開する世界各国のエスニック系やアジア系料理を楽しむことができます。もちろん日本同様にアメリカ系のファーストフードチェーン「マクドナルド」「ケンタッキーフライドチキン」も人気です。


ニュージーランドの農業が抱える課題


日本では農業従事者の就労人口の減少が深刻な問題としてとらえられていますが、それはニュージーランドでも同様です。特に園芸作物にしてもブドウにしても、ここまで輸出が急伸すると人出不足は深刻な問題であり、そこに高賃金も追い打ちをかけます。

ニュージーランドの最低賃金は2021年4月1日以降、1時間あたり20NZドル(日本円でおよそ1540円)に設定されています。

これまでは、主に近隣のアジア太平洋の島々など、海外からの季節労働者の受け入れで労働者不足を賄ってきました(それでも、最低賃金は当然、適用されます)。また、上述の通り農産物を販売する海外市場でのマーケティング活動を強化するなどして、農産物そのものの価値を高める、という努力も続けています。

日本と比べ人口が圧倒的に少ないニュージーランドでは、今後も継続してこれらの努力をすることに加え、新しい技術の導入も喫緊の課題となっています。キウイやリンゴなどの収穫、ブドウのせん定作業の無人化のためのロボット、土壌のセンシングや管理、アプリを使った農業経営効率化のためのシステム開発などで、優れたニュージーランド企業が続々と現れています。

これらは日本でも採用可能だと思いますし、逆に人出不足や効率化のために日本から進出があってもいいと思います。日本とニュージーランドで切磋琢磨しあいながら、それらの技術をもっと良いものにすることが可能です。


日本との共通点も多いニュージーランドには、古くから日本企業が進出しており、特に水産業、林業の分野で現地に根差した事業展開を行う日本企業が多くあります。同じ島国ということもあって国民性も似ているためか、両国はお互いうまく協力しあっていると言えます。農業の分野でもこのような協力関係が築けるのではないかと思います。

冒頭で自然を崇拝するマオリを紹介しました。ニュージーランドのマオリは、自分たちを「カイティアキタンガ」と呼びます。「自然の守り主」という意味です。ニュージーランドの人々はマオリに限らず環境を守る、自分たちの住んでいる場所を守る、という意識が強く根差しています。

昨今世界中で叫ばれている「SDGs」の話をあらためて持ち出すまでもなく、多彩で多様な価値観を認め合い、豊かな自然と暮らし、それを守ろうとするニュージーランドと価値観を共有する日本の皆さまと一緒になって、技術力によってお互いの農業を良くしたり環境課題にも取り組みたいと思います。


オンライン交流会を8月に開催予定


ニュージーランド大使館商務部/ニュージーランド貿易経済促進庁は、この夏、日本とニュージーランドを互いに往来できない農業関係者やビジネスパーソンが安心して交流できる場をネット上で提供しています。

ニュージーランドの農業をより知りたいという方は、ぜひ参加してもらいたいと思います。

ネット上のこの「場」では、8月17日から30日までの2週間、ニュージーランド企業によるウェビナーのほか、「フィールデイズ」(現地で開催される農業イベント)の現地レポート、最新の農業機械工場の視察など、海外出張体験を提供し、ニュージーランドから皆さまの役に立つ情報を発信しています。また、この期間中は、直接現地とコミュニケーションをし、意見交換も可能となっています。


https://new-zealand-agritech-in-japan.nzte.b2match.io/


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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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