8〜9月に見直したい「柑橘収穫」の負担を減らすアシストスーツ・収穫鋏の選び方

柑橘類の収穫では、腕を上げたまま果実を採る、前かがみになる、脚立を昇り降りする、収穫かごやコンテナを運ぶといった動作が続きます。収穫期の後半になるほど、腰や肩、腕、手首に疲れがたまり、作業のペースを保ちにくくなることもあります。

こうした負担を和らげる選択肢として、アシストスーツや収穫鋏(ハサミ)、高枝採果鋏などが挙げられます。ただし、一つの道具だけで収穫作業のすべてを支えられるわけではありません。

この記事では、これからの収穫最盛期に向けて、柑橘収穫を「もぐ・切る・運ぶ」の工程に分け、道具を使わない作業からアシストスーツや収穫鋏を取り入れやすい作業まで、選ぶ際のポイントを整理します。



高い実を無理に採らない! 脚立と高枝採果鋏の使い分け


手もぎは、果実の状態を確かめながら収穫できる、柑橘栽培に欠かせない作業です。道具を取り入れる場合も、手もぎそのものを一律に置き換えるのではなく、腕を上げ続ける時間や、脚立上での無理な姿勢を減らす補助として考えます。

高い位置や樹の内側にある果実を採るときは、無理に手を伸ばさず、脚立を移動する、高枝採果鋏を使うなど、姿勢を崩さずに届く方法を選びます。

脚立は地面が安定した場所に設置し、開脚防止チェーンを確実に掛けます。天板には乗らず、身を乗り出さなければ届かない場合はいったん降りて位置を変えましょう。傾斜地では、脚の接地状態やぐらつきも確認します。

高枝採果鋏は、長ければ使いやすいとは限りません。道具が長く、重くなるほど、腕や肩に負担がかかり、枝葉への引っ掛かりや重心のぶれも起こりやすくなります。園地の樹高や樹形に合う長さか、実際の作業で確かめて選ぶことが大切です。

(イラスト:SMART AGRI編集部 作成:ChatGPT)

収穫鋏は「果実を傷つけない」「手が疲れない」で選ぶ


温州みかんなどの収穫では、最初に果柄を少し長めに切り、手のひらに載せて残った果柄を切る「二度切り」が行われます。果柄が長く残っていると、コンテナ内でほかの果実に当たり、傷の原因になります。

収穫鋏を選ぶ際は、切れ味だけでなく、刃先が果実に触れにくく、果柄を狙いやすい形状かを確認します。果実を傷つけにくいことと、安全に扱えることの両方が重要です。

手の疲れは、ハサミの重さだけでは決まりません。グリップの太さ、刃の開き幅、バネの強さ、切断時に必要な力も影響します。普段使う手袋を着けた状態で握り、開閉を繰り返して、指や手首に無理がないかを確かめましょう。

手の大きさや握力は作業者ごとに異なります。共用品を一種類にそろえるより、それぞれに合うハサミを用意した方が、長時間の負担を抑えやすい場合もあります。

収穫前には、刃こぼれや部品の緩みも点検しましょう。サビついたり動きが悪くなって切れにくいハサミは余計な力が必要になり、手の疲れや果実の傷、思わぬケガにつながります。研磨や部品交換が必要なものを事前に分けておくと、繁忙期に慌てずに済みます。

電動鋏は主に剪定作業に使う機器であり、採果用の収穫鋏とは用途が異なります。使用する場合は、刃やバッテリー、スイッチなどを点検し、製品の取扱説明書に沿って扱いましょう。



アシストスーツが役立つのは「収穫」より「運搬」?


