きゅうりの国内最多反収を達成し、6年目を迎えた「ゆめファーム全農SAGA」が次に目指すこと

JA全農がきゅうりで高収量を実証する圃場として佐賀市に設けた、大型の園芸施設「ゆめファーム全農SAGA」が稼働して6年目を迎えた。初年度にいきなり反収で約55トンという国内最多を記録したいま、次に目指すのは何か。

JA全農高度施設園芸推進室の吉田室長(左)とゆめファーム全農SAGAの沼田新農場長(右)ら

実際の反収は60トン程度か


いわゆるオランダ型の高軒高の園芸施設である「ゆめファーム全農SAGA」は、佐賀市の田園地帯の一角に立っている。

敷地面積は1ヘクタールで、栽培面積は86アールと国内有数の規模だ。室内はざっと半分に分けて、土耕区とロックウール区を用意。前者では一般的な摘芯栽培、後者がハイワイヤーのつるおろし栽培を採用した。

ゆめファームの土耕区
ゆめファームのロックウール区
JA全農が初年度に目標として掲げた反収は土耕区が45トン、ロックウールが50トンだった。ちなみに施設栽培におけるきゅうりの全国平均は15トンほどである。

ところが、反収は土耕で54.7トン、ロックウールで56.2トンとなったのだ。施設や栽培を管理する職員たちはきゅうりを栽培した経験はなかっただけ、なおさらその実績に驚かされる。

国内最高記録を打ち出せた要因は、換気や採光を促すために独自に設計したハウスの構造にある。隣接する区画の詳細は過去の記事に載っているので、そちらに譲りたい。

JA全農が佐賀県でキュウリの反収55tを上げられたノウハウとは

ここで一点付け加えたいのは、実際の反収は、見込みでは60トン以上だったということだ。JA全農高度施設園芸推進室の吉田征司室長が解説する。

「反収は出荷箱から換算しました。ただ、出荷箱には規定よりも1割以上は余計に詰めています。だから実際には55トンより少し多く、60トンほどではないかと思います」

「いつでも反収55トン以上にする自信はあります」と語る吉田室長。ただ、2年目以降、あえて50トンにとどめるような栽培管理をしている。その理由について、こう説明する。

「収穫の最盛期に人手が足りず、作業が間に合わないことがあるので、あえて株数を減らしているんです」

営農開始をパッケージで支援


すでに栽培技術を確立したいま、次に目指すのはその普及だ。

そのために、「ゆめファーム」をモデルにした施設で営農する人を育てる「トレーニングセンター」を某県に設置する計画を進めている。現時点において「ゆめファーム」は佐賀県以外に高知県と栃木県にあり、それぞれなすとトマトで目標を越える高反収をあげる栽培技術をすでに確立している。

近い将来に開設予定の「トレーニングセンター」には、「ゆめファーム」と同様の園芸施設を用意し、研修の希望者を臨時職員として採用する。彼らには2~3年にわたって日々の管理をこなしながら、環境制御機器を活用した栽培技術などを学んでもらう。

卒業者には、農地の紹介やハウスの建設、補助金の申請などで支援する予定。

彼らが実際に営農を始めた後も、スマートデバイスを活用して遠隔地からその船出を後押しする。そのために、通信環境が整った「NTT中央研修センタ」(東京都調布市)の一室を間借りし、「コックピット」と呼ぶ遠隔支援のための部屋を用意した。ここで、次のような実証実験を進めてきた。

「ゆめファーム」の従業員は眼鏡型のウェアラブル端末「スマートグラス」を付けており、その目で見た施設や作物の状況は動画として、ただちにコクピットにあるディスプレイに映し出される。ディスプレイ近くのパソコンには、施設内の温度や湿度などの環境データが表示される。これらを踏まえて、コクピットにいるJA全農の高度施設園芸推進室の職員が助言してきた。

今後は、既存の農家やトレーニングセンターの卒業生を対象に、このサービスを展開する。そのために開発中のアプリケーションでは、栽培に関するデータだけではなく、出荷した時期やその単価、購入した資材やその単価など収支を把握し、経営全般を指導できるようにする。一連の支援は「ゆめファーム全農パッケージ」として売り出す予定だ。

顧客の販路を広げたい


「ゆめファーム全農パッケージ」の顧客のために、農産物の販路を広げることも検討している。それは、たとえばきゅうりなら、市場出荷よりも規格の幅を広げて選別し、量販店に買い取ってもらうことだ。

農家は市場に出荷する場合、S・M・Lという三等級に選別して袋詰めしている。ただ、一部の量販店はその袋から箱に出して一緒くたにし、ばら売りしている。あるいは、そこから等級に関係なく袋詰めして売っているという。

「それなら、最初から規格に関係なく量販店に出荷する仕組みを作れないかと思っています。それができれば、市場では安価に扱われる2L(大きすぎるサイズ)も関係なく売れますからね」(吉田室長)

現状、農家は2Lの大きさになる前に収穫するのに忙しい。ただ、高齢化する中でそれも難しく、離農に至る理由にもなっている。

「2Lでもそれなりの値段がつくのであれば、いまよりはゆったりとしたきゅうりライフが送れる。トレーニングセンターで農家を育てながら、一方でいまの農家が長く営農できる仕組みをつくっていきたいです」(吉田室長)


【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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