農業のフランチャイズ化は可能か? 【フードカタリスト・中村圭佑のコラム 第2回】

SMART AGRI読者の皆様、こんにちは。FOOD BOXの中村圭佑です!

前回は、世間の人たちが持つ「農業コンサルタント」のイメージについて触れていきました。今回はもっと具体的な話に進んでいこうと思います。


「食・農業界にはチャンスがたくさん転がっている」

私は常々そのように考えていますが、皆さんはどうお考えでしょうか?

ここでいうチャンスとは、取り組み方を変える、他業界のビジネスモデルを学び農業界に活用できないか考える、必要なテクノロジーを活用する等、これから工夫・改善していくことでより良くなっていく可能性を指しています。

今回は、「食・農業界と異業種の繋ぎ役である」“フードカタリスト”として、ある農業法人様と現場レベルで取り組んでいる具体的事例について、公開可能な範囲でご紹介したいと思います。

お客様の新規圃場にて、土壌確認と攪拌作業(撮影:FOODBOX)

限られた条件のなかで供給量を増やすには?

まず、読者の皆さんにひとつ質問です。

皆さんが直販を行っている野菜農家さんだと仮定し、あなたの野菜が大人気で、契約スーパー・飲食店・個人客等からの需要に対して供給量が追いつかないという場合、どのような対策や解決を考えますか?

多くの方が、「栽培面積を増やす」「反収を上げる」といったように、自社の生産面での解決手段が一番早いと考えられるかもしれません。もちろん、この解決手段は正しく間違いではありません。

では、前提条件を追加し、次のような環境の場合、どのような解決策が考えられるでしょうか?

「中山間地域に位置しており、自社圃場や周辺で栽培面積を増やすには限界がある」
「反収は既に限界値に達している」

上記の場合、供給量を増やすことは難しいと考える方が多いと思います。

もしかしたら、「周辺農家の同じ農産物を仕入れて、それを自社品として販売する」こともできるかもしれませんが、栽培方法や管理方法も違うため、味も見た目も異なる。これは厳格には自社農産物とは言えず、お客様を裏切ることになってしまいます。

こういった課題を解決するヒントとして、「森のアスパラ」で有名なA-noker(ええのうかー)株式会社の安東浩太郎 社長との取り組みをご参考までにご紹介していきます!


前職の経験から生まれた農業のFC(フランチャイズ)化

まず、安東浩太郎さんについて、簡単にご紹介させていただきます。

A-noker株式会社・安東浩太郎さん

A-noker株式会社・安東浩太郎さん(A-nokerにて撮影)
・福岡県北九州市出身、実家は農家ではなくサラリーマン家庭
・大学を卒業後、大阪で不動産企業に勤め、その後新規就農した脱サラ農家
・就農された地域は、奥様・安東美由紀さんの地元佐賀県藤津郡太良町で、ゼロから農業を始め、約9年間でアスパラガスの全国トップ農家に駆け上がった
・農地の獲得、栽培技術の確立、収益の確保等多くの苦労を経験し、その経験を一人でも多くの方に共有し、多くの方が農業で儲ける状態を作ることが夢

2019年の秋に安東さんにお会いした際に、「需要に対して供給が追い付かない」「自社圃場での面積拡大は限界がある」という課題に加え、「儲かる農業の確立」新規就農者や異業種参入を増やしたい」というご要望・ご相談をいただきました。

このようなご相談をいただいた際、私が真っ先に考えたのが、不動産業やコンビニ等の異業種が多く採用するFC(フランチャイズ)モデルの農業版でした。

FC(フランチャイズ)モデルというのは、その商品・サービス等を提供したい人・法人が、その仕組みやノウハウを持っている会社等から、商品・サービスを使う権利をもらい、その対価を支払うという仕組みです。

安東さんも不動産業界のご経験からか、最初からFCモデルを考えられていました。異業種での経験がなかったら、なかなか思いつかないモデルかもしれませんが、きちんとした仕組みを作れば農業も体系化でき、うまくビジネスとして回ると確信していました。

FC(フランチャイズ)というと、いわゆるコンビニのような上下関係があるイメージを持たれる方が少なくないかもしれません。そこで、我々はPC(プランチャイズ)と名付け 、「P」は“Partner(パートナー)”“Plan(計画)”を意味し、「パートナーと共に計画に基づいた事業展開を行う」ことを目指し進めているところです。

