水田の均平化を“委託”してわかったこと──浅水管理と作業負担、ジャンボタニシ被害はどう変わった? 【千葉県長生村・木島さんの事例・後編】

千葉県長生郡長生村で水稲を栽培する木島浩之さんは、ジャンボタニシ被害や水管理の難しさをきっかけに、農作業委託サービス「アグリポン」で水田の均平化を委託。水管理のしやすさ、ジャンボタニシ被害の軽減といった効果を感じています。

前編はこちら:
水田の均平化でジャンボタニシ被害はどれくらい減る? 作業委託で実現した均平化の成果 【千葉県長生村・木島さんの事例・前編】

とはいえ、均平化は作業が終わった瞬間に効果を実感できるものではありません。田植え前のトラクター作業、水を入れた後の浅水管理、田植え後の生育状況、ジャンボタニシの動き方。そうした一連の作業や確認を通して、はじめて「田んぼが変わった」と実感できます。

後編では、均平化作業の委託内容、実際の仕上がり、田植え前後の作業性、生育や水管理の変化、そして木島さんが感じた「委託する価値」についてうかがいました。

千葉県長生郡長生村で米農家を営む木島浩之さん(写真:SMART AGRI編集部)

高低差を見える化し、夜間の約3時間作業で均平化完了


今回、木島さんが均平化を依頼したのは、5反と6反の2筆。2025年末から木島さんが準備を始め(前編参照)、実際の作業は土が乾いた2026年2月下旬に行われました。

まず専用のレベラーを使って圃場の高低差を把握するところから始まりました。初めての委託ということもあり、木島さんも6反歩の圃場で一連の作業が行われる様子を確認しました。

「トラクターで圃場の全面を走り、低いところ、高いところを確認して高低差マップを作成。それをもとにレベラーで土を動かしていく、というのが均平化作業の流れでした。

高低差マップを作る作業自体は、20〜30分ほどで完了。できたマップも見させていただいたのですが、高いところから低いところまでが色分けされていて、その時点でかなりばらつきがあったことがわかりました。その後の均平化の作業は3時間くらいで終わったと聞いています」

「聞いた」というのは、実際の作業は夜間に行われたため。木島さんが確認したのは昼間の作業開始時と、翌日に仕上がった圃場のみで、立ち合いなどは必要ありませんでした。


トラクター作業で実感した均平化による圃場の変化


均平化が終わった後、木島さんは通常の田植え前作業に入りました。

ブロック沿いに寄った土を内側へ戻し、畦塗りを行い、初期肥料をまく。その後、一度だけロータリーで土を起こし、水を入れて代かきをしました。ここまでの作業の流れ自体は、いつもやっていることと大きく変わりません。

では、均平化した圃場とそうでない圃場で、違いは感じられたのかをうかがうと、「トラクターで走行する感覚が全然違いました」と木島さん。見た目に平らになっただけでなく、地盤がしっかり締まっていたといいます。

「引き締まっているので、トラクターで走った時に轍ができることがないんです。乗った時点で明らかに違いが体感できました」

均平化という言葉からは、田面の高さをそろえるだけの作業と見られがちです。しかし、圃場に入ったときの安心感がかなり大きかったとのこと。

地盤が緩いと、トラクターや田植機が深く沈み込んだり轍ができてしまい、その後の水管理や田植えにも影響してきます。均平化後の圃場はそうした不安が少なく、通常作業も全般的にしやすくなっていました。


「あそこの田んぼ、何したの?」ジャンボタニシ被害がほぼ皆無に


今回均平化した5反の圃場には4月17日にふさおとめを、6反の圃場には5月12日ににじのきらめきを移植しています。取材した6月18日時点で1〜2カ月ほど経過していましたが、均平化した圃場はどちらも生育ムラがなく均一に育っていました。

その変化を最も感じたのは、実は木島さんではありませんでした。前年までのその圃場の状態を知っており、ジャンボタニシの被害に頭を悩ませていた周辺の圃場の生産者から、前年とまるで違う様子を見て質問が相次いだのだそうです。

「同じ地域で、同じ水路を使って、同じ品種を植えている生産者から、『あそこ、今年は何を植えたの?』と聞かれるんです。前作の状態を見ていた方が多いので、疑問に思われたようでした」

それくらい被害が防げたとはいっても、実はジャンボタニシ自体がゼロになったわけではありません。近隣の圃場や水路を歩けば、そこかしこにピンク色の卵、大きなタニシの姿が目につきます。ただ、木島さんの均平化を施した圃場では、明らかに見かける数が少なくなりました。

「ゼロではなくて、今でも田んぼにジャンボタニシはいます。ですが、数としてはゼロに近いくらいで、苗の食害はほぼ皆無でした。私の圃場内で卵を見る数も少ないですし、確実に効果は出ています」

取材時に木島さんの圃場で見つけたジャンボタニシ。ここまで稲が生育すればほとんど食害の被害はないが、生息はしている(写真:SMART AGRI編集部)

