「出荷ロス1割減」で利益はいくら変わる? 柑橘防除の採算ラインシミュレーション

8月以降は、極早生・早生品種で収穫が近づく一方、秋から冬に出荷する品種では、収穫までの防除や果実管理が続きます。この時期は、目の前の病害だけでなく、収穫時の傷、選果で除かれる果実、貯蔵中に発生する腐敗まで含め、最終的に販売できる果実をどれだけ残せるかを考えることが大切です。

追加防除には、薬剤費や燃料費のほか、散布する人員と時間がかかります。腐敗がどの程度発生するかわからない段階で、追加費用をかける判断は簡単ではありません。

仮に追加防除によって腐敗を抑えられても、増えた販売額が防除費を下回れば、手取りは増えません。本当に知りたいのは、「何kgの出荷ロスを減らせば、防除費を回収できるか」です。

そこで本記事では、10a当たりの追加防除費と自園の平均精算単価を使い、例として「出荷ロスを1割減らせた場合の販売額と損益分岐点」をシミュレーションしていきます。

※「1割減」は防除効果を示す数値ではなく、採算を比較するための試算条件の例です。採算ラインを導き出すために参考にしていただければ幸いです。


「出荷ロス1割減」を金額に直してみる


まず、自園で前年に腐敗して販売できなかった数量をもとに、具体的な金額に当てはめてみましょう。

10a当たりの販売量に換算し、その10%を「腐敗を免れた数量」と仮定すると、

腐敗を免れたと仮定する数量
=前年の腐敗量×10%

となります。その果実を生果として販売できた場合、増える販売額は、

増える販売額
=前年の腐敗量×10%×自園の平均精算単価

という式で求められます。

前年の腐敗量や平均精算単価は、園地別の選果記録や、JA・出荷組合の精算書から確認します。一般的な腐敗量を当てはめるのではなく、自園の実績を使うことで、「1割減」が何kg、何円に当たるのかを自分ごととして把握できます。

傷や外観不良がある果実のすべてが販売できなくなるわけではありません。食味や日持ちへの影響が小さければ、下位等級や家庭用として販売できる場合もあります。生果の規格から外れても、加工先の受入基準を満たせば、果汁やジュースなどの原料に回せることもあります。

そのため、腐敗を免れた果実が下位等級や加工向けになる場合は、生果の平均精算単価をそのまま使わず、実際の販売単価や等級間の単価差で計算します。

比較できる記録がない場合は、まず腐敗によって生果にも加工にも回せなかった数量を中心に試算すると、追加防除の採算をとらえやすくなります。


「追加防除費1万円」の損益分岐点は約29kg


次に、追加防除費を回収するために必要なロス削減量を逆算します。

必要なロス削減量
=追加防除費÷自園の平均精算単価

ここでは計算例として、平均精算単価を350円/kgと仮定します。これは統計上の平均値ではなく、計算方法を示すための試算単価です。

薬剤費、燃料費、散布作業費を合わせた追加防除費が10a当たり1万円とすると、費用回収に必要な数量は約29kgとなりました。

1万円÷350円/kg=約29kg

追加防除費が2万円なら約57kg、3万円なら約86kgが損益分岐点になります。

2万円÷350円/kg=約57kg
3万円÷350円/kg=約86kg

つまり、それぞれの追加費用を回収するためには、29kg、57kg、86kgの生果を販売につなげる必要があります。

最後に、出荷ロスを1割減らした場合の利益を、増える販売額から追加防除費を差し引いて求めます。

利益の増加見込み
=前年の腐敗量×10%×自園の平均精算単価-追加防除費

ここまで計算してみて、計算結果がプラスなら、出荷ロスを1割減らせた場合に防除費を回収できる試算です。マイナスなら、1割の削減だけでは費用を回収できません。実際の計算では、平均精算単価と追加防除費を自園の数字に置き換えてみてください。

前年の腐敗量が少ない園地では、同じ1割減でも増える販売額は小さくなります。園地間で比べる際は、腐敗量を10a当たりに換算し、販売単価や追加防除費の条件もそろえて確認します。



8月以降の腐敗対策は園地ごとに判断する


収穫前の薬剤散布によって、緑かび病などの発生を抑えることは誰もが行っているでしょう。

しかし、実際に減らせる腐敗量は、使用する薬剤、散布時期、薬液の付着状況、果実の傷、収穫後の管理などによって変わり、単に追加防除を行えば、一律に出荷ロスが1割減らせるというわけではありません。

そのため、8月以降の腐敗対策としては、前年の園地別腐敗量に加え、当年の天候、地域の病害発生情報、果実の状態、収穫までの日数、貯蔵の有無などを確認しましょう。

その際、すべての園地へ同じ防除を追加するのではなく、過去に腐敗が多かった園地、貯蔵を予定する果実、比較的高い単価で販売する品種などから優先的に検討します。

逆に、前年の腐敗量が少なく、加工向けの販路も確保されている園地では、防除費を回収できるだけの改善が見込めるかを確認しましょう。



防除費ではなく「いくら守れるか」で決める


8月以降は、防除と収穫準備が重なり、自園の人員だけでは予定した時期に散布できない場合があります。その際は、散布作業の外部委託という選択肢もあります。

園地の立地や周囲の雑木の状態、電線などの設備、使用する薬剤の条件が整えば、ドローンによる散布を検討できるでしょう。

ただし、委託の場合は、薬剤費と委託料を合わせた総額を追加防除費として計算する必要があります。委託料が加わる分、費用回収に必要な販売数量も増えます。

一方、必要な時期に散布できることや、自園の人員を収穫準備へ振り向けられることも、ドローン防除を委託するメリットです。単に委託料だけでなく、対応できる園地や薬剤、散布条件、費用を確認し、自家散布と比べましょう。

散布後は、園地ごとの腐敗量、等級別の出荷量、加工向け数量、精算単価を記録します。追加防除費と実際に増えた販売額を照らし合わせれば、その防除が手取りにつながったかを確認できます。

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今回は「出荷ロスを1割減らしたときの利益」というテーマでしたが、実際の利益は割合だけでは決まりません。自園の腐敗量、販売単価、追加防除費によって変わります。

何kgの果実を販売につなげれば費用を回収できるのかを先に計算し、その数量を守れそうな園地と散布方法を選ぶことが、追加防除を「コスト」ではなく「手取りを守る投資」として考える第一歩です。

計算自体は非常にシンプルですが、実際に計算してみることで、自分の経営のリアルな数字が見えてしまう怖さもあるかもしれません。ですが、今までどおりに農産物を作っていればいいという時代は終わりました。

なんとなく行ってきた防除の成果を、しっかり数値として確かめることで、さらなる投資や規模拡大などを考えるきっかけになれば幸いです。


参考資料
農林水産省|農薬登録情報提供システム
農林水産省|農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令
農林水産省|農薬コーナー
農林水産省|ドローンで使用可能な農薬
農林水産省|無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報
農林水産省|農業支援サービスにおける標準ガイドライン
農林水産省|青果物卸売市場調査


収穫前の防腐剤散布を委託する選択肢
収穫準備などの作業が重なり、自園で適期に散布することが難しい場合は、
ドローンによる防腐剤散布の委託も選択肢の一つです。
対応できる園地や薬剤、散布時期、費用を確認し、
自園で散布する場合と比較してみてください。
平均精算単価から費用回収に必要な数量を計算すると、
委託が採算に合うかを判断しやすくなります。
▶ ドローンによる防腐剤散布の対応内容・相談はこちら 相談・問い合わせ(フォーム)


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。