「減反政策は終わった」という暴論

米の生産調整、いわゆる減反政策をめぐっては、いまだに2017年をもって「廃止された」という話が湧いてくる。そう主張する人たちは減反政策の本質的な目的と手段をまったく理解していないのだろう。

減反政策はいまも続いているし、それが日本農業の構造調整を進めるうえで大きな弊害になっている以上、「廃止された」という暴論を看過するわけにはいかない。



維持のため変化した目的と手段

政府は毎年、主食用米の生産数量目標を決め、都道府県に配分してさまざまな補助金や助成金を付けてきた。ただ、2017年をもってその配分を終了した。2018年からは都道府県が独自に生産数量目標を設け、市町村に配分している。

もちろん、あくまでも目標なので、産地や農家が守る義務は一切ない。これがいわゆる「減反廃止」として報道された。世間に広がっている間違った認識もここに基づいている。それを主張するためには、減反政策の本質的な目的と手段を歴史とともに振り返らなければならない。

戦後、国は生産者から高値で米を買い、消費者に安値で売ってきた。それが1960年代に入ると、米余りで逆ザヤが増大。その赤字を防ぐために1970年に始まったのが減反政策だった。

ただ、しばらくするとその目的は変わる。政治家が農村における票田を獲得するため、米価を維持することに、だ。

米価を維持するには需要と供給を引き締めなければいけない。そこで政府は、主食用米に代わって別の作物を生産する産地や農家に対し、補助金や交付金を支払ってきた。政府が市場に介入することを平気で行ってきたのだ。減反政策に費やした総額は8兆円以上になる。

いまも消えない減反協力への補助金や交付金

ここで問いたい。政府はいま、主食用米の価格を維持する目的のために、転作する産地や農家を対象に補助金や交付金を支払うという手段を打ち切ったのか、と。

もちろん「否」である。

わけても転作作物として奨励する飼料用米に高額の交付金がいまだに付けられているのは周知の通りだ。主食用米の作付けを減らすために、飼料用米の作付けを増やすことに対する執着心は普通ではない。

たとえば農林水産省は2019年度産について、主食用米から飼料用米などに転換して水田活用の直接支払交付金を受け取るための申請期限を既定より一カ月延長している。当初の期限に集まった生産数量では、米価を維持するのには不十分だと判断したのだ。

減反政策が始まって間もなく半世紀が経つ。この間、水田農業はどういう状況にあったか。米価が維持されたことで、大多数の農家は零細であっても稲作を続けることができた。

対して農業を主業とする人たちには、米価が維持されなければとうに稲作をやめていた人たちから農地が集まらず、その集積や拡大を満足に進められなかった。

こうした状況は今も変わりない。減反政策は廃止されていないし、その弊害はいまだに根深く残っている。


米政策改革について|農林水産省
飼料用米関連情報|農林水産省

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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