畦畔のドローン雑草防除は可能? ー 水稲への影響と実施時の注意点


水稲栽培において、畦畔除草は毎年欠かせない管理作業の一つです。しかし現場では、「最も負担が大きい作業の一つ」と感じている人も少なくありません。

夏場の畦は、直射日光と地面からの照り返しによって高温になりやすく、刈払い機を担いで行う作業は体力を大きく消耗します。

さらに、傾斜地で足場が不安定な場所も多く、転倒や滑落といったリスクにも常に注意が必要です。加えて、草は刈っても再び伸びるため、シーズン中に何度も繰り返す必要があり、この点も作業負担を大きくしています。

こうした「時間がかかる・負担が大きい・危険が伴う」という課題への対応策の一つとして、近年関心が高まっているのが、農業用ドローンを活用した除草剤散布です。ドローン防除自体は行われているものの、畦畔除草となると作物への影響が気になる方も多いでしょう。

今回は、ドローンによる畦畔除草の基本的な考え方と活用できる場面を整理しながら、水稲への影響や現場で押さえておきたいポイントについて解説します。



畦畔除草の一般的な方法


ドローンの活用を考える前に、現在主流となっている手法の特徴を整理しておきましょう。現場では、それぞれの方法を組み合わせて使われています。

■刈払い機(肩掛け式草刈機)
最も普及している方法です。畦の形状に左右されにくく、多くの圃場で対応できます。
メリット:機械が比較的安価で導入しやすく、仕上がりがわかりやすい
デメリット:労働負担が大きく、再生が早いため作業回数を減らしにくい

■自走式・リモコン式モア(ウイングモア等)
畦を走行しながら草を刈り取る機械です。条件が合えば作業効率は高くなります。
メリット:人が担ぐ必要がなく、作業速度を上げやすい
デメリット:畦の幅や傾斜、障害物の有無に左右され、使える圃場が限定される

■動力噴霧機による除草剤散布
液剤をホースで散布し、草の再生を抑える方法です。
メリット:刈払いに比べて作業負担を軽減でき、薬剤によっては再生を抑えやすい
デメリット:ホースの取り回しが負担になりやすく、散布ムラやドリフトのリスクがある

このように、従来の方法はいずれも現場での人による作業を前提としており、労働負担を完全に解消するまでには至っていません。



ドローン防除という選択肢とそのメリット


農業用ドローンを活用した畦畔除草の特徴は、空中からの非接触作業により地形の影響を受けにくく、作業者の移動を最小限に抑えられる点にあります。

さらに、GNSSを活用した自動航行によって設定ルートを高精度に再現できること、機体のダウンウォッシュにより薬剤を雑草の株元まで届けやすいことなど、複数の技術が組み合わさることで、安全性・効率・精度を高める手段となっています。

とりわけ労働負担の面では、これまで長距離の歩行や機械操作を伴っていた畦畔作業が、操作中心の作業へと転換されることで、身体的負担の軽減につながります。また、傾斜地への立ち入りを減らせることから、転倒や滑落といったリスクの低減も期待されます。

さらに、畦延長が長い圃場や圃場が分散している地域では、条件によっては短時間で広範囲を処理できるため、作業効率の向上が見込めます。加えて、一定の速度と高度で飛行することで散布のばらつきを抑えやすく、手作業に比べて均一性と再現性の高い防除が可能となります。


水稲への影響はあるのか


ドローンによる畦畔除草と聞いて最も心配なのは、水稲への影響でしょう。特に重要なのが、散布時に発生するドリフト(飛散)のリスクです。

畦畔で使用される除草剤の多くは非選択性であり、飛散量が小さくても稲にも影響するおそれがあります。また、ドローンは設定によって液滴が細かくなりやすく、風の影響を受けやすい条件では飛散リスクが高まります。

想定される稲への影響としては、葉焼け(葉の一部が黄化・褐変する)、生育抑制(分げつの停滞や生育遅れ)、さらに収量・品質への影響なども考えられます。被害の程度によっては減収につながる可能性もあります。

