「平成29年度農業白書」に見る、若手農家躍進の理由とは?

2018年5月22日、農林水産省は「平成29年度 食料・農業・農村白書」を公表した。この白書は通称「農業白書」と呼ばれる年次報告書で、日本の農業の現況や問題点などを総合的に論じるほか、これまで実施してきた農業施策の実績や経過報告などの概要がまとめられている。

最新版となる平成29年度版の農業白書では「次世代を担う若手農業者の姿」と題した特集が組まれており、近年活躍の目覚ましい若手農業者の実態が浮き彫りとなった。


わずか10%しかいない若手農家が、4割近くの耕地を運用

農業白書では、49歳以下の基幹的農業従事者がいる販売農家を「若手農家」と定義している。基幹的農業従事者とは、農業を主な仕事として従事している者をいう。

農業白書によれば、全国の販売農家約132万戸のうち、若手農家は約14万戸。この数字だけみれば、全体に占める若手農家の割合は1割程度に過ぎない。ところが、経営耕地面積で換算すると、全体の約36%に当たる104万9376ヘクタールの作付が若手農家の手によるものだという。稲作単一経営の若手米農家1戸当たりの経営規模を見ると、過去10年間で1.5倍になるなど、若手農家の規模が着実に拡大していることが紹介されている。

規模拡大にともなって不足するのは労働力だ。農地での働き手を確保すべく、若手農家の現場では直近10年間で常雇いが広がっている。パートや臨時雇いではなく、常雇いとしての雇用者を雇い入れた若手農家は、2005年の5.3%から、2015年には12.6%と大きく躍進している。つまり、若手農家の増加は、雇用の面でも大きな影響を及ぼしているといえる。

注目すべき点のひとつが、「若手農家の1戸当たり農業従事日数」という調査結果だ。
それによれば、常雇いが増加傾向にあり、規模拡大が進む一方で、農業従事日数はさほど大きく伸びているわけではない。
その理由のひとつとして考えられるのが、若手農家の取り組む高効率化という点だろう。

若手農家がスマート農業の導入を牽引

では、具体的に彼らはどのような点で効率化を図っているのか。農業白書内で行われた、若手農家に対するアンケート結果から推察できるのは「IoT等新技術の導入」である。

同アンケートによれば、販売金額が大きければ大きいほど「IoT等新技術の導入」に高い関心を寄せていることがわかる。農作業とICT技術とは、一見溶け合いにくい相性のように見える。しかし、このアンケート結果が示唆しているのは、熟練の農業従事者に比べて、若手農家ほど農作業において最先端技術を導入することに抵抗がないということだ。

ベテランの農業従事者が高齢化によって減り続ける一方、新規に参入する若手農家の数がどんなに増えても、一人ひとりの経験が浅いことに変わりはない。そこで彼らは、ベテランが長年培ってきた勘と経験による農作業を、AIやIoTといったICT技術で補うことで、効率化を図っている。ICT技術を取り入れた、いわゆるスマート農業の導入により、少人数での農作業や、高品質の農作物が期待できる。

農業白書では、AIやIoT、ロボット技術ドローンなどを取り入れて現場の課題を解決するために、それら技術の開発や導入可能な価格での商品化といった環境作りが重要であると指摘しており、今後政府としてますます後押ししていくことが予想される。

さらに、若手農家にとっての効率化は、先端技術を農作業に導入することにとどまらない。彼らは農家における既存の流通経路にこだわらず、インターネットによる販路拡大にも積極的だ。あるいは、資金調達にクラウドファンディングを利用するなど、かつての農家では思いもつかないような手法で、前向きに、ひたむきに農業に取り組んでいる。

世界へと目を向ける若手農家たち

若手農家による共同グループの結成というのも全国的に見られる傾向のひとつだ。グループを通じて意見交換をする目的で結成されたものが多いが、そればかりでなく、専門家を招いて勉強会を行ったり、出荷先となる飲食店との交流会を企画したりするなど、足りない経験を若者らしいアイデアでカバーしようとさまざまな試みを実施しているようだ。

若手農家のうち、農産物販売額が年間1,000万円を突破しているのが45.2%という数字も見逃せない。若手のいない農家で年間300万円未満が8割を超えていることと比較すると、実に対照的だ。

農業白書では、国内の農業の在り方について、若手農家の48.7%が「国内で国産シェアの回復を目指すべき」と回答する一方、35.1%が「国内だけでなく海外にも目を向けるべき」と答えたアンケート結果も記載されている。

少子高齢化で国内の需要低迷は避けられない情勢ではあるものの、農業生産額の観点では2016年に9兆円台に回復したとの報告もある。2年連続での増加だが、9兆円台というのは16年ぶりのことだ。

さらに、世界に目を転じると、世界人口は2050年には、2015年比で32.4%増となる98億人にまで増えると見られており、世界における農産物の需要は増加に向かうと考えられる。

今後は、国内需要を第一とした農業生産から、世界需要に応える農業生産に切り替えていく必要があるとも、農業白書では指摘している。

こうした状況のなか、彼ら若手農家の挑戦が疲弊した国内農業をどのような方向に導いていくのか。また、世界の需要にどのように応えていくのか。今後が注目される。

<参考URL>
平成29年度 食料・農業・農村白書(平成30年5月22日公表)
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h29/
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WRITER LIST

  1. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  2. 大坪雅喜
    おおつぼまさのぶ。1973年長崎県佐世保市生まれ。FARM DOI 21代表(農業者)・アグリアーティスト。 早稲田大学第一文学部史学科考古学専修卒業。学生時代に考古学、水中写真、自然農という世界を覗き込む。2006年9月、義父が営む農業の後継者として福岡県大川の地で就農。農業に誇りを持ち、未来には普通となるような農業の仕組みやサービス(カタチ)を創造していくイノベーションを巻き起こしたいと考える。縁のある大切な人たち(家族)と過ごす物心ともに満たされた暮らしの実現こそが農業経営の最終的な目的。現在、佐賀大学大学院 農学研究科 特別の課程 農業版MOT 在籍中。
  3. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。
  4. 大城実結
    おおしろ みゆう。フリーランス編集ライター、大城文筆事務所所長。一次産業ほか地域文化、アウトドアなどお天道様系分野を専門に編集・執筆している。自転車で鍛えた脚力を活かし、農家さんのお手伝いをしながらインタビュー取材を積極的に行う。玉掛け免許と床上式操作クレーン免許所持。
  5. 井中優治
    いちゅうゆうじ。株式会社収穫祭ベジプロモーター。福岡県農業大学校卒。オランダで1年農業研修。元広告代理店勤務を経て、新規就農6年目。令和元年5月7日に株式会社収穫祭を創業。主に農業現場の声や九州のイベント情報などを発信している。