アシストスーツは、腰や背中にかかる負担を補助し、重量物の持ち上げや運搬を支える機器です。柑橘収穫では、果実を一つずつ採る細かな動作よりも、コンテナの積み込みや積み上げ、資材の運搬などで活躍します。

静岡県浜松市のJAみっかびなどが参加した農研機構スマート農業実証プロジェクトでは、温州みかんのコンテナ積み込み作業にアシストスーツを使用しました。作業時間の短縮は確認されなかったものの、背中の筋肉疲労が軽減され、重量物を繰り返し扱う作業者の身体的な負担を支える可能性が示されています。

愛媛県のJAにしうわスマート農業研究会でも、資材運搬や選果・出荷作業にアシストスーツを取り入れ、持ち上げ作業などで軽労化が検証されました。

和歌山県のウメ・みかん複合経営の例では、コンテナへの投入から積み上げまでを一連の作業として見ると、着用時の作業時間が36%短縮したという報告もありました。ただし、投入だけでは作業時間が増えており、どの工程で使うかによって結果が変わることもわかります。

こうした実証から、アシストスーツは収穫中ずっと装着するより、特に負担の大きい工程を選んで使うことがポイントだとわかります。効果は機種や持ち上げる高さ、移動距離、園地の傾斜、作業者の体格によっても変わります。

導入前には、実際の園地で歩行や持ち上げ、荷物の受け渡しを試し、枝や収穫かご、通路と干渉しないかを確認しましょう。作業時間だけでなく、作業後の疲れ方、着脱のしやすさ、別の部位に負担が移っていないかも見ておくと、自分の園地で使いやすい工程を判断しやすいでしょう。

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アシストスーツは補助対象になる? 購入前に確認したい制度と条件


アシストスーツや電動機器は、国や自治体の省力化・スマート農業関連の支援制度で、補助対象になる場合があります。ただし、対象者や対象機種、補助率、申請時期は制度によって異なります。

東京都の2026年度「農作業省力化推進事業」では、農作業に使う機器の例として、センサーを搭載していないアシストスーツが挙げられています。栃木県上三川町の「スマート農業技術導入支援事業」でも、農業用アシストスーツが対象です。

ハサミでは、秋田県横手市の2026年度「果樹産地再生等事業」で、電動剪定鋏が対象に含まれました。ただし、これは主に枝を切る剪定用であり、果柄を切る一般的な手動の収穫鋏とは用途が異なります。

中小企業省力化投資補助金のカタログ注文型にも、労働負担軽減に関する製品区分がありますが、農業者の申請資格や農作業での用途が認められるかは個別に確認が必要です。

こうした補助制度を使う際には、交付決定前に発注や購入をすると対象外になる場合があります。購入予定の製品名、使用する工程、見積書などを準備し、自治体、農業改良普及センター、JA、制度事務局へ早めに相談しましょう。

また、補助対象になることと、その機器が自分の園地に合うことは別の問題です。制度の利用を前提に機器を決めるのではなく、実際の作業で使いやすさを確かめたうえで、導入費用と支援内容を比較することが大切です。



まずは「もぐ・切る・運ぶ」のどこがつらいかを見直そう


柑橘の収穫では、果実をもぐ姿勢、果柄を切る反復動作、コンテナを運ぶ作業それぞれに便利な道具がありますが、得られる効果は機種や作業者の体格、園地の傾斜、樹形、使う工程によって変わります。「もぐ・切る・運ぶ」のどこに負担が集中しているかを整理し、その工程に合う道具を試すことが大切です。

道具の性能や補助金の有無だけで判断せず、実際の作業で疲れ方や動きやすさ、果実への影響を確かめましょう。担当工程の交代や休憩、コンテナを置く高さの調整も組み合わせることが、品質を守りながら収穫期の負担を減らすことにつながります。


参考資料
農林水産省|スマート農業
農林水産省|スマート農業技術活用促進法について
農林水産省|農業経営支援策活用カタログ2026
農林水産省|みかん農家の朝
農林水産省|脚立(三脚)使用の5つのポイント
農研機構|スマート農業実証プロジェクト・アシストスーツ
農研機構|中山間地におけるみかん経営の収益向上および省力スマート生産技術体系の実証
農研機構|未来型柑橘生産に向けたAI等先端技術の導入によるスマート営農体系の実証
農研機構|ウメ専作およびミカンとの複合経営におけるスマート作業体系の実証
農研機構|レモンにおけるスマート農業機械等の一貫作業体系の実証
中小企業省力化投資補助金|製品カタログ


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。