傾斜地のドローン防除で重要な「事前測量」とは? 高精度測量と3Dマップで作業効率&効果アップ

柑橘産地では、日照条件を確保するため、斜面に園地が広がる地域が多くあります。こうした園地は高低差が大きく、圃場形状も複雑です。

さらに、樹木ごとに高さや枝の広がりが異なることもあり、大型の農薬散布機や防除機械の導入が難しいケースも見られます。その結果、人が背負う動力噴霧器による作業が続いている園地も少なくありません。

こうした背景から、農業用ドローンによる農薬散布が選択肢の一つとして検討されています。ただし、傾斜地ではドローンであっても運用に工夫が求められます。機体と樹木の枝葉との距離が変化しやすいことや、複雑な地形による飛行の難しさなど、平地とは異なる条件があります。

本記事では、こうした傾斜地でのドローン散布において、事前に圃場を把握することがどのように活用されているのかを整理し、測量データを踏まえた運用の考え方を紹介します。



傾斜地でのドローン散布に特有の課題とは


傾斜地における農業用ドローンでの農薬散布では、平坦地とは異なり、地形や樹木条件の影響を受けやすい点が課題となります。

例えば、斜面では機体と樹木との距離が変化しやすく、散布量にばらつきが生じる可能性があります。また、細長く曲がった区画や段々畑といった複雑な圃場形状では、飛行経路の設定が難しくなり、電線や防風林などの障害物への配慮も必要になります。

さらに、安全な飛行ルートを設計するためには、地形や障害物の位置を事前に把握する必要があります。目視のみでは対応が難しい場面もあり、複数の条件が重なる傾斜地では、事前の準備や情報整理が作業の進めやすさに関わる要素の一つとなります。


事前測量でできることと高精度測量の仕組み


ドローン散布は人工衛星などを用いて高い位置精度で飛行していると思われがちですが、実はより効率よく行うために、作業前に圃場の測量を行うケースが見られます。事前測量では、圃場の形状や標高差だけでなく、樹木の位置や枝葉の広がりといった情報も取得し、圃場全体の立体的な構造を把握します。

取得したデータをもとに、傾斜や凹凸を反映した高精度3Dマップを作成することで、平面的な地図では把握しにくかった細かな地形変化も整理しやすくなります。また、高度の調整や障害物の回避についても、経験や感覚に加え、データをもとに検討する材料とすることができます。圃場の形状に応じた飛行ルートの設計にもつながります。

こうした活用を支えているのが、高精度な位置情報を取得する測量技術です。傾斜地では機体と対象物との距離が変化しやすいため、位置情報の精度が運用の検討に影響する場面があります。そのため、数センチメートル単位で位置情報を取得できる測量手法が活用されることがあります。

代表的な手法としては、RTK測量、ドローン測量、GNSS測量などが挙げられます。それぞれの特徴は以下の通りです。

手法概要特徴活用場面
RTK測量 基準局と移動局で衛星信号を受信し、差分補正により高精度な位置情報を取得する方法 数センチメートル単位の測位が可能とされる 圃場内の位置把握、境界確認、樹木位置の特定
ドローン測量 上空から撮影した画像をもとに地形を三次元的に再現する方法 広範囲を短時間で把握しやすい 圃場全体の起伏や傾斜の把握、地形の可視化
GNSS測量 複数の衛星測位システムを利用して位置情報を取得する方法 単独でも測位可能、RTKと組み合わせて精度向上 広域の位置把握、基礎データ取得

これらの手法は、目的に応じて使い分けたり、組み合わせて活用されたりすることがあります。点としての位置を高精度にとらえる測量と、面としての地形を把握する測量を組み合わせることで、圃場の状況をより立体的に把握しやすくなります。



事前測量を行うメリット


傾斜地におけるドローン散布では、地形や圃場条件の影響を受けやすく、作業の精度や効率、安全性をどのように確保するかが検討のポイントとなります。事前測量は、こうした複数の課題に対して、判断材料となる情報を整理する工程の一つです。

安全性の向上

電線や樹木などの障害物を事前に把握し、飛行計画に反映することができます。接触リスクを考慮した運用の検討につながります。

作業効率の向上
あらかじめ飛行ルートを設計しておくことで、無駄な移動を減らす検討が可能になります。現地での設定作業を簡略化し、準備時間の整理にもつながります。

散布精度の向上
地形に応じた高度設定を検討しやすくなり、樹木との距離を意識した飛行計画につながります。散布のばらつきを抑える方向での調整にもつながります。

このように、事前測量は散布精度・作業効率・安全性といった複数の観点で整理を行うための基礎となります。


特に事前測量が重要となる園地の条件


事前測量の効果はさまざまな圃場で期待されますが、園地の条件によってその重要性は変わってきます。特に地形や圃場形状が複雑な場合には、事前に情報を整理しておくことの意義が大きくなる傾向があります。ここで、事前測量の必要性が高まりやすい園地の条件を整理してみましょう。

園地の条件特徴想定される課題事前測量で整理できること
傾斜が急な園地 斜面の角度が大きく高低差が大きい 機体と樹木の距離が変化しやすく、散布のばらつきが出やすい 地形の起伏を把握し、高度調整を踏まえた飛行計画の検討
段々畑 段ごとに高低差があり、法面や石垣が存在 構造が複雑で障害物も多く、安全な飛行ルートの設定が難しい 段差や位置関係を可視化し、ルート設計の整理
圃場形状が複雑な園地 不整形・入り組んだ区画 単純な飛行パターンでは対応しにくい 圃場全体の形状を把握し、飛行ルートや散布範囲の検討
面積が広い園地 飛行距離が長くなる ルート設計が作業効率やバッテリーに影響 ルート最適化により作業時間や運用計画の整理

このように、地形の変化が大きい園地や、構造が複雑な圃場ほど、事前測量によって得られる情報の活用場面が増える傾向があります。傾斜地におけるドローン散布では、圃場ごとの条件に応じた準備が、作業の進めやすさに影響する要素の一つといえます。


事前測量とドローン散布の考え方


傾斜地における農業用ドローンの農薬散布は、機体そのものの性能だけで成立するものではありません。急峻な地形や複雑な圃場形状に対応するためには、圃場の状況をどこまで正確に把握できているかが、散布計画の立てやすさに関わる要素の一つとなります。

本記事で見てきたように、事前測量はその基盤となる情報を整理する工程です。

地形に応じた飛行高度の検討や、圃場形状を踏まえた飛行ルートの設計、障害物の把握といった場面で、測量データが活用されます。

こうした準備を行うことで、散布精度・作業効率・安全性といった複数の側面を整理しながら、運用を検討しやすくなります。それぞれの要素は相互に関係しながら、傾斜地における散布の安定化につながる可能性があります。

また、近年はドローン散布を担うサービスの中で、測量や飛行ルート設計まで含めて対応するケースも見られます。圃場の形状や地形条件を踏まえた計画を前提に、準備工程の整理や運用の検討が行いやすくなる場合があります。

このように、事前測量を含めたドローン散布の運用は、自ら機材を扱う方法に加え、外部サービスの活用も含めた複数の選択肢が考えられます。圃場条件や作業体制に応じて、どの方法が適しているかを検討することが、今後の運用を考えるうえでの一つの視点となります。

機体性能と圃場データの両方を踏まえて準備を進めることが、傾斜地におけるドローン散布を検討する際の出発点の一つといえます。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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