委託した均平化の成果は「予想以上」


木島さんは、今回の均平化の作業委託の結果について、「見た目だけなら予想通りですが、一連の作業全体を含めて考えると予想以上の成果でした」と評価しています。

「ジャンボタニシ対策以前に、まず水が全体にまんべんなく行き渡る上に、本当に浅水で管理できるようになりました」

田面に高低差があると、低い場所には水が留まり、高い場所には水が届きにくくなります。低い場所ほど水深が深くなりがちです。単に田んぼがきれいに見えたというだけでなく、均平化後にトラクターで入り、田植えまでの作業を行い、水を管理しながら苗が育つのを見て、ジャンボタニシの様子を確認する。こうした流れ全体の中で、均平化したことの効果がはっきり見えたといいます。

取材した6月時点で均平化した圃場の様子。生育のばらつきなどもほとんどなく、均一に育っていた(写真:SMART AGRI編集部)
「トラクターで均平化してから、苗を植えて、今に至るまでの一連の作業を、実際に車両に乗ったりして実感すると、予想以上に感じられました」

均平化はわずか1回の委託作業でしかありません。しかし農家にとっては、その後の半年、1年、それ以上先の作業のしやすさにもつながる土台にもなります。


春作業の負担も軽減


均平化してみたいという時に問題になるのは、機械の有無だけではありません。さまざまな作業が重なりがちな作業時期も大きな課題でした。

「『春に均平化を実施するとなると、作業が詰め込まれて田植えまでの時間が取れなくなるぞ』と、先輩方からも言われていました。長生村のこの地域は年明け前には全然乾かないので、年を越してから田植えの準備を始めるのですが、そうなると均平化とほかの作業がバッティングしがちなんです」

だからこそ、「アグリポン」の均平化作業代行サービスによって作業を丸ごと委託できたことが、労力軽減とジャンボタニシ被害軽減にうまくつながりました。

「今回は委託だったので、うまく作業時期が重なるのを防げました。『終わりました』という連絡を受けて、翌朝現場を見に行ったら作業が終わっているというのは、体に負担もなくてありがたかったです」

約20haをひとりで管理する木島さんにとって、作業時間の確保も経営上の大きな課題でもあります。専門性が求められる作業を外部に任せられることで、ほかの作業に集中するための選択肢も広がるといいます。


信頼できるオペレーターに任せたい


一方で、自分の圃場を外部に任せることにはやはり不安もあったと木島さん。

水田の均平化は、その後の田植えや生育はもちろん、圃場の管理全般に関わる作業です。もし仕上がりが良くなければ、影響はその年の作業全体に及びます。だからこそ、作業するオペレーターの熟練度が重要だと考えていました。自分がやらない作業だからこそ、相手がどのような経験を持ち、どの程度現場を理解しているのかが最も気になる部分だったのです。

「委託してお金を払っている以上、自分を超えたレベルでやってもらえないと……という気持ちはありました。でも、今回作業を担当いただいた方は予想を超えて、しっかり対応してもらえました」

作業当日、木島さん自身もオペレーターの作業の様子を最初だけ観察しましたが、レベラーが砂を抱えた時や負荷がかかった時の対処を見て、安心できると感じられたことも、任せるうえでの信頼につながりました。

農作業の委託は、作業料金だけでなく「誰が、どのように作業するのか」も重要です。木島さんの言葉からは、委託先への信頼が、作業後の満足度に直結していることが伝わってきました。


均平化することで見えた新たな課題


もうひとつ、均平化によってう鍵上がってきた反面、新たな課題も見えてきました。

「均平化の作業中に、圃場の中に埋まっていた石など、これまで表面に出ていなかったものが移動したり、見えるようになったりする場合があるんです。今回も、借り受けた6反の圃場から大きな岩が出てきました。その状態でも生育に問題はありませんでしたが、回収などの対応が必要になることもありますね」

木島さんは、その点も踏まえると、一度やって終わりとはならないとも考えています。均平化は圃場を整える大きな一手ですが、圃場の中にあるすべての課題を一度で解消できるものではありません。作業後に見えてきた課題を確認し、必要に応じて手を入れていく。その前提で取り組むことが重要です。

今回の成果を受けて、木島さんは自分が管理している別の圃場での均平化も検討しています。

「候補となる圃場は、前作の方と耕作交換した場所や、今後も作り続ける予定で高低差が気になる圃場など、約8haほどあります。今後も借り続ける予定の圃場なので、早いうちに対処して、安定して耕作できるようにしたいんです」

木島さんの事例は、均平化委託が水田管理の大きな助けになる一方で、圃場条件を見極めながら進める必要があることも示しています。

水管理が難しい圃場、ジャンボタニシ被害が出やすい圃場、新しく引き受けたばかりでクセがわからない圃場。そうした田んぼを安定して作れる状態に近づけるために、均平化は有効な選択肢のひとつとなるでしょう。

圃場をリセットしてジャンボタニシ対策にも貢献
アグリポンでは、水田の均平化をはじめ、圃場条件や作業時期に応じた
農作業委託の相談を受け付けています。
水圃場確認や作業時期、活用できる補助事業の有無も含めて、まずはお気軽にご相談ください。
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。