図1:A-nokerの企画書より引用
まず、このPC(プランチャイズ)は、下記のようなお客様を対象としています。

  1. 新しい作物としてアスパラを始めたい農家・農業生産法人様
  2. 新規就農を始めたい方
  3. 農業事業を始めたい一般企業様

特に、1は既存農家さんで、他作物で収益が上げられていない等の課題をお持ちの方々からご相談をいただいています。2のお客様は現状いらっしゃいません。

3については、地域に根差した事業を行われている中小企業様、業種でいうと福祉法人、リサイクル業者様等が多い状況です。社会福祉法人様は農福連携、またリサイクル業者様は自社でお持ちの有機肥料の活用と、すべて農業と親和性があるという点が重要な観点だと考えています。


ゼロから農業を始める人たちの不安を取り除きたい


安東さんが脱サラして農業を始められた際、また多くの方が農業自体を始める、新規作物の栽培を始める場合の課題として、「農地の獲得が難しい」、「栽培技術がわからない」、「販路が確保できない」といったことに直面されていました。

そこで、A-nokerでは、「栽培技術がわからない」、「販路が確保できない」のハードルを取り除くため、この二つへの解決策を提供することを考え、栽培技術の体系化・言語化、パートナーさんに販路の提供ができる体制を整えたのです。

  1. 独自の栽培暦、栽培マニュアルを作成し、栽培ノウハウの言語化・可視化を行った
  2. A-nokerが持っている販路ネットワークをまとめ、パートナー様からA-nokerの売り先に供給できる体制を構築(一部調整中)

上記図1のように、A-nokerとして栽培ノウハウのみならず、生産サポート、営業・販売代行、出荷・オペレーションサポート、ブランディング等、必要に応じて手厚いフルサポートを行っています。

つまり、「全く農業技術がない方々でも安心して農業を始めていただけ、農産物の買取り保証を行い、必要な販路も提供する」ということが可能になりました!

農業にはご存じのように、地域ごとに水質・土壌・天候等、生産を左右する多くの要因があり、本当にA-nokerと同レベルのアスパラができるのかと疑問を持たれる方がいらっしゃるでしょう。

しかし、安東さんレベルのプロ農家になると、目で見て、さわってなど、五感を使い土の状態を把握し、土壌分析結果を見てアスパラガス栽培にベストな土壌状態に微調整ができます。よって、そのパートナーの地域に適した栽培環境をご提供できています。

お客様の苗圃場にて、ボランティアの方と植替え作業(撮影:FOODBOX)
2020年1月よりパートナー探しをスタートし、2020年7月時点で全国4県・7パートナーが我々の仲間として加盟しました。また、そのうち2社は異業種からの農業への新規参入であり、本当にゼロベースの農地探し、ハウス建設、土作り、苗栽培等をご一緒しています。


“仕組み”と“想い”で農業を変える

「農業のフランチャイズ化は可能か? 」については、高度な栽培技術をベースに、きちんとした栽培の仕組み作り、栽培・収穫・出荷等のサポート体制が整っていれば可能だと考えています。また、その仕組みを定着させるために活動できる人材が社内外にいることも重要です。

もう1点重要なのは、パートナーになっていただく方の「地域に対する想い」と「農業ビジネスに対する理解」だと考えています。

要するに、農業は他業界と違い一気に売上高が伸び、数億円の利益が残るというようなビジネスではありません。地道に農地を耕し、作物を育て、日々管理し、その結果として農産物が収穫できます。

近年の台風被害、水害等が発生した場合、収量0ということも発生しますが、これも農業では当たり前に起こりえることです。

また、農業は地域社会との共存を無視して成り立ちませんので、地域に貢献したい、一緒により良い地域環境を作りたいという想いも必要です。

まだ始まったばかりですが、一番早いパートナーはこの夏から収穫が始まり出荷しています。今後、A-nokerの「森のアスパラ」とパートナーのアスパラガスを全国にお届けしますので、ご期待下さい!

詳細なパートナーとの活動は、下部に記載の弊社インスタグラムにて順次ご紹介していますので、ぜひフォローしてチェックして下さい!

次回は、今回の農業版フランチャイズのように、海外における農業での取り組みをご紹介し、「世界から見た日本農業のここが変だよ」という点をご紹介いたします!


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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