台風・豪雨・地震から農園を守るために ━━被災事例から見えた「事前準備と直後にとるべき行動」

2026年(令和8年)7月の熊本地震では農地や農業用施設などが被災し、8月13~14日の千葉県豪雨では水稲や露地野菜が冠水。さらに8月27日には石川・富山両県で記録的な大雨となり、浸水や土砂災害、道路の通行止めが発生。農林水産関係を含む被害の把握が続いています。

農業にとって災害は、作物や施設が壊れるだけの問題ではありません。用水や道路、電気、農機、資材、出荷先のどこかが止まれば、圃場が無事でも営農を続けられないことがあります。土砂の流入や設備の損壊が、その後の作付けに響くこともあるでしょう。

「あの時こうしていれば……」。被災農家の後悔をたどると、営農再開を分けた「たった一つの違い」として、災害前からどこまで備えていたかが見えてきます。

この記事では、国がまとめた被災事例をもとに、被災農家の声から学ぶ、災害を乗り越えるための考え方と必ず行いたい対策を紹介します。災害前に何をしておくのか、被災直後に何から動くのか。実際の経験から、農家が今できる備えを探ります。災害に見舞われる方々が少しでも影響を少なくする手助けになれば幸いです。



被災直後、農家は何に困ったのか


農林水産省が2026年6月に公表した農業版BCP(事業継続計画)の事例集では、さまざまな地域で過去に起きた災害と農家への影響、その後の経過についてまとめられています。

2024年7月の大雨で被災した東北の水稲農家の事例では、ため池が決壊し、一部の圃場へ用水を引けなくなりました。出穂期に水を入れられず、くず米が多く発生。冠水した圃場もあり、その年の収入は半減したとされています。圃場に直接大きな損傷がなくても、用水施設の被災によって収量や収入に響くことがわかります。

2020年7月豪雨で被災した九州の露地野菜農家では、圃場へ向かう道路が陥没し、倒木も重なって約1週間、車での通行が難しくなりました。農機を圃場へ持ち込めず、ダイコンなどの栽培作業や出荷に遅れが発生。電気柵なども倒れ、イノシシによる食害でカボチャを出荷できなくなったと記録されています。道路や獣害防止設備の損傷によって、収穫や出荷にも被害が広がりました。

2021年8月の豪雨に遭った中国地方の農家では、河川の氾濫でハウスと圃場に水や土砂が入り、花きは全滅、水稲も一部で収穫できませんでした。土砂を取り除いた後も、翌年の水稲では倒伏や白葉枯病などが発生し、以前の栽培に戻るまで約3年を要したと記録されています。豪雨の被害は、その年の収穫だけで終わらず、翌年以降の栽培にも残りました。

農業用ハウスでは、被災後すぐに再建用の資材が手に入るとは限りません。2025年2月の大雪でハウスが倒壊した東北の花き農家では、再建用資材を発注したものの、納品が7月下旬まで遅れ、春から夏に咲く花を栽培・出荷できませんでした。再建資材をいつ確保できるかが、その後の作付けも左右しました。


「あの時、こうしておけば……」被災農家が後悔したこと、助かったこと


2016年の熊本地震で被災した九州の野菜農家では、消防団として地域の活動に奔走する中、自分の生活や本業への手当てが後回しとなり、収穫予定だった白菜を廃棄したそうです。九州農政局の記録では、この経験を振り返り、自分の生活と本業を先に立て直すべきだったとの趣旨が語られています。

同じ熊本地震では、水田の亀裂や隆起、用排水路などの被害で水稲を作れなくなった地域が、関係者で話し合い、その年から大豆へ作付けを切り替えました。復旧工事の間も大豆などの栽培を続け、2020年には一部で水稲を再開。2022年には全面再開しています。その時点で使える農地や水に合わせて作物を変え、営農をつなぎました。

2025年2月の大雪で被災した東北の農家では、被災直後に普段から付き合いのある資材業者へ連絡し、早い段階で再建資材を確保しました。水稲育苗用のハウスは約2か月後に再建。撤去にはJA職員が延べ40~50人加わり、再建には外部人材も使われました。日頃の取引関係と外部の人手が、再建を進める支えになりました。

さらに四国の柑橘産地では、2018年7月の西日本豪雨後、若手農業者が中心となって組織を立ち上げ、高齢農家などの農作業請負、作業人材の確保、被災園地で使う大苗の育成、農業引退者からの園地引受けなどに取り組みました。国の資料では、2年生の大苗を使い、植え傷みの軽減や未収益期間の短縮を図る取り組みも紹介されています。被災した農家ごとの復旧にとどまらず、産地全体で園地や人手を支える動きへ広がりました。

こうした記録からは、被災後に助けになったのが設備だけではなかったこともわかります。作付けを変える、普段の取引先へ早く連絡する、外部の人手を借りる、地域で作業や苗木を補うなど、その場の条件に合わせた動きが営農再開を支えていました。