特に注意すべき時期は、分げつ期(有効茎数を確保する重要な時期)と、出穂前後(生育上重要な時期であり、影響が収量や品質に関わる可能性がある)です。

ドローンによる畦畔除草では、いかに飛散を防ぐかがポイントとなります。「使えるかどうか」よりも「安全に使える条件を満たしているか」が重要であり、一般的なドローン航行時のポイントと同様です。

項目内容
飛行高度 風速3m/s以下を目安とし、早朝など風が安定した時間帯を選ぶ。水田側へ流れる風向では散布しない
枝の密度 障害物との距離を確保しつつ、できるだけ低空で飛行し、薬剤の拡散を抑える
ノズル設定 ドリフト低減ノズルを使用し、粒径を大きめに設定。「落とす」散布を意識し、霧状の散布は避ける
飛行ルート設計 散布開始・停止位置や飛行方向を事前に設計し、水田側への薬剤流入を防ぐ

さらに、適切な薬剤の選定も重要なポイントとなります。

農薬は登録された方法以外での使用が認められておらず、ドローン散布では特に以下の点を確認する必要があります。

  • 「無人航空機による散布」の適用があるか
  • 希釈倍率や散布量が少水量散布に対応しているか

薬剤はグリホサート系(移行性)とグルホシネート系(接触性)を、草種や草丈、散布のタイミングに応じて使い分けます。草丈が低いうちに散布することで効果を発揮しやすく、再生を見越した継続的な管理として計画することも重要です。



水田との混同は御法度 畦畔ならではの法令遵守と運用ルール


ドローンによる農薬散布では、法令の遵守が前提となります。農薬は農薬取締法に基づき、ラベルに記載された使用時期・回数・希釈倍率・使用方法を守ることが必須です。

当然のことながら、水稲に使える雑草用の農薬と、畦畔で使える農薬では用途が異なり、畦畔で使えるものでなければなりません。また、畦畔は水田と異なり共用部分であることも多いため、土地改良区やJA、地域の共同防除ルールにのっとって行う必要があります。

また、水田は明確に自分の圃場が区切られていることが多いですが、畦畔は公道などに近い場所であることも多く、実務面では、散布日・場所・使用薬剤・散布量などの作業記録を管理することも重要です。これらはGAP対応だけでなく、万が一のトラブル発生時の確認資料としても活用されます。

参考資料
農林水産省「農薬の適正使用」
農林水産省「無人航空機による農薬散布」
農林水産省「住宅地等における農薬使用について(飛散防止対策)」
国土交通省「無人航空機の飛行ルール」

 圃場条件によっては、ドローンの適性は大きく変わります。1区画が大きく畦延長が長い圃場や、畦が連続しており飛行ルートを取りやすい環境では、ドローンの効率を生かしやすくなります。

一方で、小区画で畦が入り組んでいる地域では、旋回やルート設計が難しく、作業が煩雑になるケースがあります。また、住宅地に隣接した圃場や、電柱・電線が多い場所では、安全面や飛散リスクの観点から運用の難易度が高くなります。

そのため、「すべてをドローンに置き換える」のではなく、圃場条件に応じて他の手法と使い分けることが重要です。


畦畔除草の省力化は今後の重要テーマ


畦畔除草は、水稲栽培の中でも労働負担が大きく、事故リスクも伴う作業です。この負担をどう軽減するかは、今後の稲作経営において避けて通れない課題といえます。

その中で、ドローンによる防除は、省力化と安全性の向上を同時に図る手段の一つとして注目されています。

一方で、ドローンは畦畔除草という作業に関して決して万能ではなく、ドリフト対策や薬剤選定、飛行設計など、適切な運用が前提となる技術です。

重要なのは、「使うことを前提にした運用」ではなく「どの条件で、どう使うことが効果的か」という視点です。圃場ごとに最適な方法を選び、組み合わせていくことが、作業効率と安全性の両立につながります。

畦畔除草の省力化は、作業改善にとどまらず、経営の持続性にも関わるテーマです。技術を適切に取り入れながら、無理のない管理体系を構築していくことが求められています。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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