災害が違っても、被災農家に共通する「備えておきたいもの」


過去の被災記録には、電気や水が止まったときの代わりを用意していたことで、営農を続けられた例があります。関東の施設園芸農家では、東日本大震災後に自家発電機を備え、その後の台風による停電時に、かん水やハウスの換気に使いました。東北の農家では、井戸水が使えなくなった経験から井戸を増やし、2系統の水脈を利用しています。

ただし、備えておきたいのは設備だけではありません。どの仕事を先に戻すのか、作付けや販売先を変えられるか、経営主が動けない場合は誰が代わるのか、復旧に使う資金をどうするのかまで決めておくことも、営農再開に関わります。

農林水産省では、こうした内容を書き込める「農業版BCP(事業継続計画)」やチェックリスト、簡易版の様式を公開しています。

まずは「止まると困る仕事」と代わりを決める


自分の農場で災害後に先に戻したい仕事を洗い出しましょう。

施設園芸ならかん水や換気、水稲なら用水や乾燥・調製、露地野菜なら収穫や定植、果樹なら収穫や防除など、長く止めると営農に響く仕事は異なります。どの仕事を、どのくらいの時間までに再開したいのかを書き出しておきます。

そのうえで、電気や水、農機などが使えない場合に何で代用するのかも決めておきます。発電機や複数の水源を備えた農家の例のように、自分の経営で止まると困るものから代替手段を考えていきます。

作付け・販売先・人手は一つに頼りすぎない


作付けや販売先についても、別の選択肢を用意しておきます。国の事例集には、取引先を複数持つ農家や、冠水しやすい圃場で早期米へ切り替えた例が掲載されています。一つの出荷先や作型だけに頼らず、災害時に別の選択肢を取れるようにしておくことも、営農を続けるための備えです。

経営主がけがや避難などで農場に行けない場合に、誰が代わりに動くのかも決めておきます。国が公開している様式には、責任者だけでなく代理者を書く欄があります。農機の鍵、水を止める場所、取引先の連絡先、重要書類の保管場所などを経営主しか知らなければ、その人が動けないだけで仕事が止まることがあります。家族や従業員など、代わりに動く人が使える形で情報を共有しておきます。

資金と被害記録まで備えておく


資金も営農再開を左右します。収入保険は、青色申告を行っている農業者を対象に、自然災害など農業者の経営努力では避けられない収入減少を補償する制度です。農業共済は、米や麦、畑作物、果樹、農業用ハウスなどについて、自然災害などによる損失を補償します。

国の事例集には、豪雨後に収入保険の補てん金を受け取った農家や、つなぎ融資を肥料代などに充てた例も掲載されています。加入している制度と連絡先を把握しておけば、被災後すぐに相談へ移れます。

復旧費の支援を受ける際には、被害の記録を求められる場合があります。国の被災農業者向け支援では、制度によって、施設や農機の被害がわかる写真、発注書、納品書、請求書、領収書などの保存が求められます。壊れたハウスや農機を撤去する前に写真を残すなど、被害を証明できる資料を残しておくことが、その後の手続きに関わります。

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こうした備えは、一度決めれば終わりではありません。農林水産省は少なくとも年1回の見直しを示しています。作る作物、使う農機、取引先、家族や従業員の体制が変われば、災害時に取る行動も変わります。実際の農場と内容がずれていないか、定期的に見直しておきましょう。



「災害に備える」より「被災した自分を想像する」


災害後、必ずしも被災前と同じ形に戻せるとは限りません。過去には、作付けを変えたり、外部の人手を借りたり、地域で園地を支えたりしながら営農を再開した例がありました。

だからこそ、すべてを万全に備えようとするのではなく、自分の農場で最低限何を準備しておくかを決めておくことが大切です。優先する作業、連絡先、代わりに動ける人、使える制度など、被災直後に動くための情報だけでも整理しておけば、次の行動を取りやすくなります。

大きな災害では、近隣の農家や業者も同時に被害を受けることがあります。普段から地域内だけでなく、離れた地域の農業者や取引先ともつながりを持っておくことも、いざというときの選択肢になります。

災害そのものを防ぎきることはできません。それでも、被災後に何を続け、何を変え、誰に頼るのかを平時から考えておけば、農業を続ける道を残しやすくなるはずです。


参考資料
農林水産省「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCPについて」
農林水産省「もし明日、災害が起きたら~事例と対策からみる農業版BCP策定のヒント~」
九州農政局「熊本地震を乗り越えて~農業者の応援メッセージと復旧・復興事例~」
農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書(令和5年5月26日公表)」
中国四国農政局「令和6年度国営土地改良事業再評価」
農林水産省「令和5年度農地利用効率化等支援交付金(被災農業者支援タイプ)」
農林水産省「令和8年熊本地震に関する情報」
関東農政局「令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に対する金融上の措置について(千葉県)」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。